新型コロナが第3波で感染急拡大 年末タク需要にも深刻な影響懸念 (Taxi Japan 379号より)

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嵐山駅

新型コロナウイルスの感染拡大の状況が本格的な冬の到来を前に過去最大となっており、政府は、11月24日~12月15日までの間、感染が急拡大している札幌市と大阪市を目的地とする旅行を観光支援策Go Toトラベルの対象から一時的に除外することを決めた。感染拡大は、札幌市や大阪市以外にも、東京23区や名古屋市などの大都市部を中心に深刻化しており、人の移動を活性化することで経済活動再生の端緒になると考えられていたGo Toトラベルも曲がり角に差し掛かっており、さらには札幌や大阪、東京、名古屋では繁華街の接客や酒類の提供を伴う飲食店などを対象に夜間の営業時間の短縮要請に乗り出した。今後の展開は予断を許さない状況だ。

東京がGo Toトラベルの対象となった10月以降、人の移動が再開する様相を見せ、これに伴い全国のタクシー需要も回復傾向を示している。全国ハイヤー・タクシー連合会がこのほどまとめた、10月の新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入の変化(サンプル調査)では、全国の営業収入の前年同期比(単純平均)は75.2%で、緊急事態宣言が発出されていた4月の37.9%、5月の37.2%を底に、6月の59.9%、7月の66.8%、8月の59.5%、9月の68.3%と、多少の増減はありながらも基本的に右肩上がりの推移を続けている結果となった。

特に、紅葉観光を中心に秋の行楽シーズンを迎えた11月前半から勤労感謝の日で3連休となった11月21日~23日は、京都をはじめ全国の主要観光地が多くの旅行客で賑わった。Go Toトラベルの利用者も多く、地域共通クーポンが、タクシーをはじめとした多くの交通機関、観光施設、飲食店や土産物店などで使用された。

人の移動を活性化することで経済活動再生の端緒になるというGo Toトラベルの効果がようやく顕在化し始めた矢先に、新型コロナウイルスの感染拡大が再び冷や水を浴びせかけかねない状況となった。先行きは予断を許さない。年末のタクシー需要にも深刻な影響が懸念され、タクシー需要を底支えするための施策、さらには経営支援策の検討が急務だ。

<本紙編集長=熊澤 義一>

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10月の全国タク営収状況

全国ハイヤー・タクシー連合会がこのほどまとめた、10月の新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入の変化(サンプル調査)では、全国の営業収入の前年同期比(単純平均)は75.2%で、昨年同期の4分の3の水準までタクシー需要が回復してきた。タクシーの営業収入は、新型コロナウイルスの感染拡大対策で緊急事態宣言が発令されたことにより急落したものの、4月の37.9%、5月の37.2%を底に、6月の59.9%、7月の66.8%、8月の59.5%、9月の68.3%と、多少の増減はありながらも基本的に右肩上がりの推移を続けてきた。

緊急事態宣言下の5月には前年同期比で14%という、深刻なタクシー需要の減退に見舞われた京都も、ようやく9月に51.9%と前年同期の半分の水準に回復、10月は58.2%となり、紅葉観光を中心に秋の行楽シーズンを迎える11月への期待が高まっていたが、11月前半から勤労感謝の日で3連休となった11月21日~23日は、京都市内の寺社など主要な紅葉スポットを中心に多くの旅行客で賑わい、Go Toトラベルの利用者も多く、京都市内の宿泊施設は予約が取りづらい状況が続いた。地域共通クーポンも、タクシーをはじめとした多くの交通機関、観光施設、飲食店や土産物店などで使用された。

本紙の熊澤編集長も、嵐山や嵯峨野などの主要な紅葉スポット、寺社や観光地を見てまわったが、どこも多くの観光客で賑わい、新型コロナ禍により全国で最も大きな打撃を受けた京都のタクシーも、有名寺社では観光タクシーの姿をあちらこちらで見かけ、修学旅行のプレートを設置したタクシーの姿もあった。

16道府県が80%を回復

10月の全国の営業収入の前年同期比では、北海道(84.3%)、岩手(81.2%)、埼玉(89.8%)、神奈川(87.4%)、山梨(80.0%)、新潟(84.7%)、大阪(83.1%)、兵庫(85.3%)、和歌山(83.5%)、島根(80.1%)、岡山(81.9%)、広島(82.1%)、高知(94.0%)、佐賀(83.9%)、長崎(87.5%)、宮崎(89.7%)など、多くの道府県が8割の水準まで回復している。法人需要の割合が高いため回復が遅れていた東京も70.2%と、ようやく7割の水準にまで戻った。

