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MaaSを中心としたドイツとスウェーデンの公共交通事情 (Taxi Japan 349号より)

タクシージャパン349

Taxi Japan紙の熊澤義一編集長は7月9日から22日にかけて北欧スウェーデンの首都ストックホルムとドイツのハンブルク、デュッセルドルフ、ベルリン、ミュンヘン、シュツットガルトなどの主要都市を訪問し、日本と同じ自動車生産大国ながら、地球温暖化などの環境問題への対策と持続可能な社会とするため、自家用自動車の削減を目的にMaaSを中心とした新たなモビリティサービスの取り組みが進みつつある状況を視察した。

ドイツの各都市では、自家用車ライドシェアは禁止されているものの、運転手付レンタカーの制度を利用したUber Xが登場し、自家用車ライドシェアと同様の移動サービスを提供していることから地元タクシー業界が強く反発している一方で、ドイツ連邦政府が日本と同じく郊外の交通空白地などにおける移動ニーズの受皿や新たなモビリティサービスの市場投入への対応などを目的に、旅客運送法の改正による規制緩和の検討を進めている状況にあることなどが分かった。

配車アプリを使ったオンデマンド型相乗りライドシェアを自動車メーカーのフォルクスワーゲンなどが市場投入を始めているほか、鉄道、地下鉄、路線バス、トラム(新型路面電車)、カーシェア、電動アシスト付シェア自転車、さらにはオンデマンド型相乗りライドシェアなどを含むMaaSの取り組みが、共通運賃制度を採用する各都市の交通連合とスマホアプリの組み合わせで実現している実態も分かった。

一方で、ドイツでもタクシーにはスマホ配車アプリが一般的に導入されて公共交通の一翼を担っているものの、MaaSの取り組みやオンデマンド型相乗りライドシェアなどの新たな移動サービスが市場投入されていく中で、「タクシーは旧来型の移動手段として蚊帳の外に置かれているのではないか」とも感じた。

本紙では、今号でスウェーデン・ストックホルムとドイツ各都市におけるMaaSを中心とした新たなモビリティサービスの取り組みが進みつつある状況の概要を第1回として掲載し、第2回がスウェーデン・ストックホルムのMaaS、第3回がドイツ・ハンブルクのオンデマンド型相乗りライドシェアMOIA、第4回がベルリン交通連合とドイツ鉄道のMaaS、第5回がベンツのシュツットガルトとBMWのミュンヘン(いずれも仮題)などとして連載する予定だ。

<本紙編集長=熊澤 義一>

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ヘルシンキや台湾のMaaS掲載


本紙では、今年2月25日号でMaaS発祥地であるフィンランド・ヘルシンキをルポしたほか、3月30日号では台湾・高雄と台北のMaaSを取り上げた。さらに4月25日号では、ダイムラーベンツのMaaSアプリ「moovel」をベースにしたアプリ「IZUKO」による静岡・伊豆の観光型MaaS実証実験を体験ルポした。

そうした中で、国土交通省は6月18日に「日本版MaaSの展開に向けて地域モデル構築を推進」として、先行モデル事業として19事業を選定した。令和元年は、日本のMaaS元年となりそうだ。

そこで本紙の熊澤義一編集長は7月9日から22日にかけて、ボルボやダイムラーベンツ、BMW、フォルクスワーゲンなどが本社を置き日本と同じ自動車生産国ながら、地球温暖化などの環境問題への対策と持続可能な社会とするため、自家用自動車の削減を目的としたMaaSの取り組みや、オンデマンド型相乗りライドシェアなどの新しいモビリティサービス、そしてカーシェアや電動アシスト付シェア自転車、シェア電動キックボードなどのシェアリングサービスが普及しつつある北欧スウェーデンの首都ストックホルムとドイツの主要都市を訪問し、MaaSを中心とした公共交通の活用と新たなモビリティサービスの取り組みが進みつつある状況を視察した。

