新年特集 2020年 タク事業の将来展望左右する1年 あらゆる手段を講じ 乗務員確保を(Taxi Japan 360号より)

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2020年は、2月1日に全国48ブロックの運賃改定が実施されるが、運賃改定による値上げは運賃単価を引き上げるものであり、デフレ経済が長期化する中で、直近における運賃改定の多くが、増収率が改定率を下回ったり、総営収の増加に結び付かなかったりするケースに陥っており、初乗り短縮運賃などをテコに運賃改定を確実に増収に結び付けていくためのきめ細やかで粘り強い取り組みが求められる。

また、タクシー業界では、止まらない総需要の減少傾向に加え、全国で乗務員不足が深刻化してタクシー車両の実働率は低下、大手事業者を中心に新卒採用が定着化しつつある東京を除いて高齢化にも歯止めがかからない状況となっている。その東京でも、乗務員総数そのものは減少が続いているのが実情だ。

今年は国家的イベントの東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、自動運転社会の到来を前に、MaaSや次世代モビリティに世間の脚光が集まっている中で、自家用有償旅客運送のさらなる拡大の方向性が打ち出され、経済同友会が「日本版ライドシェア」の政策提言を行った。

その背景には、深刻な乗務員不足による実働率の低下、それによるタクシー供給の不足と不在が「大義名分」としてあり、そのような状況の中でタクシー事業の存立基盤を盤石なものとし、将来展望を切り拓いて行くためにも、今年こそ、あらゆる手段を講じてタクシーの供給不足を解消する方策を確立することのほか、これまで以上に乗務員確保の取り組みを強めていくことが急務であり、従来からの乗務員募集と採用のあり方にも抜本的な見直しを行い、実際に乗務員採用に結び付けていく「実現力」が必要だ。

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東京都内でも乗務員は減少


タクシー業界では、止まらない総需要の減少傾向に加え、全国で乗務員不足が深刻化してタクシー車両の実働率は低下、大手事業者を中心に新卒採用が定着化しつつある東京を除いて高齢化にも歯止めがかからない状況となっている。その東京でも、乗務員総数そのものは減少が続いている

 その一方で、政府が主要施策として取り組む働き方改革による残業規制と総労働時間の短縮や有給休暇5日間の取得義務化、そして労務管理の根幹でもある改善基準告示も見直される。働き方改革は、乗務員の生産性向上が伴わないと、タクシー経営にとってのコストアップ要因となるだけでなく、労働時間が制限されるタクシー乗務員にとっても営収減がそのまま収入減に繋がりかねない諸刃の剣だ。

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タクシーの進化は進む


そうした中でも、タクシーそのものは進化し、タクシー配車アプリは、アプリ会社間の熾烈なシェア争いの中で全国的に急速に普及、燃費効率の良いLPガス・ハイブリッド仕様のユニバーサルデザイン(UD)タクシーである新型タクシー専用車のJAPANタクシーが、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた導入補助金の後押しもあって東京業界だけで1万台を超え、全国でも1万8000台にまで増え、キャッシュレス決済やインバウンド多言語対応の取り組みも都市部や観光地を中心に進んでいる。運賃についても、事前確定運賃が制度化され、相乗りやダイナミックプライシングの考え方を盛り込んだ変動迎車料金、タクシー定期券などについても今年度中に制度化される方向となっている。

自家用有償でも運転者不足


しかし、日本社会の少子高齢化により地方を中心に人口が減少、長引くデフレもあって地方経済が疲弊する中で過疎化が急速に進行。地方では利用者減と運転者不足からバス路線の廃止、タクシー事業の撤退が続き、公共交通が不在となった交通空白地では、地域住民の足の確保のため市町村などの自治体主導でNPOなどが運営主体となる自家用車と第一種免許運転者による自家用有償旅客運送の導入が増えているものの、運転者不足は自家用有償旅客運送でも同様の状況にあり、さらに自治体やNPOには車両運行管理や整備管理、配車業務などに関するノウハウが不足していることから、国土交通省はタクシー事業者などが運行管理などを受託することで協力する「交通事業者協力型自家用有償旅客運送」の制度化のため今通常国会で道路運送法を改正する方向で、併せて、自家用有償旅客運送を持続可能なもとするために利用対象者も拡大し、減少傾向にある地域住民だけでなく観光客を含む来訪者も地域の自家用有償旅客運送を利用できるようにする。

「日本版ライドシェア」の衝撃


その一方で、自家用有償旅客運送を巡っては、日本経済団体連合会(経団連)や日本商工会議所と並ぶ、経済3団体のひとつである経済同友会が、1月22日に「『日本版ライドシェア』の速やかな実現を求める―タクシー事業者による一般ドライバーの限定活用―」と題した政策提言を発表。

