新自由主義転換とデジタル化推進 岸田内閣誕生 10日で解散総選挙 (Taxi Japan 398号より)

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民党総裁に就任した岸田文雄衆院議員(選挙区は広島1区)が、10月4日午後に開かれた衆参両議院において行われた首相指名投票で、伊藤博文・初代内閣総理大臣から数えて100代目の内閣総理大臣に指名された。

岸田内閣総理大臣は同日、組閣を行い、内閣官房長官には安倍政権で文部科学大臣を務めた松野博一衆院議員(千葉3区)、国土交通大臣には公明党の斎藤鉄夫衆院議員(比例中国ブロック→10月31日の衆院議員選挙では広島3区から立候補予定)が就任した。

また、規制改革担当大臣は、デジタル大臣に就任した牧島かれん衆院議員(神奈川17区)が兼務する形になるほか、岸田内閣総理大臣が自民党総裁選時に発表した政策「新しい日本型資本主義〜新自由主義からの転換〜」において「規制改革推進会議を改組して、デジタル臨時行政調査会(仮称)を設置」を打ち出しており、岸田内閣総理大臣が提起している新自由主義的な小泉構造改革路線からの転換を踏まえると、小泉〜安倍〜菅の各政権で強力に推進されたタクシーを含む全般的な規制改革施策は、岸田政権においてはデジタル化推進の下で影が薄くなりそうだ。デジタル化を阻害する規制の緩和を進める「デジタル臨調(臨時行政調査会)」の設置は、経団連が10月1日に採択した政策提言にも盛り込まれているもので、かつて「政・官・財のトライアングル」と指摘された旧来的な自民党政権のあり様が、岸田政権で穏やかながらも復活する様相を見せている。

このことは、岸田内閣総理大臣が、10月8日に開催された、各省庁のトップが集まる次官連絡会議において「行政のプロである公務員諸君の一人一人が力を尽くせばこの国の未来を拓く大きな力になる。私は各府省の皆さんとワンチームとなって新しい時代を創り上げていきたい」などとした発言にも表れている。〈本紙編集長=熊澤 義一〉

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2012(平成24)年12月〜2020(令和2)年9月まで7年9カ月もの長期政権となって、安倍一強とも呼ばれた官邸主導による政権運営を確立した安倍晋三内閣総理大臣と、それを引き継いだ菅政権とは異なり、岸田政権では、自民党内実力者の甘利明幹事長(神奈川13区)、麻生太郎副総裁(福岡8区)という党役員人事も含めて、長らく続いた官邸主導による政権運営も一定の変容が必至の状況で、与党である自民党の政策への影響力も高まりそうだ。

デジタルがキーワードに

自民党役員人事では、幹事長に、経済産業大臣などを歴任した甘利明衆院議員が就任したが、甘利幹事長は、2019年5月に発足した自民党モビリティと交通の新時代を創る議員の会(MaaS推進議員連盟)の会長を務めており、さらにMaaS推進議員連盟の幹事長は、岸田内閣で経済再生担当大臣となった山際大志郎衆院議員(神奈川18区)であり、山際経済再生担当大臣は、岸田内閣の看板政策でもある新しい資本主義担当大臣も兼務する。神奈川選出(18区)の山際経済再生担当大臣は、同じく神奈川選出(13区)の甘利幹事長に近く、今回の大臣就任にも甘利幹事長の意向が強く影響したと言われている。さらに、規制改革担当大臣を兼務する牧島かれんデジタル大臣も神奈川選出(17区)だ。

岸田内閣総理大臣は、自民党総裁選時に発表した政策「新しい日本型資本主義〜新自由主義からの転換〜」において「規制改革推進会議を改組して、デジタル臨時行政調査会(仮称)を設置」を打ち出しており、岸田内閣総理大臣が提起している新自由主義的な小泉構造改革路線からの転換を踏まえると、小泉〜安倍〜菅の各政権で強力に推進されたタクシーを含む全般的な規制改革施策は、岸田政権においてはデジタル化推進の下で影が薄くなりそうだが、一方で、WILLERが東京・渋谷区の一部地域などで実証実験としての運行をスタートしたエリア限定定額乗り放題の移動サービス「mobi」などのMaaSを志向した取り組みは、日本の経済・社会・行政制度のデジタル化推進という枠組みの中で、国土交通省だけでなく、経済産業省や内閣府などの支援も受ける形で普及に力が入ることになりそうだ。