地球温暖化問題に強い危機意識


日本でも夏の猛暑がニュースとして取り上げられている状況だが、ヨーロッパも記録的な猛暑に襲われるようになっている。本紙編集長が訪問したスウェーデンのストックホルムやドイツのハンブルク、ベルリンなどにあるホテル、地下鉄車両などの多くにはエアコンなどの冷房設備が無いケースが多く、夏でも朝夕は涼しく現地ではエアコンのいらない生活が一般的だったこともあり、近年の熱中症で死亡する高齢者が続出するような猛暑の頻発に対する危機意識は日本以上に強く、地球環境問題への対策の必要性が社会全体で共有されている状況を実感した。

そうした社会事情を背景としてダイムラーベンツやBMW、フォルクスワーゲンなどの自動車メーカー自らが、MaaSやカーシェアリング、オンデマンド型相乗りライドシェアなどに積極的に取り組み、自家用自動車の削減に舵を切ったことが分かる。そういう意味で、ヨーロッパにおける自家用自動車削減の取り組み、MaaSや新たなモビリティサービス、移動に関するシェアリングサービスなどの市場投入は、地球環境問題に対するある種の社会運動と言えるかもしれない。

そうした面では、少子高齢化で国内経済の縮小傾向続く可能性が高く、移動サービス同士だけでなく様々なサービスと組み合わせることで利便性と付加価値を高め、MaaSを新たな国内経済浮揚の起爆剤や、過疎化による交通空白地の拡大が深刻な社会問題になりつつある地方の移動ニーズの受皿として期待されている日本の状況とは異なるものの、手段としてのMaaS構築や公共交通の活用、新たなモビリティサービス、移動に関するシェアリングサービスへのニーズは同じであり、スウェーデン・ストックホルムやドイツにおける取り組みは、先行事例として非常に示唆的であり、日本でのMaaSなどの新たなモビリティサービスの取り組みにおける参考になるはずだ。

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運転手付レンタカーでUberX


日本では、ドイツを含めヨーロッパ各国における自家用車ライドシェアの禁止が報道されているが、本紙編集長がドイツ第二の都市のハンブルグ、首都のベルリン、第三の都市のミュンヘンなど主要都市を訪問した際には、Uber Xが普通に利用できたことに驚いた。これまでUber Xと言えば、アメリカなどにおける自家用車ライドシェアのサービスであり、ドイツでも事前確定運賃によるサージプライシングで同様に運用され、本紙編集長もUberアプリを使って利用した。

現地で話を聞くと、ドイツでは自家用車によるライドシェアは禁止されているものの、運転手付レンタカーという合法制度(海外では一般的に存在する)を利用してUberとレンタカー会社が提携する形で、ライドシェア型のUber Xが登場。自家用車ライドシェアと同様の移動サービスを提供していることから地元タクシー業界が強く反発している状況にある。ケルンなどでは、運転手付レンタカーに対する規制(運行が終了するごとに営業所に戻る必要がある)を巡って、規制が遵守されていないとしてUber Xに関した訴訟も発生しているとのことだった。

本紙編集長もベルリンなどでUber Xを利用してみたが、タクシー運賃よりも低めに設定された事前確定運賃で配車されてくるメルセデスベンツの車両や移民労働者であろうドライバーをみても自家用車ライドシェアとの違いを感じなかった。

ドイツで旅客運送法改正論議


その一方で、ドイツ連邦政府は、日本と同じく郊外の交通空白地などにおける移動ニーズの受皿や新たなモビリティサービスの市場投入への対応などを目的に、規制の緩和によってライドシェア型の移動サービスを合法化する旅客運送法の改正に向けた作業を進めていることも分かった。交通空白地問題に対処することなどを目的とした法改正は、ドイツにおけるMaaSの構築に向けた取り組みが結果として二次交通の不在や不足を顕在化させたことも影響しているようだった。

