東京都では、自動運転技術が東京都の抱える社会的課題を解決できる可能性を持つとの考えから、自動運転技術の実用化を加速させるため、自動運転事業者や交通事業者などによる自動運転技術と、それ以外の先端的なICT技術とを組み合わせた、ビジネスモデルプロジェクトを支援している。
2020年度のビジネスモデルプロジェクトには、自動運転ソフトウェアを開発するティアフォー、自動運転車向け保険の提供を行う損害保険ジャパン、次世代通信規格5Gの通信基盤などを提供するKDDI、自動運転用高精度3次元地図を提供するアイサンテクノロジー、そして配車アプリなど自動運転車のユーザー向けサービスを開発するMobility Technologiesからなる企業グループによる「5Gを活用した自動運転タクシーの事業化に向けた運行管理実証」が選定され、これが新宿副都心エリア環境改善委員会との西新宿スマートシティ連携協定に基づくスマートシティ・プロジェクトとして実証実験が行われることになり、都内新宿区の「京王プラザホテル」において11月5日、東京都の宮坂学副知事(元ヤフー社長)も出席して、自動運転タクシーの出発式が開催された。今回の無償による自動運転タクシーの実証走行は、一般モニターも試乗参加するなどして11月8日まで実施された。
自動運転タクシーのビジネスモデル構築に向けて、地方自治体の街づくりと様々な関連企業が連携しながら、エリアを限定した自動運転タクシー事業化へのプロジェクトの第一歩が踏み出されることになった。
<本紙編集長=熊澤 義一>
米中が先行する自動運転開発
自動運転車開発を巡っては、アメリカの大手IT企業グーグルの親会社アルファベット傘下のWaymoが、アリゾナ州フェニックス市などにおいて有償による完全無人(運転者不在)による自動運転車の商用サービスをスタートさせているほか、米自動車大手GM傘下の自動運転開発会社のクルーズは、カリフォルニア州サンフランシスコ市内において公道試験を目的とする自動運転車200台を走行させ、道路状況や歩行者の挙動、他の一般者のドライバーの運転行動に関するデータ収集を継続している。同じく米自動車大手のフォードも、来年からテキサス州オースティン市で自動運転タクシーの商用サービス実施を表明しており、自動運転タクシー(配車アプリを使用した自動運転車によるライドシェアサービス)が、アメリカでは商用サービスとして実用化段階に入ろうとしている状況だ。また、IT技術を活用した自動運転車開発に注力する中国でも、ITを中心に多くの企業が自動運転分野に進出しており、北京や上海、武漢などの大都市中心に自動運転タクシーの公道実証試験が繰り返されている。
一方で、「日本ではリスクに対する社会的許容度が低く、100%の安全性担保と完全なリスク回避を求める傾向にあるが、それでは自動運転などの新技術の開発・社会実装は進まず、アメリカや中国に後れをとるばかりだ。リスクの数値管理なども必要」などとして、少子高齢化による人口減少社会の到来、さらには日本経済全体が収縮していく可能性が強まる中で、アメリカや中国に対する技術開発力や産業力格差の拡大に懸念する声も出ている状況だ。
東京都が自動運転技術開発支援
そうした中で、東京都では、自動運転技術が東京都の抱える社会的課題を解決できる可能性を持つとの考えから、自動運転技術の実用化を加速させるため、自動運転事業者や交通事業者などによる自動運転技術と、それ以外の先端的なICT技術とを組み合わせた、ビジネスモデルプロジェクトを支援している。
このビジネスプロジェクトには、「ハイレベル部門」と「早期実用化部門」があり、ハイレベル部門は、従来の実証と比較して、先端的なICT技術を積極的に利活用し、自動運転技術やビジネスモデル等の面でハイレベルな内容であるプロジェクト、早期実用化部門は、概ね3年以内の実用化が期待できるプロジェクトを対象としている。
MoTが配車アプリ開発を担当
2020年度のハイレベル部門は「5Gを活用した自動運転タクシーの事業化に向けた運行管理実証」で、プロジェクト実施事業者は、自動運転ソフトウェアを開発するティアフォー、自動運転車向け保険の提供を行う損害保険ジャパン、次世代通信規格5Gなどによる自動運転向け通信基盤の提供や自動運転車両の配車・遠隔監視などの運行管理システムを開発するKDDI、自動運転用高精度3次元地図を提供するアイサンテクノロジー、そして配車アプリなど自動運転車のユーザー向けサービスを開発するMobility Technologies(MoT)からなる企業グループとなっている。
また、早期実用化部門は「地域の公共交通・サービスと連携した自動運転の実用化」で、大手バス事業者のWILLERが自動運転バス実証実験の実施者となり、概ね3年以内の実用化を目指したプロジェクトでは、まちなか交流バス「IKEBUS」のほか結節する公共交通との接続した運行、飲食・物販のネット注文・宅配サービス、大学向けサービスなどの実証を行ない、2022年度中の事業化を目指す。地域回遊性と実用性・事業性の向上を検証するほか、アプリによる公共交通のデジタル・キャッシュレス利用、飲食・物販のネット注文・宅配サービス提供の早期実用化を目指す。自動運転実験車両はフランス・NAVYA社製の小型バス・タイプの「ARMA」で、事前にマッピングしたルートにおいて右左折、停止などをすべてシステムが自動で操作し、緊急時のみセキュリティスタッフが介入する仕様だ。
西新宿で自動運転タク実証実験
