深刻化する新型コロナウイルスの感染拡大への対策として、安倍晋三内閣総理大臣は4月7日、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定に基づき、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、及び福岡県の7都府県を対象に緊急事態宣言を発出した。期間は4月7日から5月6日までの1カ月間。
一方で、新型コロナウイルス感染者の発表数が日々増加の一途を辿った東京都内では3月後半から4月に入ると人の動きが止まり、タクシー需要はさらに急減。平均5万円近かった東京都内の隔日勤務でも、乗務員の平均営収が半減以下の1万円代後半から2万円台という事業者が続出する事態となっている。そうした過去に例の無いような状況の中で、中堅事業者のロイヤルリムジングループ(6社347台)が都内におけるタクシー事業を一時休止して約600人いる乗務員全員を解雇する方針を打ち出し、テレビや一般紙などでも大きく報道された。
東京都内ではタクシー需要の急減と深刻な営収低下への対策として、都内大手事業者を中心に雇用調整助成金を活用して乗務員の休業による出番制限を行うことで、50%程度の供給削減に取り組む動きが出ているほか、中小事業者の中からも雇用調整助成金を使って一部の乗務員を休業させたり、全乗務員を休業としてタクシー事業を期間限定で一時休止したりするところも出始めている状況で、緊急の経営支援対策を国などに求める必要があるとの声が強まっている。
〈TAXI JAPAN編集長=熊澤 義一〉
安倍首相が緊急事態宣言
安倍首相は4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定に基づき、緊急事態宣言を発出した。対象となる区域は、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡の7都府県で、期間は4月7日から5月6日までの1カ月間。
緊急事態宣言は、タクシーやバス、鉄道等の公共交通機関など必要な経済社会サービスは可能な限り維持しながら、外出自粛要請の徹底や、密閉、密集、密接の3つの密を防ぐことなどによって、感染拡大を防止していくことになる。
安倍首相は、東京や大阪など7都府県を対象とした緊急事態宣言の発出に関して「専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割、削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができる」としながら、「効果を見極める期間も含め、ゴールデンウィークが終わる5月6日までの1カ月間に限定して、国民の皆さんには、7割から8割の(人との接触機会)削減を目指し、外出自粛をお願いする」などと述べた。
緊急事態宣言が出された地域では、今後1 カ月間における対策が、新型コロナウイルス感染拡大が長期化するか収束に向かうかの分水嶺になるとみられており、感染拡大の傾向が著しい東京都では、小池百合子知事が不要不急の外出自粛の強化や在宅勤務によるテレワークのさらなる拡大、ショッピングセンターや百貨店などの大規模集客施設の休業やイベントの中止、飲食店の夜間営業自粛などを要請し、「人と人との接触機会8割削減」に向けた施策を強化することになる。
都内1〜2万円台に営収急減
一方で、外出自粛の強まりや大手企業を中心とした在宅勤務によるテレワークの拡大、ショッピングセンターや百貨店などの大規模集客施設の休業やイベントの中止などにより、都市部や観光地を中心にタクシー需要が減少していたが、緊急事態宣言の発出が間近に迫った4月に入ると、新型コロナウイルス感染者の発表数が日々増加の一途を辿った東京都内では人の動きが止まり、タクシー需要はさらに急減。
平均5万円近かった東京都内の隔日勤務でも、乗務員の平均営収が半減以下の1万円代後半から2万円台という事業者が続出する状況となった。都内タクシー事業者からは「緊急事態宣言で、さらに人や企業の動きは止まることになる。どこまで都内のタクシー需要が減少し、営収が低下するか、先が見えない。新型コロナウイルスの罹患が心配される年金併用の高齢乗務員を中心に休んでもらい、緊急事態宣言が終了するゴールデンウィーク明けの状況がどうなっているか待つしかない」などの見方も出ており、緊急の経営支援対策を国などに求める必要があるとの声が強まっている。