こうした視点は、地方における移動手段の確保のためにMaaSを構築しようとしても組み合わせの対象となる公共交通がそもそも存在しないか、大幅に不足している日本の過疎地にも当てはまることになりそうで、タクシー業界としての対応も急がれるところだ。

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相乗り型ライドシェア市場投入


また、ドイツでは、配車アプリを使ったオンデマンド型相乗りライドシェアを自動車メーカーのフォルクスワーゲン(MOIA)やドイツ鉄道などの出資を受けた民間ベンチャー企業のクレバーシャトル、首都ベルリンの交通連合(ベルリン市内東部の公共交通を補完するVia Van)、ダイムラーベンツが本社を置くシュツットガルトの交通連合(下町の交通不便地帯とバス停などを結ぶラストワンマイルを担うSSB FLEX)などが市場投入され始めており、配車アプリやMaaSアプリを活用したオンデマンド型相乗りライドシェアを本紙編集長も積極的に利用したが、相乗りということで運賃水準はタクシーよりも安価で便利、こうしたサービスは日本でも近い将来に現実化するのではないか、と感じた。こうしたオンデマンド型相乗りライドシェアの市場投入に対しても、ドイツのタクシー業界は需要を奪うものとして反発している。

共通運賃制度による交通連合


本紙編集長が訪問したハンブルクやデュッセルドルフ、ベルリン、シュツットガルト、ミュンヘンなどドイツの主要都市では、鉄道、地下鉄、路線バス、トラム(新型路面電車)、カーシェア、電動アシスト付シェア自転車、さらにはオンデマンド型相乗りライドシェアなどを含むMaaSの取り組みが、共通運賃制度を採用する各都市の交通連合とスマホアプリの組み合わせで実現している状況も分かった。ドイツでは、ベルリンやハンブルク、ミュンヘンなどの大都市でも近郊鉄道や地下鉄、路面電車などはすべて改札設備の無い信用乗車方式(たまに抜き打ち的に係員が乗車券の所持などを確認し、所持していない場合には高額の罰金。本紙編集長もベルリンで一度だけ係員によるチェックに遭遇した)を採用していることには驚いたが、そのことが様々な交通手段の乗り継ぎを前提としたMaaSのような取り組みを容易にしていることは明らかだった。

ドイツ鉄道のMaaSアプリ「DBナビゲーター」は、ドイツ国内の各都市を網の目のように結ぶドイツ鉄道の経路検索、予約、決済が出来るほか、共通運賃制度を採用する主要各都市の交通連合とも連携しており、ドイツ鉄道の乗車券に加え、例えば訪問先の都市の交通連合に加わる近郊鉄道や地下鉄、路線バス、トラム(新型路面電車)、さらには一部の旅客船などが乗り放題となる一日乗車券も併せて購入し、決済できるため、スマホアプリひとつでドイツ国内における基本的な移動ニーズを完結させることが出来る。

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MaaSアプリDBナビゲーター


本紙編集長も、ドイツの北の玄関口であるハンブルクからケルン経由でドイツ西部のデュッセルドルフへ、デュッセルドルフからドイツ東部にある首都のベルリンへ、そしてベルリンからドイツ南部のバイエルン州ミュンヘンへとドイツ鉄道で移動したが、訪問地ごとに到着後の移動手段の心配をすることなくドイツ鉄道のMaaSアプリ「DBナビゲーター」だけで様々な移動手段が乗り放題となる交通連合の一日乗車券などを購入して決済、そのまま利用できることは非常に便利な体験だった。

こうしたMaaSに通じるシステムの構築には、運行情報の共有や共通運賃制度などが必要不可欠であり、多くの民間交通事業者が存在する日本では乗り越えるべき課題は多いものの、利便性の高い本格的なMaaS実現のためには避けては通れないものとして、日本版MaaSの構築でもキーポイントになりそうだ。

