MaaSを中心としたドイツとスウェーデンの公共交通事情 (Taxi Japan 350号より)

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第2回 北欧の自動車生産国スウェーデン 首都ストックホルムにおけるMaaS

Taxi Japan誌の熊澤義一編集長は、スウェーデンにおけるMaaS(移動に関するサービスを組み合わせてワンストップで提供する取り組み)の取り組みを現地視察するため、7月9日から11日にかけて首都のストックホルムを訪問した。

ストックホルムでは、月極定額のサブスクリプション・プランが選べるなどMaaSの先駆的アプリとして有名なフィンランド・ヘルシンキの「Whim」と同じく、MaaSの取り組みとして世界最先端のレベル3の機能を有するアプリ「UbiGo」の実証運用が始まっていた。実証運用はストックホルム市内に住む200世帯を対象に行われるもので、残念ながら「UbiGo」を利用することは出来なかったが、便利だが環境負荷が高く外部不経済の大きい自家用車の削減に向けて、様々な施策に取り組んでいるストックホルムの状況を知ることが出来た。

スウェーデンでは、行政当局が「自家用車削減」という明確な政策目標を持って各種施策に取り組んでおり、MaaSもそうした施策の延長線上にあるひとつとして、公共交通事業者が持つ時刻表や運行情報などのデータの開放と標準データ化、データ連携を行うための標準APIの確立などの基盤整備を行っている。

そうした点では、利害関係の調整が難しい複数の民間交通事業者が存在する日本において利便性の高い有用なMaaSを構築していくためには、行政主導で、各公共交通事業者が保有する時刻表や運行情報などのデータの開放と標準データ化、発券や決済などを含めたデータ連携を行うための標準APIの確立、そして共通運賃制度の仕組みなどの基盤作りが必要不可欠だと感じた。

そうした基盤が無い状態で、各民間事業者の思惑のままに雨後のタケノコの様に、相互連携しない利便性の低いMaaSが乱立すれば、MaaSに対する期待はやがて失望へと変わっていくという懸念がある。

<Taxi Japan誌編集長=熊澤 義一>

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2月25日号でヘルシンキ


Taxi Japan誌では、2019年2月25日号(No.339)の巻頭特集として、「公共交通を月極定額でパッケージ MaaS発祥の地ヘルシンキをルポ」の見出し記事を掲載した。

Taxi Japan誌の熊澤義一編集長が1月26日から2月3日にかけてフィンランドの首都ヘルシンキを訪問し、MaaSの先駆的アプリで、ヘルシンキに本社を置くMaaS Global社が開発・運用するMaaSアプリ「Whim」を実際に使用して、その利便性や革新性を体験したほか、さらにMaaS Global社を訪問し、担当者からMaaSに対する考え方やMaaSアプリ「Whim」についての説明を聴いた。

フィンランドは、人口が約550万人という北欧の小国であり、首都ヘルシンキの人口も約63万人。フィンランドは、国の人口や経済の規模では北海道と同程度と小さいものの、国民1人当たりのGDPは4万5927ドル(2017年)で世界17位と高く、OECD(経済協力開発機構)が2014年に発表したレビューでは、「世界で最も競争的であり、かつ市民は人生に満足している国のひとつである」と、フィンランドを評価している。

首都ヘルシンキの公共交通は、鉄道、地下鉄、路面電車、路線バス、世界遺産の要塞があるスオメンリンナ島とヘルシンキの港を結ぶフェリー、そしてタクシーなどで構成されており、このうち地下鉄、路面電車、路線バス、フェリーをヘルシンキ交通局(HSL)が運行している。路線バスについては民間会社が保有しているバスをヘルシンキ交通局が借り上げて運行する方式を採用している。鉄道は、鉄道会社のVRが運行しているが、VRの株式は全てフィンランド政府が保有しているため、実質的には公営企業だ。

