中国・武漢で昨年12月に発生した新型コロナウイルス(COVID-19)への感染が日本国内でも拡散し、社会経済活動に深刻な影響を及ぼしつつある。タクシー業界では2月1日に全国25都道府県の48ブロックで運賃値上げが実施となったが、ほぼ同時期に新型コロナウイルス問題が全国に拡大。中国を中心とするインバウンド観光客が激減しているほか、大規模イベントが中止されたり、観光地や繁華街に出かけたりすることを自粛するケースも増えている。
タクシーに関しても、東京都内の個人タクシー事業者で新型コロナウイルスへの感染が発覚。船内で新型コロナウイルスの集団感染が起きた大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の乗客を乗せた沖縄の法人タクシー乗務員、神奈川県横浜市在住の都内法人タクシー乗務員、都内ハイヤー乗務員の感染が、一般紙やテレビのニュースなどで大きく報道された。新型コロナウイルスの影響で外出を控えたり、大手企業を中心に在宅勤務などにシフトする傾向が強まったりしている中で、タクシー需要にも影響が出始めている。
タクシー業界では、乗務員のマスク着用と手洗い、乗務前の体温測定、車内のアルコール消毒、走行中に窓を開けることでの換気などによる新型コロナウイルス対策に取り組むケースが増えているものの、対策には限界もあり、しばらくは試行錯誤が続くことになりそうだ。
本紙編集長が2月20日(木)午後に、東京の陸の玄関口であるJR東京駅を訪れると、いつもタクシー利用者の行列ができている八重洲口乗り場も閑散としており、新型コロナウイルスの影響による需要減が垣間見られた。
国内感染者は845人に
中国・武漢で昨年12月に発生した新型コロナウイルス(COVID-19)への感染が日本国内でも拡散し、社会経済活動に深刻な影響を及ぼしつつある。
全国で感染者が増加の一途を辿る新型コロナウイルスについて、厚生労働省は2月24日、神奈川県横浜市のクルーズ船ターミナルに接岸している大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号において対応に当たった厚生労働省の職員と検疫官の2人の感染が新たに確認されたと発表。
これにより、国内で感染が確認されたのは、日本国内での感染者や中国からの旅行者などが140人、船内で新型コロナウイルスの集団感染が起きた大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の乗客と乗員が691人、政府の用意したチャーター機による中国からの帰国者が14人の、合わせて845人となっている。
このうち、ダイヤモンドプリンセス号の乗客・乗員とチャーター便での帰国者を除く、日本国内での感染者や中国からの旅行者など140人の都道府県別の内訳は、感染者の人数の多い順に、北海道30人、東京都29人、神奈川県17人、愛知県17人、和歌山県13人、千葉県10人、熊本県3人、沖縄県3人、石川県2人、京都府2人、福岡県2人、栃木県1人、埼玉県1人、三重県1人、大阪府1人、奈良県1人となっており、これら以外にダイヤモンドプリンセス号で対応した厚生労働省の職員や検疫官などが7人。
感染者が全国に拡大していることから、政府は、新型コロナウイルスを「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症予防法)の指定感染症に指定する政令を出し、2020年2月1日から1年間の予定で施行された。
中国での死者2592人に
一方で、新型コロナウイルスの発生地である中国では、新型コロナウイルスの感染者が湖北省武漢市から全国に拡大して7万7150人に上り、死亡者は2592人にまで増加。こうした中、中国政府は2月24日、新型コロナウイルスの収束が見通せない中で来月5日に開幕する予定だった全国人民代表大会(=日本の国会に相当)の延期を決定した。
中国の保健当局は、新型コロナウイルスに感染して2月23日新たに150人の死亡が確認され、中国での死者は2592人になったと発表したほか、中国での感染者数が新たに409人増えて全国で7万7150人になったとしている。
都内個人タク事業者が感染
新型コロナウイルスに関して、タクシー業界では、東京都内の個人タクシー事業者らが新年会を開いた屋形船で感染。個人タクシー事業者らが所属する協同組合支部事務所に勤務する女性職員ら新年会に参加しなかった人からも感染が確認された。
