論風一陣 異例の国交大臣出席を冷静に読み解く!(Taxi Japan 355号より)

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全国ハイヤー・タクシー連合会(川鍋一朗会長)は6日、大分県大分市の「レンブラントホテル大分」で第59回全国ハイヤー・タクシー事業者大会を開催し、10月1日の消費税率引き上げに伴う全国48ブロックのタクシー運賃改定が見送りされたことに対して「通常運賃改定の早期実施を求める緊急動議」を採択するなど、速やかな運賃改定実施を求めて気勢を上げた。

また、これまでに開催された過去の事業者大会に所管大臣が出席した例が無いだけでなく、国会の開期中という、異例中の異例の中で、赤羽一嘉・国土交通大臣が事業者大会に出席して次のように語っている。

「国会開期中ではありますが、安倍首相、菅官房長官の許可を得て出席させていただいた」、「申請した48地域の要望は切実であると理解している。私が来た以上、適切に対応する」。

この発言を記者席で聞いていた筆者は、「既に早期の運賃改定のシナリオはできている」と直感した。そうでなければ所管官庁の大臣が、過去に出席した例が無く、さらには開期中の国会を離れて、大臣が遠路はるばる九州の大分市内で開かれているタクシー事業者団体の大会に駆け付けるようなことは、あり得ないからだ。

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本紙では、前々号の本欄で「受け入れられない『合成の誤謬』の詭弁!」との表題で運賃改定見送りの措置について、「タクシーの運賃改定がスケープゴードにされただけの、いわば官邸サイドの世論への点数稼ぎに対して国交省は無力だった」と断じた。そして、今回の安倍首相、菅官房長官の許可とは、国会の開期中に大臣が抜け出すことではなく、早期のタクシー運賃改定実施を了承したもの、と推察できる。ということは、運賃改定見送りと反面の認可も、官邸サイドの鶴の一声で決まるという構図である。

ある業界幹部が事業者大会の演壇で、「最後に私の独り言です」と前置きして、イギリスの歴史家であるジョン・アクトン卿の格言である「絶対的権力は絶対に腐敗する」をもじって「強力な権力は強力に腐敗する」と言い放って降壇する場面があった。この発言は、タクシー事業者が運賃改定に向けて地道に、誠実に、その必要性を多くの時間をかけて当局に説明、対処してきたものを、官邸が一蹴したことへの強い不満の表れであろう。

今回の前代未聞の運賃改定見送りから何を学び取らなければならないか。国土交通省は、官邸の鶴の一声で48運賃ブロックすべての改定認可を見送ったが、それは所管官庁としての矜持を捨て去った対応であったと指摘したい。今後、このような次第を招かないためにどうしなければならないか。本紙では、かねてより現行のタクシー事業の所管体制のあり方に問題があると提起して来ている。タクシー業界側も自らの事業を管理、監督する体制のあり方に思いを致す契機にしてもらいたいものである。

<高橋 正信>

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