タクシー以外の公共交通は公営がメインであり、さらにフィンランドには自動車産業が無く、自動車は輸入に頼っていることから、政策としてMaaSによる自家用車削減に取り組みやすい環境にあることは容易に想像できた。

北欧の自動車生産国


そこで本紙の熊澤編集長は7月9日から11日にかけて、フィンランドと同じ北欧の国ながら、ボルボという世界的な自動車メーカーがあるスウェーデンの首都ストックホルムを訪問し、日本と同じ自動車生産国におけるMaaSの取り組みを視察した。

スウェーデンは、スカンジナビア半島にある北欧の国で、西にノルウェー、北東にフィンランドと国境を接し、海峡をはさんでデンマークがある。東から南はバルト海に囲まれており、対岸にあるロシアやドイツとの歴史的な関りが深い。

また、スウェーデンは、ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルの母国でもあり、世界的権威のあるノーベル賞の授賞式がノーベルの命日にあたる毎年12月10日にストックホルム・コンサートホールで、晩さん会がストックホルム市庁舎で行われることでも知られている。立憲君主制で、カール16世グスタフ国王がノーベル賞の受賞者に賞状とメダルを手渡している。

スウェーデンは女性の高い社会進出で有名であり、警察や軍隊を含めて男性と同様に働く女性の姿が目に付いた。

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スウェーデンの人口997万人


スウェーデンの人口は約997万人で、約550万人のフィンランドよりは多いものの日本の10分の1以下で、東京都の人口(約1388万人)よりも少ない。

首都ストックホルムの人口は約97万人で、千葉県千葉市や福岡県北九州市などと同じぐらい。一方で、周辺都市を含めたストックホルム都市圏の人口は約221万人で、名古屋市に近い規模になる。

ストックホルムは、バルト海に面しており、14の島があるなど水運に恵まれ、都市全体が水の上に浮かんでいるような景観のため、「北のベネチア」とも呼ばれる美しい街並みが特徴だ。

一方で、ストックホルムの地下は岩盤で、地下鉄駅は強固な岩盤をくり抜いたそのままの姿でデザインされている。

数多くの世界企業が存在


スウェーデンは1000万人に満たない人口規模ながら、自動車メーカーのボルボのほか、トラック・バス製造大手のスカニア、通信機器のエリクソン、家電のエレクトロラックス、家具チェーンのIKEA、カジュアル衣料のH&M、さらに最近では音楽ストリーミング・サービスで世界最大手のSpotifyなど、数多くの世界企業がある。

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世界11位の高所得国


また、スウェーデンは、フィンランドと同様にEUに加盟しているものの、フィンランドとは違って通貨同盟ユーロへの参加は否決。独自通貨スウェーデン・クローナを採用している。1スウェーデン・クローナは約11円。

スウェーデンの国民一人当たりのGDPは2017年で5万3218ドル(1ドル=約107円、約569万円)と、世界11位の高所得国だ。一方、日本は3万8440ドル、約411万円で世界23位。

このため、特に首都ストックホルムの物価は非常に高く、本紙編集長も滞在中の高物価(感覚的には日本の1.5倍から2倍)には随分と悩まされた。

また、スウェーデンはキャッシュレス決済が普及しており、ホテルや公共交通の利用で現金決済が出来ないケースが多い。

例えば、ストックホルムの近郊鉄道や地下鉄、路面電車、路線バスなどは現金決済を受け付けておらず、SLアクセスカードというICカード乗車券を事前購入しておくか、スマホの専用アプリなどによる決済手段を乗車前に用意しておく必要があるほか、観光客が数多く訪れるスウェーデン王宮前にある公衆トイレを利用するには、クレジットカードでトイレバウチャー購入する必要があった。