都内城南地区の個人タクシー協同組合支部が屋形船で新年会を開いたのは1月18日で、屋形船には支部所属の個人タクシー事業者とその家族ら約70人が参加。降雨の中で換気状態は悪く、ウイルス感染が広がりやすい環境だったようだ。
新型コロナウイルスの感染者として国内で初めて神奈川県の80代女性の死亡が2月13日に確認されると、都内では個人タクシー事業者である70代男性の感染が確認された。この男性は死亡した女性の義理の息子で、屋形船での新年会に妻と一緒に参加していた。
この屋形船での新年会からは、出席者と屋形船の従業員計11人が新型コロナウイルスに感染したことが確認されている。
新型コロナウイルスの感染者は、屋形船に乗っていなかった個人タクシー事業者と業務上のやりとりがあるタクシー協同組合支部事務所の50代の女性職員、さらには都内の60代の男性医師にも感染。この医師は、屋形船での新年会に個人タクシー事業者の家族として出席していた女性看護師(新型コロナウイルスに感染)と同じ牧田総合病院(大田区)に勤務しており、1月下旬に他の人も交えて3回にわたり食事を共にしていたという。
横浜在住の都内タク乗務員
また、2月18日に新型コロナウイルスへの感染が確認された神奈川県横浜市在住の都内法人タクシー乗務員は60代の男性。2月8日から体調不良を理由に欠勤していたが、18日に新型コロナウイルスへの感染が確認された。
この都内法人タクシー乗務員は、発熱があったという2月3日以降にも乗務しており、約30人回の輸送をしていたとみられており、点呼では、この乗務員は「特に体調に問題はない」としていたようだ。
これまでのところ、この都内法人タクシー事業者において、新型コロナウイルスの感染が確認された乗務員以外には発熱やせきなど症状を訴える乗務員はいないようだが、感染した乗務員と濃厚接触した乗務員や職員を特定し、自宅待機を指示する模様。
さらに、すべての乗務員と役職員に自宅での体温測定など健康状態を確認するよう指示し、37度5分以上の熱がある場合には出社させず、自宅で待機させることなどを決めたようだ。
都内ハイヤー乗務員が感染
2月16日に新型コロナウイルスへの感染が確認された都内ハイヤー乗務員も60代の男性。1月20日に入社したばかりで、22日から乗務を開始。2月9日までに11日間乗務し、34人を送迎したという。
この乗務員がハイヤーに乗せたのは共同通信社の社員など日本人のみで、中国人など外国人を乗せたことはなく、「感染する理由に全く心当たりがない」などとしているようだ。
この事業者ではハイヤーの利用者に対して乗務員に感染者が出たことを説明するとともに、乗務員と接触した他の乗務員や職員の計8人に対して2週間の自宅待機を指示しているようだ。
沖縄タク乗務員2人が感染
沖縄では、那覇クルーズターミナルに入港した大型クルーズ客船ダイヤモンドプリンセス号から下船した中国人観光客を乗せたタクシー乗務員2人が新型コロナウイルスに感染していることが判明。
一方で、これら2人のタクシー乗務員が、感染可能性のある人をまとめた沖縄県のリストから漏れていたことが判明した。
沖縄県ハイヤー・タクシー協会では、沖縄県からの要請を受けて、船内で新型コロナウイルスの集団感染が起きた大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の乗客などと接触した可能性がある乗務員についての報告を会員事業者に要請。しかし、これら2人の乗務員に関する会員事業者と協会との間での連絡がうまくいかず、リストから漏れることになったようだ。
沖タ協では、全乗務員に感染可能性がないか、業務日報をもとに改めて対面で聞き取り調査をするよう2月20日に会員事業者に通知した。
赤羽大臣がタク営業所視察
タクシー乗務員の新型コロナウイルスへの感染が判明したことから、赤羽一嘉国土交通大臣は2月16日、都内足立区にある日本交通千住営業所を訪れ、対面点呼や体温測定などによる乗務員の体調管理の実施状況や、タクシーの車内清掃・消毒の様子などを視察した。
赤羽国交大臣は、日本交通の川鍋一朗会長(東タク協会長、全タク連会長)らとタクシー事業者の新型コロナウイルスの感染防止対策について意見交換を行い、「タクシーは年間14億人を輸送する重要な公共交通機関であり、新型コロナウイルスの感染対策を一層強化し利用者の安全と安心を確保しなければならない」などと述べた。