「5Gを活用した自動運転タクシーの事業化に向けた運行管理実証」は、西新宿エリアに拠点を置くなどして事業活動を展開する大成建設や住友不動産、三井不動産、野村不動産、東京建物、東京ガス、KDDI、NTT東日本、損害保険ジャパン、小田急電鉄、京王電鉄などの企業で構成する新宿副都心エリア環境改善委員会との西新宿スマートシティ連携協定に基づくスマートシティ・プロジェクトとして実証実験が行われることになり、高層ビル群が林立する都内新宿区西新宿の「京王プラザホテル」において11月5日、東京都の宮坂学副知事(元ヤフー社長)も出席して、自動運転タクシーの出発式が開催された。今回の無償による自動運転タクシーの実証走行は、一般モニターも試乗参加するなどして11月8日まで実施された。
東京都の宮坂副知事が試乗
自動運転タクシーの出発式には、東京都の宮坂学副知事(元ヤフー社長)のほか、新宿副都心エリア環境改善委員会の小林洋平事務局長(大成建設都市開発本部まちづくり推進室室長)、自動運転ソフトウェアを開発するティアフォーの加藤真平創業者会長兼最高技術責任者、自動運転車向け保険の提供を行う損保ジャパンの白川儀一取締役執行役員、次世代通信規格5Gなどによる自動運転向け通信基盤の提供や自動運転車両の配車・遠隔監視などの運行管理システムを開発するKDDIの岩木陽一執行役員・経営戦略本部長、自動運転用高精度3次元地図を提供するアイサンテクノロジーの佐藤直人取締役MMS事業本部長、さらには配車アプリなど自動運転車のユーザー向けサービスを開発する、Mobility Technologiesの岩田和宏取締役らが出席して行われ、宮坂副知事がMoTの開発した配車アプリを使ってJAPANタクシー車両をベースに開発された自動運転タクシーを配車、QRコードによる開錠などをして試乗した。宮坂副知事は、自動運転タクシーに乗車した感想について「本当にスムーズだった。リラックスして安心しながら会話もできた」としながら、「モビリティが変われば街も変わる。この西新宿を、自動運転をはじめとして新しいモビリティのスタートアップの実践練習の場とし、西新宿から東京全体へ、そして日本全国へと羽ばたいていって欲しい」などと述べた。
常時10台の自動運転タク運行
出発式に先立った開かれた記者会見では、冒頭、「5Gを活用した自動運転タクシーの事業化に向けた運行管理実証」プロジェクトの実施事業者5社(ティアフォー、損保ジャパン、KDDI、アイサンテクノロジー、MoT)を代表して挨拶した、自動運転ソフトウェアを開発するティアフォーの創業者会長兼最高技術責任者で、東京大学情報理工学系研究科情報科学科准教授の加藤氏は「5社の連携により、日本初となるタクシー車両(JAPANタクシー車両)による自動運転タクシーを、5Gを活用して(遠隔監視しながら)運行するというものだ」などとしながら、実証実験とシステムの概要を説明。加藤氏は「(5G通信可能エリアの)京王プラザホテルとKDDI新宿ビルの間は、運転席は無人で(遠隔監視のみで)運行する。(5Gエリア外となる)それ以外のルートは自動運転機能のみで(緊急時対応の)ドライバーが運転席に乗り込んで運行する」などと述べ、次世代通信規格5Gと現行4Gが混在しながら遠隔監視が行われるが、遠隔監視による操作時に道路交通法や道路運送車両法の基準(ブレーキ操作時から停車までの走行距離)をクリアするためには、広帯域高速通信規格5Gによる遅延のない映像伝達速度が不可欠との認識を示した。
また、実証運行の場所として、東京都庁が所在して高層ビル群が林立する副都心・西新宿を選んだことについて、加藤氏は「西新宿がスマートシティを目指しているからであり、その分かりやすいシンボルとして自動運転タクシーを導入していく。西新宿において常時10台、将来的には100台が、タクシーの機能を持って運行している状態にしていきたい。西新宿をロールモデル(模倣・学習する対象)として、様々な技術や未来の在り方を実証して、それを他の地域に展開していければと思っている」などと述べた。
スマート東京の先行実施エリア
東京都の宮坂副知事は「東京都では、西新宿を、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出すスマート東京の先行実施エリアと位置付けており、5Gを軸とした『電波の道』をしっかりと整備し、そのうえで『電波の道』を活かした様々な実験や挑戦を行っていきたいと考えている。そこで有望視されているのがモビリティ関係だ」としながら、「本日の、5Gを活用したタクシー車両による運転席無人の遠隔型自動走行は日本初の取り組みだ。西新宿で得た知見を、東京、そして日本全体に拡げていければいいな、と思っている」などと挨拶した。
都内タク事業者もオブ参加
西新宿におけるJAPANタクシー車両による自動運転の実証実験は、KDDIが提供する次世代通信規格5Gを活用した遠隔監視システムを採用して実施され、プロジェクトには、配車アプリなど自動運転車のユーザー向けサービスの開発を担うMobility Technologies(MoT)が参画しているほか、自動運転タクシーの運行管理モデル構築のためのアドバイザーとして、MoTの配車アプリ「GO」を採用する都内タクシー事業者の日本交通、帝都自動車交通、日の丸交通、荏原交通がオブザーバー参加した。
自動運転タクシーのビジネスモデル構築に向けて、地方自治体の街づくりと様々な関連企業が連携しながら、エリアを限定した自動運転タクシー事業化へのプロジェクトの第一歩が踏み出されることになった。
次回Taxi Japan 379号 をお楽しみに!
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