都内で事業休止や供給削減
4月に入って東京都内におけるタクシーの営収低下が深刻化する中で、中堅事業者のロイヤルリムジングループ(金子健作代表、6社347台)が都内におけるタクシー事業を一時休止し、約600人いる乗務員を全員解雇する方針を打ち出した。同社では「重い決断だったが、緊急事態宣言が出され、今後、さらに売り上げが落ち込むことが予想される。乗務員のためにも、休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けた方がいいと判断した。感染拡大の影響が終息すれば再雇用したい」などとしている。
ロイヤルリムジングループの全乗務員解雇による都内タクシー事業の一時休止は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済への深刻な影響の現れとしてNHKなどのテレビや一般紙などでも大きく報道された。
日交や国際が50%供給削減
また、都内におけるタクシー需要の急減と営収の深刻な低下に対応するため、日本交通や国際自動車などの大手事業者を中心に雇用調整助成金を活用して乗務員の休業による50%程度の供給削減に取り組む動きも出ており、日本交通などでは4月16日から5月15日まで営業所や直営グループ会社を2つに分けて、前後半で半分の営業所や直営グループ会社のタクシー稼働を全休とすることで50%の供給削減を実施する。業務提携するグループ会社でも雇用調整助成金を活用することで出番制限などの方法で50%の供給削減に取り組むほか、中小事業者の中にも一部の乗務員を休業させたり、全乗務員を休業としてタクシー事業を期間限定で一時休止したりするところが出始めている。
京都の3月営収46.5%減
緊急事態宣言が発出された東京など7都府県以外でもタクシーの需要減少と営収低下の傾向が強まっており、日本を代表する世界的観光地の京都では、インバウンドの激減に国内観光客の急減も加わり、京都府タクシー協会が3月の営業収入について京都市域交通圏のタクシー12社の抽出調査を行ったところ、半減に近い平均46・5%の大幅減になっていることが判明。
京タ協の兼元秀和会長は「3月は(京都のタクシーにとって)1年で一番盛況な時期であり、それだけに落ち込みが激しい」などとしており、東京や大阪などに緊急事態宣言が出たことからさらに影響が深刻になる見通しで、乗務員の雇用維持に向けた経営支援対策のさらなる拡充を国などに求めていく考えだ。
雇用調整助成金に緊急特例
タクシー事業の一時休止や乗務員の出番制限による供給削減では、従業員を休ませながら雇用を維持した企業に支給する雇用調整助成金が活用されている。厚生労働省では、4月1日から6月30日までを「緊急対応期間」として、雇用調整助成金に特例措置を導入している。
雇用調整助成金の緊急特例措置では、①通常の助成率は中小企業で3分の2、大企業で2分の1だが、これを中小で4分の3、大企業で3分の2に。さらに従業員を解雇しない場合は、中小で10分の9、大企業でも4分の3まで引き上げる、②売上高の減少率などの経営指標では、通常は最近3カ月売上高が前年比10%以上の減少とする適用条件を。最近1カ月で5%以上減少に緩和、③雇用調整助成金の支給対象者の条件では、通常の雇用保険に6カ月以上加入を無くして、パートや新入社員などにも拡大、④残業相殺の停止や短時間一斉休業の要件緩和、⑤事後届出の6月30日までの延長Iなどとなっている。
残業相殺の規定など停止
雇用調整助成金の緊急特例措置では、中小企業における解雇しない場合の助成率が10分の9(大手企業でも4分の3)にまで引き上げられたこと、さらにはタクシーやバス事業のように残業前提の勤務形態では利用しづらい原因となっていた残業相殺(助成額を算定する時に、助成の対象となる休業等の延べ日数から、他の従業員の残業や休日出勤をさせた分を控除する規定)が停止されること、などが、リーマンショック時にはあまり利用が進まなかったタクシー業界における雇用調整助成金が、今回は活用されるようになった背景にあるようだ。
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