国交省が新型コロナで通達
新型コロナウイルス対策について、国土交通省は2月17日、安全政策課長名で全国ハイヤー・タクシー連合会などに対し、「新型コロナウイルスに係る予防・まん延防止の再徹底について」と題した通達を出した。
通達では、「新型コロナウイルスに係る感染予防対策として、マスクの着用、咳エチケット、手洗い等の対策を繰り返しお願いしているところ、今般、複数のタクシー運転者への感染が確認された」などと指摘した上で、①始業点呼時の対応では、運転者に疲労や疾病等を報告させる際には、体温測定による体調の確認を行うこと等により運転者の健康状態を確実に把握することや、マスクの着用等の感染予防対策が取れていることを確認すること、②体調不良が確認された際の対応では、発熱やせき等の症状がある場合には、乗務を中止させ、速やかに医療機関に受診させるなど適切な対応を取ること――などを要請。また、乗務員などの従業員に新型コロナウイルスの感染が確認された場合には、速やかに各運輸局に報告するよう併せて周知徹底を求めた。
全タク連マスク1万800枚
また、新型コロナウイルス感染予防用のマスクについては、国土交通省の要請に基づいて、全タク連が都道府県協会からの要望を集約。全国から約250万枚のマスク要望があることを国交省側に伝えた。
一方で、国交省からは、繰り返し使用可能な1万800枚のマスクを210円(市場価格は500円程度のもの)で斡旋するとの連絡が全タク連にあり、全タク連が費用負担する形で都道府県協会宛に按分して送付する。
また、東京都は2月17日、小池百合子知事が東京ハイヤー・タクシー協会の川鍋一朗会長や東京都個人タクシー協会の秋田隆会長などから新型コロナウイルスの予防対策としてのマスク確保などの要望を受けたことから、バス・タクシー業界に計15万枚のマスクを提供することを決めた。
東タク協が新型コロナ対策
東京ハイヤー・タクシー協会は2月20日、「新型コロナウイルス感染予防に関する利用者の皆様へのお願い」を公表。会員事業者に対する周知事項への理解と協力を求めた。
東タク協会員事業者への周知事項では、乗務員のマスク着用、石鹸による手洗いと消毒液による皮膚洗浄、うがいの励行の徹底。咳エチケットの厳守。乗客が降車した後の換気とシートベルトや後席タブレットなどの消毒殺菌、点呼時における体温測定、発熱や悪寒、咳、関節痛など自覚症状のある乗務員や役職員の医師の診断とその結果確認。さらに、乗車中における窓を開けての換気を追加した。
乗務員から風評被害の懸念も
中国・武漢で昨年12月に発生した新型コロナウイルス(COVID-19)への感染が日本国内でも拡散し、社会経済活動に深刻な影響を及ぼしつつある。中国を中心とするインバウンド観光客が激減しているほか、大規模イベントが中止されたり、観光地や繁華街に出かけたりすることを自粛するケースも増えている。
タクシーに関しても、東京都内の個人タクシー事業者で新型コロナウイルスへの感染が発覚。船内で新型コロナウイルスの集団感染が起きた大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の乗客を乗せた沖縄の法人タクシー乗務員、神奈川県横浜市在住の都内法人タクシー乗務員、都内ハイヤー乗務員の感染が、一般紙やテレビのニュースなどで大きく報道された。新型コロナウイルスの影響で外出を控えたり、大手企業を中心に在宅勤務などにシフトする傾向が強まったりしている中で、タクシー需要にも影響が出始めている。乗務員からは風評被害を懸念する声も出ている。
タクシー業界では、乗務員のマスク着用と手洗い、乗務前の体温測定、車内のアルコール消毒、走行中に窓を開けることでの換気などによる新型コロナウイルス対策に取り組むケースが増えているものの、対策には限界もあり、しばらくは試行錯誤が続くことになりそうだ。
本紙編集長が2月20日(木)午後に、東京の陸の玄関口であるJR東京駅を訪れると、いつもタクシー利用者の行列ができている八重洲口乗り場も閑散としており、新型コロナウイルスの影響による需要減が垣間見られた。
次回Taxi Japan 363号 をお楽しみに!
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