今年2月1日に全国48ブロックでタクシー運賃が改定された。運賃値上げの効果は、その後に拡大した新型コロナウイルス禍の終息のメドが立たない現段階で検証できないが、大阪タクシー協会の坂本栄二会長は10月7日に開かれた近畿運輸局長と大阪自動車関係団体長との懇談会席上で、次のように語った。「今年2月に運賃改定があった。コロナ禍の中で効果があったのかの判断は難しいが、全国的に見ても運賃改定を行ったところと行っていないところを比較すると、事業の回復状況に違いがみられており、少なからず効果があった」などと指摘して、運賃改定に一定の効果があったと評価している。評価の論拠となっている運賃改定を行ったところとそうでないところの比較は、全国ハイヤー・タクシー連合会が実施したサンプリング調査(47都道府県における9月営業収入の前年対比)に明らかである。
それによると、9月の前年同月対比の営業収入は全国平均で68.3%。サンプル調査対象に2月に運賃改定された事業者の存在する道府県のうち、前年同月対比で全国平均を上回る80%台が5県、70%台が14道府県、そして60%台が3県、50%台が2府県となっている。反面、残る運賃改定のなかった23都県では、80%台は無く、70%台が2県、それ以外は40%~60%台となっている。これらの数字を比較すると、坂本会長が「少なからず効果があった」とする見方は理解できる。
こうした状況を踏まえて運賃改定のおこなわれなかった地域の事業者団体の代表や労組幹部からは、新型コロナウイルス禍で大幅ダウンした営業収入を補填するための運賃改定を求める声が台頭している。出口の見えない新型コロナウイルス禍が長期化する中で、運賃改定に活路を見出そうということだろう。しかし、インバウンド関係のビジネス、訪日外国人旅行客がほぼゼロになっている現状、在宅勤務やテレワークの拡大をはじめとする一般他産業の働き方改革など、ウィズ・コロナによる新常態(ニュー・ノーマル)が進展していく中で、はたして従来通りの運賃改定に頼る成り行きでよいのであろうか。
新型コロナウイルス禍がもたらしたものは、社会経済への大打撃とそれに伴う従来からの態様の変革だ。タクシー業界においてもしかりで、旅客輸送の枠を超えて飲食の宅配などが認められるようになったが、これを契機に従来の杓子定規な規制の枠組みを見直して、新しい営業収入の糧を模索していかなければならい。従来のように運賃改定による値上げでさらに利用者離れを惹起すれば、タクシー事業の衰退に拍車をかけかねない。タクシー業界として、新型コロナ禍が問う新常態に対して何ができるのか。タクシー経営が規制によって守られた時代が過去のものになりつつある今だからこそ、時代の変化にそぐわない陳腐化した規制を見直し、タクシー事業の活路を開く新機軸を、こんな非常時にこそ業界の英知を結集して模索してもらいたい。
(高橋 正信)
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