経済同友会が提起した「日本版ライドシェア」は、タクシー事業者が第一種免許運転者による自家用有償旅客運送の実施主体となり、交通空白地以外の都市部などでも自家用車による有償旅客運送を認めるというもので、「都心部においては一時的にタクシー需要が増大する通勤時間帯などに限り、恒常的にタクシーの供給が不足している地方都市等においては需給バランスを崩さない範囲で、道路交通法第86条(旅客自動車の車種ごとに第二種免許の保持)および道路運送法第78条(自家用自動車による有償運送)の適用を除外し、タクシー事業者による第一種運転免許保有者および自家用車の活用を解禁すべきである」などとしている。

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事業スキームを根底から崩す


さらに「配車アプリの利用を前提とし、ドライバーと利用者による相互評価制度の導入を義務づけるとともに、運行データは国土交通省が構築を進めているデータプラットフォームに提供するものとする」などとし、「需要超過時にタクシーの供給を増加させることで観光客を含む利用者の利便性を向上させるとともに、タクシー事業者がドライバーの研修・検査および車両の点検・管理等に責任を持つことで、安心・安全を担保することが考えられる」などしている。

「日本版ライドシェア」の実現を求める政策提言は、日本の経済界を代表する経済3団体のひとつである経済同友会によるものであり、さらに規制改革推進会議の小林喜光議長が経済同友会の前代表幹事という関係からも、政府内部で制度化に向けた検討が進められる可能性が高く、タクシー事業関係者には衝撃をもって受け止められている状況だ。

経済同友会が提言するような第一種免許運転者によるパートタイム労働を認める「日本版ライドシェア」が制度化されれば、乗務員不足が深刻化する中で労働時間短縮が必要となる働き方改革への対応がタクシー事業者には求められ、年金併用乗務員にも社会保険への加入が義務付けの対象が中小企業にも拡げられていく中で、現行のタクシー事業スキームを根底から崩すことになることは必至だ。

産業の将来展望を左右する年に


経済同友会が「日本版ライドシェア」を政策提言した理由として、「地域別にみると、都心では、アプリを活用した配車サービスの導入により利便性が向上しているものの、時間帯や天候によって需要が増えるタイミングでは、供給が追いつかず、スムーズに配車されないことが多い。また、地方では、最寄り駅やバス停までの移動手段としてタクシーが重要な役割を担っているが、運行車両数の少なさや営業時間の短さから、利用者の需要を満たすことができていない」などとしていることからも、深刻化する乗務員不足が稼働率低下によるタクシーの不足と不在を顕在化させていることを指摘していることは明らかであり、あらゆる手段を講じてタクシーの供給不足を解消する方策を確立することのほか、これまで以上に乗務員確保の取り組みを強めていくことが急務であり、乗務員募集と採用のあり方にも抜本的な見直しが必要だ。

2020年は、自家用有償旅客運送の拡大、制度改正の行方が、タクシー事業のあり方と将来展望を左右することになる正念場の年となりそうだ。

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短時間労働者の厚生年金加入


タクシー業界では、乗務員の高齢化に伴い年金を受給しながら働く年金併用乗務員が増加の一途を辿っているが、政府は、少子高齢化が進む中で年金制度を持続可能なものとしていくため、年金併用乗務員なども含む短時間労働者についても厚生年金への加入を義務付ける方向で制度改正を実施。

政府は、パートなど短時間労働者への厚生年金の適用拡大については、中小企業の経営に与える影響が大きいとして現行では「従業員501人以上」の企業のみが対象だが、それを2022年(令和4年)10月から「従業員101人以上」に、2024年(令和6年)10月から「51人以上」に段階的に引き下げる方針だ。

現行制度では、年金併用乗務員を含む短時間労働者については、従業員501人以上の企業で週20時間以上働き、月収8万8千円以上などの条件を満たすと厚生年金に加入する義務が生じるが、この従業員規模が段階的に引き下げられる。

タクシー事業者の中には、年金併用乗務員中心に雇用することで社会保険料負担を軽減しているケースも多く、厚生年金加入義務付けの段階的拡大は、乗務員の高齢化が進むタクシー業界にとって影響は大きく、従業員101人以上で2年半余り、51人以上で4年半余りの間に対応を進めておく必要がある。

ホワイト経営制度がスタート


職場環境良好度認定制度(ホワイト経営制度)については、今年3月末から「ひとつ星」の認定申請受付が始まる。申請期間は3カ月間。

昨年8月に国土交通省から自動車運送事業(トラック・バス・タクシー事業)等の運転者の労働条件や労働環境を改善するとともに、必要となる運転者を確保・育成するために、長時間労働の是正等の働き方改革に取り組む事業者を認証する「運転者職場環境良好度認証制度」の実施団体に選定された一般財団法人日本海事協会では、運転者職場環境良好度認証制度に関わる情報を紹介するウェブサイトをこのほど開設した。

ウェブサイトでは、職場環境良好度認定制度(ホワイト経営制度)の概要、認証プロセス、認証項目・基準について紹介することにしており。今後は、同制度による認証取得を検討する事業者を対象に、セミナー案内をはじめとした最新情報、関連書類等を随時掲載していくほか、認証申し込みをウェブサイトから行えるよう準備していく。

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次回Taxi Japan 361号 をお楽しみに!

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