北欧型の高負担高福祉


高福祉高負担で知られる北欧のスウェーデンは、所得に占める国民負担率(税金と社会保険料の割合)が58.8%で、日本の42.8%を大きく上回る。今秋10%に引き上げられる日本の消費税に相当するVAT(付加価値税)も25%(食料品や衣料品などの生活必需品は12%、公共交通はさらに低率の6%という軽減税率適用)と高いが、教育費は大学も含めてすべて無料、さらに18歳までの医療費も無料とするなど、少子化対策に力を入れており、他にも様々な国民福祉施策を実施している。

こうしたことについてスウェーデンで話を聞くと、「地方分権により負担と給付の関係が近く、分かり易い。このため政治に対する国民の関心は高く選挙の投票率も80%を超えており、高負担高福祉の統治機構に対する国民の信頼感も高い方ではないか」などとする見方を示していた。

一方で、企業に対する法人税の税率は22%と低く抑えて国際競争力を維持することで、ボルボやエリクソンなど多数の世界企業がスウェーデン国内に存在している。

スウェーデンは、北欧先進国として高負担高福祉だが、人口1000万人という小さな国内市場をものともせず、最近も世界最先端のIT技術を活用するSpotifyなどのベンチャー企業が世界企業へと成長していくなど、社会や経済の活力は衰えていない。

また、本紙編集長がストックホルム市内にあるSpotify本社を訪ねた際には、世界的に知られる最先端ネット企業の本社が街中の古い雑居ビルにあることには驚いたが、こうしたことも北欧的合理主義の表れとして納得した。

首都のストックホルムは、ヨーロッパの都市としては珍しく警察官やパトカーを街中でほとんど見かけず、治安も良好だった。そうしたこともあって、本紙編集長がスウェーデンの首都ストックホルムを訪れての第一印象は、気候が爽やかな初夏ということもあってか「豊かで穏やかな国」というものだった。

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公営企業が公共交通を運営


ストックホルムでは、近郊鉄道(コミュータートレイン)、地下鉄、トラム(新型路面電車)、路線バス、水上バス(ストックホルムは14の島を含めて構成されており、水上バスは市民の日常の移動手段になっている。例えば、スウェーデン国会議事堂や王室の宮殿などはスターズホルメン島のガラムスタン地区にある)の一部など公共交通機関の大半を、公営企業のSL社が運営している。

ヨーロッパでは、スウェーデンも含めて地方分権が進んでいる国が多く、中央省庁の国土交通省が公共交通に関する多くの権限を持つ日本とは異なって、地域の公共交通は地方自治体が責任を持つという仕組みが確立されている場合が多い。このため、権限を持った地方自治体が公共交通の運営主体となっているケースが目立つ。

共通運賃制度を採用


ストックホルムの公共交通の大半(民間主体のタクシーなどを除く)を運営する公営企業のSL社は、JR東日本のスイカのようなSLアクセスカード(ICカード乗車券)を運用しており、さらに各公共交通間における共通運賃制度を採用しているため、基本料金(45SEK=約500円)で有効となる75分以内ならSLが運営するすべての公共交通機関が乗り降り自由(例えば、近郊鉄道から地下鉄に乗り換え、さらに路線バスで目的に向かうなど)となるほか、有効時間が24時間や72時間となる乗り放題の乗車券も販売されている。

本紙編集長もSLアクセスカードで移動したが、乗り継ぎのスムーズさを含めて非常に快適な移動体験だった。

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タクシー運賃は各社バラバラ


ストックホルムには多くのタクシー会社があり、タクシーには黄色のナンバープレートが付いている。

タクシーはメーター制を採用しているものの、同一地域同一運賃のような規制はされておらず、タクシー会社によって運賃が異なっている。このため、タクシーに乗車する際、事前に運賃を確認するのは利用者の責任とされており、通常は、後部ドアの窓にある黄色と白のラベルに表記されているタクシー会社の運賃設定の内容を確認してから、利用者は乗車することになる。

