論風一陣 賃金配分論は改定率算定根拠を道標に!(Taxi Japan 421号より)

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関東運輸局(新田慎二局長)は10月11日、東京都特別区・武三地区の15年ぶりとなるタクシー運賃改定を公示した。11月14日に実施となる。普通車の初乗りは1.096キロ500円(現行は1.052キロ420円)となり、改定率は14.24%。

公示では、「ユニバーサルデザインタクシー、配車アプリ、キャッシュレス決済機器の導入等、必要な投資を進めてきた。現行運賃水準では、継続的かつ適切な経営を維持していくことが困難」として「更なるサービスの向上やタクシー乗務員の労働環境の改善を図り、公共交通としてのタクシーを維持していくために運賃改定が必要」と判断したとしている。

10月7日の物価問題に関する関係閣僚会議では、消費者庁・消費者委員会が付議した改定率14.24%の改定内容と5項目の対処方針を原案通り認めている。対処方針では、「本運賃改定による値上げが、タクシー乗務員の賃金水準等の労働環境の改善に適切に反映されているか継続的に監視を行う」ことを政府・国土交通省に求めており、関運局の公示にも「乗務員の労働環境改善」が反映されている。

9月と10月は、ハイタク関係の労働組合の定期大会シーズンである。都内の主要労組では、目前に迫ったタクシー運賃改定に対して「ノースライドを最低限、勝ち取りたい」、「実質的な賃上げを確保していく」などと、今後の労使協議に向けて賃上げを中心とした労働環境改善を強く求めていく発言が相次いでいる。

そうした中で、労働側が、経営側の賃金スライドを執拗に警戒するのは、運賃改定による利用者の逸走などにより予想した増収が果たせない場合などのリスク回避策として、過去に足切り額の引き上げなどを実施してきた経緯があるためだ。経営者の第一義は、経営収支の改善ありきだ。皮肉な言い方をすれば、乗務員の労働環境改善は、運賃改定申請理由の中の一つに過ぎず、認可を得たら経営収支の改善を果たすことが最優先にされるという訳だ。

ところで、今回の公示では、「運賃改定率の算定根拠」を別途添付資料として公表している。原価計算対象事業者30社の平成31年の経営収支実績を元に、令和4年度を査定対象として14.24%の改定率を算定したとしている。それによると、31年実績の運送収入は361億8595万2000円、運転者人件費は255億1751万5000円だったのに対して、運賃改定実施後は、運送収入が413億0282万5000円で31年実績に対して51億1687万3000円、14.21%増、運転者人件費が286億8491万8000円で31億6740万3000円、12.41%増になるとシミュレートしている。

いよいよ11月14日から東京都特別区・武三の新運賃がスタートし、その先で現実の増収効果を踏まえた労使交渉が始まる。その際に増収効果を客観的に分析するのに「運賃改定率の算定根拠」を活用してみてはどうだろうか。労使間での実態把握の共有化に有効な道標の一つになるはずだ。

(高橋 正信)


次回Taxi Japan 422号 をお楽しみに!

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