タクシーは蚊帳の外の感も


ドイツでもタクシーには、ダイムラーベンツとBMWによるタクシー配車アプリ「フリー・ナウ」(ダイムラーベンツ傘下のタクシー配車アプリ「マイ・タクシー」がBMWの配車サービスと統合)や、自動車メーカー主導による配車アプリサービスに対応したタクシー業界独自の配車アプリ「taxi.eu」などが一般的に導入されて公共交通の一翼を担っているものの、MaaSの取り組みやオンデマンド型相乗りライドシェアなどの新たな移動サービスが市場投入されていく中で、「タクシーは旧来型の移動手段として蚊帳の外に置かれているのではないか」とも感じた。そうならないためには、タクシーが、相乗りや事前確定運賃などの新たなサービスを導入してMaaSなどの公共交通連携の動きに積極的に対応していく必要性があるのではないか、と思った。

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シェア電動キックボードが普及


ストックホルムやドイツの各都市では、自転車などの専用走行路の整備が進んでいることもあり、電動キックボードのシェアリングサービスがその利便性の高さから一般化していて、本紙編集長も数百メートルから2、3キロぐらいのまでの移動で何度も利用したほか、日本よりも出力の高い電動アシスト付シェア自転車も短距離移動を担う交通手段としてよく利用されていた。

スマホアプリで電動キックボードや電動アシスト付シェア自転車の配置場所や充電量、走行可能距離などの確認、予約、決済、解錠と施錠までが出来るようになっており、放置車両や事故発生などの問題もあるようだが、急速に普及が進んでいる状況を目の当たりにした。

ベルリンでは、UberがUberアプリによる電動アシスト付自転車のシェアリングサービスに参入していたほか、ストックホルムでは朝の通勤時間帯などに背広姿でシェア電動キックボードに乗って通勤するサラリーマンの姿もよくみかけた。

革新的サービスが生まれない


一方で、スウェーデンやドイツにおいて市民の足として定着しつつある電動キックボードのシェアリングだが、日本では道路運送車両法や道路交通法などとの関係で、スウェーデンやドイツで普及しているような電動キックボードは原動機付自転車(原付)の扱いとなり、法規制に基づく装備(バックミラーや方向指示器など)とナンバープレートの装着、原付免許、ヘルメットの装着などが必要となり、手軽な移動手段とはいえなくなる。

新たな商品や革新的なサービスを想定していない既存の法規制の存在のために、その商品やサービスが本来持つ利便性や革新性が台無しとなり、その結果として新たな商品や革新的なサービスが生まれにくいという現在の日本社会の土壌が、長引く経済停滞の原因のひとつという指摘もあり、海外の先行事例なども参考に必要な安全規制などはどういうものなのか、を根本から改めて考え、規制のあり方を抜本的に見直していく必要もあるのではないか、とスウェーデンやドイツの状況をみて思ったところだ。

また、ドイツのタクシーが置かれた状況をみても、新たなサービス(例えば事前確定運賃や相乗りなど)を積極的に取り入れるとともに、MaaSなどの新しいモビリティサービスの取り組みにも関与していかないと、結局は世の中の流れから取り残され、オンデマンド型相乗りライドシェアなどの新たな移動手段の登場により需要も縮小を続けるという負の連鎖に陥りかねないという危惧を感じた。

今号から連載特集をスタート


本紙では、今号でスウェーデン・ストックホルムとドイツ各都市におけるMaaSを中心とした新たなモビリティサービスの取り組みが進みつつある状況の概要を第1回として掲載し、第2回がスウェーデン・ストックホルムのMaaS、第3回がドイツ・ハンブルクのオンデマンド型相乗りライドシェアMOIA、第4回がベルリン交通連合とドイツ鉄道のMaaS、第5回がベンツのシュツットガルトとBMWのミュンヘン(いずれも仮題)などとして連載する予定だ。

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次回Taxi Japan 350号「第2回 北欧の自動車生産国スウェーデン 首都ストックホルムにおけるMaaS」をお楽しみに!

Taxi Japan最新号は公式サイトでご覧いただけます。

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