ストックホルムのタクシー運賃は、メーター制だが曜日や時間帯などによっても運賃設定が異なるため、タクシー後部ドアのラベルには曜日や時間帯ごとに10キロ乗車時の運賃額およびその中の最高額を大きく表記している。利用者は、ラベルの運賃額をみて乗車するかどうかを判断する。

例えば、曜日や時間帯による10キロ乗車時の最高額が595クローナ(約6550円)のタクシーがあれば、306クローナ(約3370円)のタクシーもあり、このケースでは運賃の格差は2倍弱もある。

慣れていない外国人旅行者には利用しにくいシステムだが、本紙編集長は街中を走行しているタクシー台数の多い大手のタクシーストックホルム(10キロ乗車時の最高額325クローナ=約3580円)を利用するようにしていた。

また、ストックホルム・アーランダ国際空港とストックホルム市内間の定額タクシー運賃も設定されており、こちらもタクシー会社ごとに異なるものの概ね450~500クローナ(約4950~5500円)だった。

タク会社ごとに配車アプリ


ストックホルムでも複数のタクシー配車アプリが運用されており、一般的に利用できるようになっていた。大手のタクシー会社(タクシーストックホルム、Taxi Kurir、TOPCABなど)がそれぞれの配車アプリを運用しており、機能的には事前に目的までの運賃が分からない仕様(メーターによる運賃と表示されるだけ)だったが、それ以外は過不足の無い標準的なものだった。

ただ、ストックホルムの街中では客待ちするタクシーが目立ち、本紙編集長が荷物を抱えて歩いていると空車タクシーの運転手から声を何度もかけられた。

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スウェーデンにもUber X


一方で、本紙編集長がストックホルム市内に到着後、Uberアプリを立ち上げると、スウェーデンでもUber Xが利用できた。そこでUberアプリで目的地をストックホルム・アーランダ空港に設定すると価格は489クローナ(約5380円)と表示され、2分で配車、10時20分に目的地のアーランダ空港に到着する、と表示された。

Uberアプリに限ったことではないが、やはり高機能な配車アプリがあると、外国人旅行者としては非常に利便性が高く安心して利用できると感じた。

自家用車削減に向けた取組み


ヨーロッパを訪れると、歴史的な猛暑の頻発もあり、気候変動による地球温暖化に対する危機意識の強さを感じる。

フィンランドのMaaSは、自家用車の削減を目的としており、その受皿として、自家用車利用に負けない利便性を公共交通利用にもたらす施策として月極定額のサブスクリプション・モデルが考案され、そして、MaaS Global社がMaaSアプリの先駆的モデル「Whim」としてヘルシンキで実現した。「Whim」は、イギリス・バーミンガム、オランダ・アムステルダム、ベルギー・アントワープなどにも展開している。

スウェーデンは、フィンランドと違い、自動車メーカーのボルボがある自動車生産国だが、それでもMaaSの取り組みはスタートしている。目的は、フィンランドと同じ自家用車の削減だ。

ヨーロッパでは、自動車生産国でもMaaSの目的として自家用車の削減に舵を切っている状況であり、それだけ、地球温暖化による気候変動問題に対する危機意識が社会全体として強いということだろう。

MaaSアプリ「UbiGo」


スウェーデンでは、首都ストックホルムに次ぐ第2の都市イェーテボリ(人口は約57万人)の住民を対象にMaaSアプリ「UbiGo」の試験運用を行っていたが、このほど首都のストックホルムにおいても「UbiGo」の実証運用がスタートした。

ストックホルムでの実証運用が開始された「UbiGo」は、近郊鉄道や地下鉄、トラム(新型路面電車)、路線バス、水上バスなどの公共交通機関に加え、レンタカーやカーシェアリング、タクシー、電動アシスト付シェア自転車などを含めて、経路検索、予約、発券、配車、決済などが行え、さらに月極定額でこれらの移動手段が利用出来るサブスクリプション・プランも、サービスの利用日数などに応じて用意される高機能なMaaSシステムだ。