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東タク協の10月原計実績

また、東京ハイヤー・タクシー協会(川鍋一朗会長)がこのほどまとめた令和2年10月の東京都特別区・武三地区における原価計算対象26事業者1701台の輸送実績速報をみると、実働率は73.6%(前年同月実績78.1%)で、9月の実働率71.2%から2.5%のプラス。実働日車営収は3万7948円で、昨年同月の5万196円との比較では75.6%の水準だが、9月の3万6101円で5.1%増。実働率が上がる中で、実働日車営収も増えており、タクシー需要そのものが増えつつある状況だ。また、輸送回数が前年同月比で72%にとどまっていることに対し、迎車回数は同97.6%と、配車アプリでタクシーを呼ぶという利用スタイルが都内の流しマーケットでも定着しつつあることをうかがわせている。

一方で、実働日車営収は、5万円を超えていた昨年10月の実働日車営収との比較では4分の3強でしかなく、新型コロナウイルスの感染拡大が再び冷や水を浴びせかけかねない状況で、乗務員の勤務に対する意欲を確保して他産業への流出を防ぐためにも、実働日車営収の推移を注意深く検証しながら、雇用調整助成金の活用による乗務員の休業措置も併用してタクシー稼働を慎重に調整していく必要がある。先行きは予断を許さない。

10月も多摩が特別区を上回る

東京都心のタクシー需要の低迷が深刻なのは、同じく東タク協がまとめた東京都多摩地区の令和2年10月の原価計算対象16事業者909台(うち普通車は876台)の輸送実績速報との比較からも明らかで、特別区・武三地区の運送収入の対前年実績比が68.3%だったのに対して、多摩地区は79.6%と、11.3ポイントもの差がついている。もっと深刻なのは実働日車営収で、特別区・武三地区は3万7948円で対前年比75.6%であるのに対し、多摩地区は4万293円で対前年比91.9%と、4万円をオーバーし、対前年同月比も9割を超え、実働日車営収で特別区・武三地区を2345円も上回った。

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新型コロナウィルス感染症の影響による営業収入の変化

輸送実績速報

国交省のコロナ影響調査

そうした中、国土交通省はこのほど、10月31日現在における新型コロナウイルス感染症による所管する関係業界への影響についての調査結果を発表した。

調査対象は、宿泊・旅行、貸切バス、乗合バス、タクシー、航空、鉄道、外航旅客船、内航旅客船、貨物自動車運送業、内航貨物船、造船業、道の駅、不動産業、建設産業、住宅産業、建築設計業などで、主な調査項目は、売上、輸送人員、予約状況等、支援の活用状況など。

新型コロナウィルス感染症による関係業界への影響調査

タクシー10月は改善傾向に

このうちタクシー業界の調査結果に関しては、「10月においては、運送収入が30%以上減の事業者が前月の52%から31%に、輸送人員が前月の32%減から25%減となるなど、前月から改善しているものの依然として厳しい状況」と分析。また、「11月以降は運送収入が30%以上減の事業者が前月より悪化して35%となる見通しであり、厳しい状況が継続する見込み」とした。

各種支援制度については、「資金繰り支援を98%の事業者が活用しており、98%の事業者が給付済み。雇用調整助成金も86%の事業者が活用しており、74%の事業者が給付済み」としている。

小池百合子

貸切バス10月の実働率改善

新型コロナウイルス禍によるインバウンドの消失、団体旅行や修学旅行の激減などから深刻な経営難に陥っている貸切バス業界の調査結果に関しては、「10月においては、運送収入が50%以上減の事業者が前月の86%から45%に、車両の実働率は前月の約22%から約39%と、前月から改善している状況ではあるものの、依然厳しい状況が継続」とした。その上で、「11月も、48%の事業者が50%以上の運送収入の減少を見込んでおり、秋の観光シーズン終了後の需要についても予断を許さない状況」としている。

観光バス

札幌と大阪がGo Toから除外

そうした中、新型コロナウイルスの感染拡大の第3波の状況が本格的な冬の到来を前に過去最大となっており、政府は、11月24日~12月15日までの間、感染が急拡大している札幌市と大阪市を目的地とする旅行を観光支援策Go Toトラベルの対象から一時的に除外することを決めた。感染拡大は、札幌市や大阪市以外にも、東京23区や名古屋市などの大都市部を中心に深刻化しており、人の移動を活性化することで経済活動再生の端緒になると考えられていたGo Toトラベルも曲がり角に差し掛かっており、今後の展開は予断を許さない状況だ。