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新しい資本主義実現会議を創設

10月8日に国会での所信表明演説を行なった岸田内閣総理大臣は、「私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。我が国の未来を切り拓くための新しい経済社会のビジョンを示していく」としながら、第一の政策として新型コロナウイルス対応を挙げて「病床と医療人材の確保、在宅療養者に対する対策を徹底する。希望する全ての方への二回のワクチン接種を進め、さらに、三回目のワクチン接種も行えるよう、しっかりと準備をしていく。経口治療薬の、年内実用化を目指し、併せて、電子的なワクチン接種証明の積極的活用、予約不要の無料検査の拡大に取り組む」などとしたほか、第二の政策として新しい資本主義の実現を目指すとして、「新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘されている。今こそ、我が国も、新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか」などと呼び掛け、その上で「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」が新しい資本主義のコンセプトだとした。

岸田内閣総理大臣は、「成長を目指すことは、極めて重要であり、その実現に向けて全力で取り組む。しかし、『分配なくして次の成長なし』ということも、私は強く訴える」と強調し、岸田内閣として「『新しい資本主義実現会議』を創設し、ビジョンの具体化を進める。新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略だ」として、分配を重視することで新自由主義的政策からの転換をアピールした。

規制改革の文言は無し

岸田内閣総理大臣の所信表明演説を、昨年10月の菅義偉・前内閣総理大臣の所信表明演説と比較すると、菅・前内閣総理大臣が所信表明演説で「地方の所得を増やし、消費を活性化するため、最低賃金の全国的な引上げに取り組む」とした上で、「行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、規制改革を全力で進める。『国民のために働く内閣』として改革を実現し、新しい時代を、つくり上げて行く」などとして、安倍政権時代にも重要政策として取り組まれた最低賃金の全国的な引き上げ、さらには既得権益や悪しき前例主義を打破するとした規制改革の実行を強く打ち出していたこととは対照的であり、岸田内閣総理大臣の所信表明演説の中には「最低賃金の引き上げ」や「規制改革」といった文言は1回も出て来なかった。

政・官・財のトライアングル

岸田内閣総理大臣が自民党総裁選時に発表した政策「新しい日本型資本主義〜新自由主義からの転換〜」においては、「規制改革推進会議を改組して、デジタル臨時行政調査会(仮称)を設置」を打ち出しており、岸田内閣総理大臣が提起している新自由主義的な小泉構造改革路線からの転換を踏まえると、小泉〜安倍〜菅の各政権で強力に推進されたタクシーを含む全般的な規制改革施策は、岸田政権においてはデジタル化推進の下で影が薄くなりそうだ。

そのデジタル化を阻害する規制の緩和を進める「デジタル臨調(臨時行政調査会)」の設置は、経団連が10月1日に採択した政策提言にも盛り込まれているもので、かつて「政・官・財のトライアングル」と指摘された旧来的な自民党政権のあり様が、岸田政権で穏やかながらも復活する様相を見せている。

タクシーのデジタル化推進

タクシー業界としては、ライドシェア解禁などの新自由主義的な施策実行への懸念については、新自由主義からの転換を掲げる岸田内閣の登場と規制改革推進会議のデジタル臨時行政調査会(仮称)への改組などの政策の方向性を見ると、遠ざかったようにも感じるが、岸田内閣が重点施策とする経済・社会・行政制度におけるデジタル化推進という観点からは、やはり好むと好まざるとに関わらず、配車アプリやキャッシュレス決済、そして「mobi」のようにデジタル技術を活用したMaaSとの親和性が高い取り組み、例えば、配車アプリやAIを活用したエリア限定での定額乗り放題と相乗り、運行データの利活用、そして、MaaSそのものへの積極的な参画などは不可避となって来そうだ。

内閣発足10日で解散、総選挙

一方で、岸田内閣総理大臣は、「一刻も早く思い切ったコロナ対策、経済対策を実現したい。そのためにはこの岸田にお任せいただけるのかご判断いただき、国民の信任を背景に政治を動かしたい」などと述べ、岸田内閣発足からわずか10日後となる、今国会会期末の10月14日に衆議院を解散し、10月19日に公示、10 月31日に投開票という日程で衆院議員選挙(総選挙)を実施する考えを表明。

このため、岸田内閣における具体的な施策は、総選挙の結果も踏まえて取り組まれることになる。

(高橋 正信)

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次回Taxi Japan 399号 をお楽しみに!

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