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「UbiGo」はレベル3の段階


MaaSは、その機能の実装程度からレベル0からレベル4までの5段階で分類されており、レベル0が「交通機関同士の統合が無い、現行の交通サービス」で、タクシーやバス、鉄道、カーシェアなどの現在あるような形態のこと。

レベル1は「運賃や料金、時刻表、予約状況といった一定の情報が統合されたアプリやインターネットのWEBサービス」で、日本ではNAVITIME、乗換案内、Googleマップの経路検索サービスなどが該当する。

レベル2は「目的地まで利用する交通機関をスマホアプリなどで一括比較でき、その上で検索、予約、発券、配車、決済がワンストップで出来るもの」で、JR東日本と東急電鉄が伊豆地域で実証実験を行っているMaaSアプリ「IZUKO」(ベースになっているのはドイツ・ダイムラーベンツ傘下のMaaSアプリ「moovel」で、現在は「moovel」とBMWのMaaSプラットフォームが統合されて「Reach Now」に)のほか、ドイツなどで実現されている多くのMaaSアプリがこのレベル2に該当する。

レベル3は、「交通事業者の連携が進んで共通運賃制度が採用されるなど、目的地までの運賃が統一され、月極定額のサブスクリプション・プランなどが実現されている状態」で、MaaSの先駆的モデルとして知られるフィンランド・ヘルシンキにおける「Whim」、そしてスウェーデン・ストックホルムにおける「UbiGo」が該当する。

レベル4は「交通事業者の枠組みを超えて、国や地方自治体が政策レベルでMaaSに取り組んでいる状態」で、これが最終形態とされている。現在のところ、レベル4に達している取り組みは世界でも存在しない。

つまり、交通事業者の連携によるMaaSアプリの分野で、世界最先端のレベルにあるのが、フィンランド・ヘルシンキの「Whim」と、スウェーデン・ストックホルムの「UbiGo」だと言える。

運行情報の開放や標準API


スウェーデンでは、2012年1月に施行された新公共交通法において、交通のための情報調整を担当している公共企業体の全国公共交通サービス開発会社(Samtrafiken社)に対して「時刻表等交通サービスに関する情報を報告しなければならない」と規定(今のところタクシーは除外)しており、そうして集められた公共交通に関する時刻表などの各種運行情報は、Samtrafiken社によって標準的な形式でデータ化されて開放されている。

さらに法による規定はないものの、公共交通機関の乗車券の発券に関するシステムについても、Samtrafiken社によって相互アクセスできるようにするための標準API(コンピュータがデータをやり取りするための仕様)が開発されている。

このため、例えば、近郊鉄道(コミュータートレイン)、地下鉄、トラム(新型路面電車)、路線バス、水上バスの一部などストックホルムの公共交通機関の大半(タクシーなどは除く)を運営しているSL社が、法令に基づいて公共企業体であるSamtrafiken社に提供している時刻表データなどの静的・動的運行情報、さらには乗車券の発券に関する標準APIを利用すれば、あとは経路検索や決済などのシステムを実装することで、ストックホルムにおける基本的なMaaSアプリのシステムが構築できることになる。

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行政によるMaaS構築の基盤


スウェーデンでは、環境負荷や外部不経済の大きい自家用車削減のため、政府による公共交通全体の利便性向上と利活用促進に向けた基盤整備のための法や制度の整備が体系的に進められており、公共交通に関する時刻表や運行情報などの静的・動的データの利活用も進んでいる。MaaSアプリ「UbiGo」もそのひとつだ。

実証運用の段階のため断念


Taxi Japan誌編集長は、スウェーデンの空の玄関口であるストックホルム郊外のアーランダ国際空港に到着すると、MaaSアプリ「UbiGo」をダウンロードして起動した。そしてセットアップを進めると、スウェーデン国民に付与されている社会保障番号を入力する必要があることが判明した。このため外国人旅行者であるTaxi Japan誌編集長は、MaaSアプリ「UbiGo」のセットアップを断念した。