新型コロナの感染状況

厚生労働省が発表した11月29日現在における、国内での新型コロナウイルスの感染者数は14万4653人で、死者数は2106人となった。また、入院治療等を要する患者は2万1144人、うち重症者は462人。政府が緊急事態宣言を発出した4月よりも感染が拡大していることを示している。

政府

政府がコロナ対策本部を開催

菅義偉内閣総理大臣は11月27日、都内千代田区の「総理大臣官邸」において第48回新型コロナウイルス感染症対策本部を開催。

菅総理は「新型コロナ分科会から、医療がひっ迫しているという強い危機感の下に、この3週間に集中して、感染拡大地域において早期に強い措置を講ずることが必要との提言をいただいた」とした上で、「その中でも飲食における感染リスクをかねてから指摘いただいており、それに対応して、飲食店の営業時間短縮が極めて重要だと考えている。札幌市に加えて、本日(11月27日)から、東京、大阪、名古屋で(酒類を提供する飲食店やカラオケ店などの)時間短縮要請が順次に実施される。これに協力いただいた全ての店舗に対して、国としてしっかりと支援していく。Go Toイートについては、政府からの要請に対応して10都道府県で新規販売停止、9都道府県で4人以下の人数制限を実施している」などと説明。

さらに、菅総理は、Go Toトラベルについて「分科会からの提言を踏まえて、(旅行目的地となる)到着分の一時停止を決定している札幌市と大阪市については、出発分についても利用を控えるよう直ちに呼びかけることにしたい。その際のキャンセル代については、利用者やホテル・旅館の負担がないように措置を講じる」などと述べた。

観光地

繁華街で営業時間の短縮要請

新型コロナウイルスの感染が急拡大している北海道札幌市や大阪府大阪市、東京都、愛知県名古屋市などでは、繁華街の接客や酒類の提供を伴う飲食店などを対象に、夜間の営業時間短縮要請に乗り出した。今後の展開は予断を許さない状況だ。

歓楽街として有名なススキノを中心に感染拡大が深刻化している札幌市では、12月11日までを集中対策期間として、札幌市内全域で接待を伴う飲食店(クラブやキャバクラなど)に休業を要請。ススキノにあるバーなどは営業時間を夜10時までに短縮、居酒屋やカラオケ店などには酒類の提供を夜10時までとし、対象エリアもより拡大する。休業や営業時間短縮の協力要請に応じた接待を伴う飲食店には60万円、バーや居酒屋、カラオケ店には30万円の支援金が支給される。

大阪市では、梅田や道頓堀など代表的な繁華街のある北区と中央区で接待や酒類の提供を伴う飲食店を対象に11月27日~12月11日までの15日間、営業時間を午後9時までに短縮することを要請。要請に応じた店舗には50万円の協力金が支給される。

東京都では、11月28日~12月17日までの20日間、島しょ部を除く23区と多摩地域の酒類を提供する飲食店とカラオケ店に対し、営業時間を午後10時までに短縮するよう要請。営業時間短縮の協力要請に応じた店舗には40万円が支給される。

名古屋市では、中区の繁華街である錦三、栄地区の一部で酒類を提供する飲食店やカラオケ店に対し、営業時間を午後9時までに短縮、休業することを要請。期間は11月29日〜12月18日までの20日間で、営業時間短縮要請に応じた店舗には1日2万円、最大40万円の協力金を支給する。

営業時間の短縮を要請している各知事からは「今後の感染状況によっては期間の延長、エリアの拡大もあり得る」などの考えも示されている状況だ。

繁華街

旭川でタク乗務員が全員解雇

新型コロナウイルスの感染拡大は、地方都市のタクシー営業にも大きな打撃を与えており、札幌に次ぐ北海道第二の都市である旭川市の、すずらん交通(タクシー37台)は、緊急事態宣言が発出されていた5月から休業していたものの、このほど「このままでは会社も従業員も共倒れになる」などとして、46人の乗務員全員と事務職員を解雇した。すずらん交通では、雇用調整助成金制度を活用するなどして事業再開を模索していたが、新型コロナウイルスが感染拡大する中で短期での事業再開を断念することになった。

すずらん交通は、札幌を拠点に札幌、旭川、稚内、根室でバス・タクシー事業を展開する北都交通グループのグループ会社。

旭川市では、今年2月1日に運賃改定が実施されたものの、その後に新型コロナウイルスが感染拡大し、緊急事態宣言の発出でタクシー需要は半減するほど激減した。旭川市では、新型コロナウイルスに関する第6次緊急対策において、地域公共交通事業を担うタクシーや路線バスなどの運転者を対象に慰労金として1人2万円を支給している。

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次回Taxi Japan 380号 をお楽しみに!

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