受け入れられない「合成の誤謬」の詭弁! (Taxi Japan 353号より)

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合成の誤謬という言葉は詭弁である。

 この言葉は、10月1日の消費増税と同時実施を目指していた全国48運賃ブロックのタクシー運賃改定が見送られた理由として、指摘されている。経済学用語である合成の誤謬は、ミクロの視点で正しいことでも、それが合成されたマクロの世界では意図しない結果が生じることを指す。つまり全国の約半分のタクシー運賃ブロックが消費増税と同時に値上げすることによる経済的影響の観点から見送られるべきものだった、といわんばかりである。

 それは聞き捨てならない。

 合成の誤謬という言葉が不適切なのは次の3点による。

まず、JR北海道をはじめ北陸鉄道、静岡鉄道、豊橋鉄道、三岐鉄道などの運賃値上げが消費増税との同時改定で認可されていることと整合性が無いこと。

そして48ブロックの地方運輸局の担当責任者は、それぞれの管轄地域においてタクシー業界側に同時改定の“空手形”を乱発していたのである。そのことは、同時改定が見送られた後の運輸局担当者の平身低頭ぶりが如実に表している。

さらに物価問題に関する関係閣僚会議に関連して、消費税を所掌する消費者庁、経済産業省、内閣府からは、タクシー運賃改定と消費税率引き上げを同時に行うことに対して、「より丁寧な検討が必要」、「慎重に検討することが必要」、「消費税引き上げに伴う対応との整合性に留意が必要」などの意見書が出されたが、これは何も丁寧かつ慎重に検討することや整合性に留意することを求めるようなものではなく、官邸サイドからの「同時改定を見送れ」という鶴の一声に従え、というものであったと推察される。

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 今回の同時改定見送りにあるのは、経済的な考察ではなく、タクシーの運賃改定がスケープゴートにされただけの、いわば官邸サイドの世論への点数稼ぎに対して国交省は無力だった、ということではないか。

 中央集権体制が強まっている中で、規制する行政側と規制されるタクシー事業者側との関係は、このままで良いのか。今回の運賃改定に限らず、ライドシェアやMaaSなどの次世代モビィリティへの対応を考慮しても、地域の実情に根差したきめ細かな対応がタクシー事業には不可欠である。にもかかわらず、全国一律の画一的な法解釈や運用によって迅速かつ柔軟な事業運営が阻害されている現状を考えると、根本的な変革が求められるのではないか。

 根本的な変革とは何か?

 それは、筆者がかねてより主張してきた、タクシー事業が国民の足としての負託に応えていくためにタクシーの規制権限を地方自治体に委ねる地方分権である。地方分権といっても権力構造の変革であり、たやすく実現はしないだろう。が、タクシー業界自らが単なる規制される側の論理に止まらず、地域住民の足を守る公共輸送機関の一翼を担う立場と観点から主張し、行動してもらいたいものである。<高橋 正信>

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次回Taxi Japan 354号「日本版MaaS構築に向けた実証実験 近鉄グループの志摩MaaSをルポ」をお楽しみに!

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