ストックホルムにおけるMaaSアプリ「UbiGo」の取り組みが実証運用の段階であることのほか、現地で調べると、スウェーデンにおけるMaaS実施の目的と大きく関係していることが分かった。

200世帯の住民が対象


スウェーデンにおけるMaaS実施の目的は、自家用車の削減であり、そのため「UbiGo」の実証運用では、ストックホルム市内でも公共交通へのアクセスが良いFinnbodaやMinnebergなど3地区の住民200世帯を対象に実施。「3年間、自家用車をリースするよりもはるかに柔軟で手頃な価格」などとしてMaaSと「UbiGo」の実証運用への参加をアピールしている。

MaaSアプリ「UbiGo」では、SL社の運行する近郊鉄道(コミュータートレイン)、地下鉄、トラム(新型路面電車)、路線バス、水上バスの一部などのストックホルム市内における大半の公共交通に加え、スウェーデンを含む北欧のタクシー配車ネットワーク「CABONLINE」によるタクシー配車(Taxi KurirやTOPCABなど)、電気自動車や電動アシスト付自転車のシェア事業を展開する「Move About」のサービス、Hertzのレンタカーなどが、月極定額で利用出来るサブスクリプション・プランなどが利用日数などに応じた価格で用意されている。

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利用日数や利用時間を登録


MaaSアプリ「UbiGo」の試験運用に参加する世帯は、まずSL社が運行する公共交通サービスの利用日数、レンタカーやカーシェア、タクシーの利用時間数などを概算してアプリ上で申し込むことになる。ただし、利用日数や利用時間はいつでも変更可能となっている。

例えば、基本となるSL社が運行する公共交通サービスが24時間利用できるサービスは、月10日分で450クローネ(約4950円)、月20日分で820クローネ(約1万6400円)などとなる。カーシェアやレンタカーは、利用6時間で600クローネ(約6600円)、利用12時間で1000クローネ(約1万1000円)。利用回数や利用時間が増えるほど割安になる仕組みとなっている。また、タクシーは利用実費の後払いとなる。

SL社の乗車券は、基本料金が45クローネのため、「UbiGo」を利用すれば、シングル乗車券1枚分の値段で24時間以上利用できることになる計算だ。

「UbiGo」のサブスクリプション・プランでは、登録した次の月の公共交通利用日数や利用時間に応じた料金を事前に支払って利用開始。その後に利用する日数や時間を変更した場合と、タクシーの利用実費などは、翌月に請求・精算される仕組みとなっている。

自家用車保有よりも割安


その上で、夫婦共働きで子供2人という世帯モデルにおいて、自家用車保有とMaaSアプリ「UbiGo」によるサブスクリプション・プランを利用した場合のコスト比較を例示。

「UbiGo」の利用では、1カ月当たり、SL社の公共交通サービス(24時間乗り放題)を延べ40回利用で1400クローネ(約1万5400円)、カーシェアやレンタカーを18時間分使用で1200クローネ(約1万3200円)、タクシー利用3回で850クローネ(約9350円)などを中心に計3785クローネ(約4万1635円)。

一方、自家用車の保有にかかるコストは、車両リース料が月額3000クローネ(約3万3000円)、燃料代1100クローネ(約1万2100円)、駐車代700クローネなどを中心に計6160クローネ(約6万7760円)で、MaaSアプリ「UbiGo」を利用した場合の方が、大幅にコストが下がるというメリットがあることをアピールしている。

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ストックホルムの渋滞税


自家用車を対象とした渋滞税は、レンタカーやカーシェアの車両には課税されないほか、レンタカーやカーシェアの利用料は4000クローネ(約4万4000円)の税額控除がある。

