ストレッチを始める前に
腰痛発生には、動作、環境、個人的の3要因があります。タクシー乗務の特性からみると次のようなことになります。
<動作要因>
- 長時間同じ姿勢で仕事をする。
- 腰をひねったりすることが多い。
- 腰を深く曲げる。
<環境要因>
- 車両運転により全身振動に長時間さらされる。
- 暗い照明環境。
- クーラー使用により身体が長い間寒冷にさらされる。
<個人的要因>
- 長時間の夜間勤務の常態化。
- 仮眠できないための睡眠不足。
- 年齢、体格、筋力や既往症又は基礎疾患などの属性によるもの。
隔日勤務などの実態を振り返るまでもなく、タクシー乗務は極めて腰痛が発生しやすい労働環境です。3要因ばかりでなく、最近では、対人ストレスによる心理的・社会的要因や過度の精神的緊張なども腰痛発症との関連で注目されています。「仕事中にイライラすることが多い」、「働き甲斐がない。仕事の満足度が得にくい」、「渋滞する街中の運転で過度に神経を使う」などといったストレスや精神的な緊張を受け続けると、腰痛を訴える比率が高くなるともいわれています。
腰痛の恐怖にさらされているタクシー乗務員に対して、ストレッチを屈指して予防、改善をはかります。専門インストラクターの木俣亮氏がチャレンジ。イントロはこれくらいにして実際にエクササイズを開始しましょう。
なぜ必要なの? 各部位に対するストレッチの必要性
首
運転中は主に進行方向、バックミラー、サイドミラーなどの狭い範囲でしか首を動かさないため、首の血流が悪くなりがちです。そしてお客様を見つけるために常に目を緊張させているので、そこからくる首の緊張も腰痛、肩こりの原因になります。特に車内では上を見上げるような動作はないので首の前面が固まり、頭が前に出てストレートネックになりやすいと言えます。そしてストレートネックは肩こりはもちろん、腰痛の原因にもなります。
胸
運転中は常にハンドルを握っていて胸の筋肉が固まりやすいのです。そして車内では胸を開く動作がないので猫背になりがちです、猫背になることで自然と体が丸まり腰、背中の筋肉に負担がかかるようになります。胸が開かないということは呼吸も浅くなりがちで体に酸素が回らず疲れやすくリラックスがしにくい体の状態になります。
肩甲骨周り
ハンドル操作などでの腕の動きは腕だけでなく肩甲骨周りの筋肉でも動きを微調整しています。そしてこの筋肉が硬くなると、肩甲骨そのものの動きが悪くなります。そうすると肩甲骨を覆っている背中の筋肉が固まってしまうので肩こり、腰痛の原因になります。肩甲骨が動かなくなることで四十肩、五十肩などを発症しやすくなります。
腰・腹
長時間、体を丸めて座っていると腰、背中ばかりに負担がかかってしまいます。そうするとお腹のインナーマッスルを使わなくなってきて、どんどん硬くなっていきます。お腹の筋肉を活性化することで腰、背中の筋肉にかかっていた負担を分散させることができます。そしてお腹が緩むと横隔膜(呼吸の筋肉)も緩むので深い呼吸ができるようになります。
お尻
長時間の座り姿勢でお尻の筋肉は常に圧迫されています。お尻の筋肉は体の中でもとても大きい筋肉です。お尻の筋肉が硬くなることで骨盤が後ろに傾いてしまって、その上に乗っている背骨はバランスを取ろうとして大きく丸まります。結果、腰、背中に負担がかかってしまい、腰痛につながります。
太もも裏・ひざ裏
お尻と同様に太もも裏も常に圧迫されています。太もも裏の筋肉は骨盤にくっついているので、ここが硬くなると骨盤が後ろに引っ張られてしまいます。そうすると姿勢を正そうと骨盤を立てようと思っても骨盤が動かず、腰が固まってしまいます。
太もも前
太もも前面はスネや足の甲などとつながりが強く、アクセル、ブレーキを頻繁に繰り返すタクシー乗務員はとても固まりやすいといえます。そして太もも裏とバランスをとって動いているのでどちらかが硬くなるともう一方の筋肉も固まりやすくなります。この筋肉は骨盤についているので硬くなると骨盤の動きが悪くなり、腰痛の原因となります。
股関節・内もも
腰痛の原因で意外と多いのがこの股関節の付け根の筋肉です。この筋肉は股関節を曲げたり、腰部の安定をさせたり、腰のカーブを保ったりしています。そしてこの筋肉の付着している部分は腰椎なので、ここが固まったりすると、腰に負担がかかってきます。固まる理由としては長時間の座り仕事や丸まった姿勢などです。
ふくらはぎ
ふくらはぎの筋肉は足首を伸ばす時に使われます(アクセル、ブレーキを踏む時)。そしてこの筋肉は第二の心臓とも呼ばれていて、ポンプ作用で血流を促進します。
下半身をあまり大きく動かす機会がない&細かいアクセル、ブレーキ動作の多いタクシー乗務員はふくらはぎが硬くなりやすいといえるでしょう。
スネ
スネの筋肉は足首を上にあげる時に使われます。
細かくアクセルやブレーキを踏むことで常にスネの筋肉は使われているので固まりやすいです。腰痛とは関係がなさそうに見えますが、この筋肉は太ももの前とつながりが強いので骨盤周りにも影響してきます。
足の裏
足の裏の筋肉の多くは指を動かすことで動きます。しかし靴を履いた状態でアクセル、ブレーキのペダルを踏む動作には足指の動きはとても少ないです。筋膜のつながりから、足裏の筋肉が硬くなるとふくらはぎ、太ももの裏、腰、背中、首などに硬さが出やすくなります。
監修・指導
1990 年生まれ
カナダ・バンクーバーの高校を卒業。20歳の時にお笑い芸人として3年間舞台に立つ。その後、かねてより興味のあったストレッチトレーナーの仕事にのめり込み、研鑽を深めてきました。現在は都内のスタジオで老若男女にストレッチを提供している。
「タクシー乗務員さんの腰痛に対してケアをしている会社が少ないから、そこを変えたいんだ」という声から生まれたのがこのストレッチメゾットです。いざ考え始めるとあれもしたいこれも入れたいとの思いが浮かび、簡潔に伝える難しさを知りました。なぜなら腰痛は、要因が人それぞれ違うのでこの一つのストレッチさえすれば改善しますというような簡単なものではないからです。
脚の硬さが腰痛に影響してる人もいれば、首の硬さが影響してる人もいます。なので、試したことのない部位も楽しみながらストレッチを行っていただけたら幸いです。