ストックホルムの渋滞税は、試用期間を経て2006年8月から実施されており、市中心部に設定された渋滞課税区域に出入りする自家用車には、ナンバープレートの自動読取方式で時間帯に応じて変動する渋滞税が課されるというもの。通勤などで市内中心部を通行する自家用車の削減が目的。住民投票により恒久実施が決まった。

通勤ラッシュが始まる6時30分から6時59分までは15クローネ(約165円)、7時から7時29分まで25クローネ(約275円)、最も朝の通勤ラッシュが激しくなる7時30分から8時29分まで35クローネ(約385円)となり、8時30分から8時59分まで25クローネ、9時から9時29分まで15クローネ、そして昼間時間帯となる9時30分から14時29分までが11クローネ(約121円)、15時から再び15クローネに上がり、帰宅ラッシュが最も激しくなる16時から17時29分までが最大の35クローネになる。夕方18時30分から早朝6時29分までは無料。何回も出入りする自家用車のため、1日における渋滞税は最大105クローネ(約1155円)となる。

土日、祝日と祝日の前日、夏の長期休暇が多い7月は渋滞税の課税対象外だが、ストックホルムで自家用車を保有することは大きな負担になりつつある。

シェア電動キックボード普及


スウェーデンでは、環境負荷が高く外部不経済の大きい自家用車を削減するための様々な施策に取り組んでいるが、そうした中で、ストックホルム市内などではシェア電動キックボードが急速に普及しており、街中のあちこちで見かけるほか、通勤に利用するサラリーマンもあいるなどアプリによる電動キックボードのシェアリングがストックホルム市民の移動の足のひとつとなっている状況が分かった。

シェア電動キックボードは、GPSによる管理で乗り捨て自由の運用がされており、放置車両の問題は懸念されるが、利便性は非常に高い。また、アプリ上でシェア電動キックボードの配置場所とバッテリー量のチェックが可能で、20キロ近い速度が出ることからも移動手段としての利用価値が高い。

シェア電動キックボードを利用するためには、クレジットカードなどの決済手段をアプリに登録するだけなので、本紙編集長もストックホルム市内でシェア電動キックボードを利用してみた。アプリを起動すると画面上のあちらこちらにシェア電動キックボードの配置場所が表示され、数百メートルから2、3キロ程度の移動手段として、とても利便性が高いと感じた。価格は、voi社の場合、解錠のための基本料金が10クローナ(約110円)で、走行1分ごとに加算されるが、トータル料金はリアルタイムにアプリ上に表示される。

日本では規制の壁が大きい


スウェーデンのシェア電動キックボード企業のvoi社は、ストックホルムで事業を開始してから約10ヶ月後の今年7月8日に500万回の利用を達成したと発表した。そのぐらい急速に電動キックボードは普及・拡大しており、voi社もスウェーデンのストックホルム以外に、ノルウェーのオスロ、デンマークのコペンハーゲン、フィンランドのヘルシンキなどの北欧の各都市、さらにフランスのパリ、ドイツのベルリン、スペインのマドリード、ポルトガルのリスボンなどに進出して事業を拡大している。

一方、日本ではストックホルムで普及しているようなシェア電動キックボードは、道路運送車両法や道路交通法などの既存の規制を受けて、原付バイクやスクーターなどと同じ原動機付自転車(原付)の扱いとなり、利用には原付免許が必要になるほか、車両にはナンバープレート、バックミラーや方向指示器などの必要な装備、ヘルメットの装着などが必要で、とても現状では手軽な移動手段とは言えなくなるため、普及の見通しは不透明な状況だ。

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次回Taxi Japan 351号「第3回 地方分権が進むドイツの公共交通ハンブルグの相乗り交通「MOIA」」をお楽しみに!

Taxi Japan最新号は公式サイトでご覧いただけます。

日本タクシー新聞社の発行する、タクシー専門情報誌「タクシージャパン」は毎月10・25日発行。業界の人が本当に求めている価値ある情報をお届けするおもしろくてちょっとユニークな専門紙です。