東日本大震災10周年 (Taxi Japan 385号より)

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今から年前の2011年3月日午後2時分、東北地方三陸沖の太平洋で、日本の観測史上最大となるマグニチュード9.0という巨大地震が発生。震源の深さは約キロメートルで、宮城県北東部にある牡鹿半島の沖、約130キロの日本海溝の付近で発生した海溝型のプレート間地震。プレート間地震は、蓄積されたひずみが広範囲(東日本大震災の震源域は南北で約500キロ、東西で約200キロに及ぶ)で一気に解放されるため、海底で発生すると巨大津波を発生させるケースが多く、東日本大震災では、津波の最大溯上高が・1メートルに達し、最大で海岸から6キロメートルという内陸まで浸水した。このため、岩手、宮城、福島の太平洋沿岸地域に甚大な津波被害をもたらした。

東日本大震災による死者・行方不明者は1万8428人。宮城県が死者9543人と行方不明者1217人、岩手県が死者4675人と行方不明者1112人。福島県では、津波被害で福島第一原発において炉心溶融(メルトダウン)と放射性物質の大量飛散が発生。年が経過した現在も多くの帰宅困難地域が残っている状況だ。

本紙の熊澤義一編集長は2月日、東日本大震災での被災から年を迎える岩手県釜石市にある釜石タクシーを訪問した。熊澤編集長は、2014年4月日に開催された釜石タクシー新社屋完成祝賀会を取材していたという縁もあり、再び釜石タクシーを訪問して、同社の小澤伸之助社長に、甚大な震災被害からの釜石タクシーの再建、2018年上半期まで続いた復旧・復興特需、その後の釜石市における人口減少と地域経済の疲弊からのタクシー需要の構造的な減退、そして新型コロナ禍での営収急減、さらには地方の中小タクシーが共通して抱える経営課題、今後の展望などについてインタビューを行った。

また、釜石タクシーの被災からの再建に大きな役割を果たした全自交岩手地本釜石支部の後藤文雄前委員長(震災当時の委員長。前釜石市議会議員)、今野徹委員長、小池雅秋副委員長、さらには全自交岩手地本の森茂委員長、東日本大震災の発生時に本社営業所で無線配車を担当していた釜石タクシーの藤井裕之総務課長らから話を聞いた。

〈本紙編集長=熊澤 義一〉

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鉄と漁業の街、釜石

釜石タクシーが本社を置く岩手県釜石市は、岩手県南東部の太平洋沿岸に位置し、世界三大漁場のひとつである北西太平洋漁場の一角をなす三陸漁場と典型的なリアス式海岸を持つ風光明媚な都市だ。

釜石市は、日本の近代製鉄業発祥の地としても知られており、官営の釜石製鉄所が1880年(明治年)に操業を開始している。この官営製鉄所は福岡県北九州市の八幡製鐵所よりも早くに操業を開始していたことから、日本最古の製鉄所となっている。

現在、釜石の製鉄所は、日本製鉄東日本製鉄所釜石地区(2020年4月の日本製鉄の製鉄所再編成により、釜石製鉄所が茨城県の鹿島製鉄所、新潟県の直江津製造所および千葉県の君津製鉄所と統合されて発足)となっているものの、新日鉄発足後の1989年に既に高炉を休止しており、現在は鋼を細く圧延してコイル状に巻く線材圧延設備以外は存在しないという状況になっている。一方で、釜石は、日本製鉄の独立発電事業(IPP)の拠点のひとつとなっており、火力発電所を設置して東北電力に発電した電力を供給している。この火力発電所の出力は岩手県内では最大で、2015年からは木質バイオマス燃料の使用を開始している。

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深刻な人口減少が続く釜石

大規模な製鉄所が所在していたことから、釜石市の人口は1963年の最盛期には9万2123人にまで増加したものの、その後は急速な人口減少が続いており、現在の人口は3万2125人(2021年1月日現在)と、最盛期の3分の1強の人口規模となっている。急速な人口減少の要因としては、製鉄・鉄鋼業の合理化と縮小、就職先を求めて首都圏や都市部への人口流出、地元から離れることになる大学進学率の上昇、日本社会全体の傾向でもある少子高齢化の進展、そして東日本大震災によるこうした地域課題のさらなる顕在化、などが挙げられている。  

つまり震災以前から、釜石市は構造的な人口減少という地域課題を抱えており、それが東日本大震災でさらに顕在化している状況となっている。それは、震災からの復旧だけでは、地域経済の衰退を招く人口減少傾向の原因となっている地域課題は解決されない、ということになる。このことは、復興住宅などの建設工事が終了して震災からの復旧・復興特需が2018年前半までに無くなると、釜石市内のタクシー需要も急減して営収が深刻な低下に陥ったことでも明らかだ。

そうした中で、釜石市が昨年2月に改訂版を取りまとめた「釜石市人口ビジョン・オープンシティ戦略・改訂版」では、「釜石市の人口は100年前と同水準にあり、日本全体で急激な人口減少・少子高齢化が進展する中で、釜石らしい持続可能なまちづくりのあり方を探求していくことが求められている」などとしながら、国立社会保障・人口問題研究所によれば、釜石市の将来人口は、「2040年には2万3266人まで人口減少が進展していく」とされていることを指摘して、このままでは今から20年弱でさらに人口が1万人弱減って、約3分の2にまで減る懸念があることを示している。  地域社会の縮小とともに地域経済に深刻な疲弊をもたらす少子高齢化による急速な人口減少は、釜石市だけでなく日本の地方都市が共通して抱える地域課題だ。

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釜石港

東日本大震災で被災

人口減少の進行という深刻な地域課題を抱える釜石市を、2011年月日に発生した東日本大震災が襲い、巨大津波が甚大な被害をもたらした。釜石港は、1896年の明治三陸沖地震、1933年の昭和三陸地震、1960年のチリ地震で過去に3度の津波被害を受けていたことから、2009年月には釜石湾の湾口部を北北西から南南東へ横断する北堤と南堤2本からなる巨大防波堤を建設。2010年には「世界最大水深の防波堤」としてギネスブックにも認定されたものの、東日本大震災での巨大津波は、この世界最大水深の防波堤をも倒壊させることになった。  

釜石では「津波への対策は万全」と考えられていたものの、防波堤を倒壊させた巨大津波は釜石市内中心部にまで達し、死者888人、行方不明者158人の人的被害、全壊家屋2955棟と半壊家屋693棟という甚大な被害をもたらした。

釜石タクシーも甚大な被害

市内中心部に本社のあった釜石タクシーも津波で被災した。釜石タクシーは釜石港から約1キロ離れていたが、東日本大震災の津波被害により本社営業所と平田営業所が甚大な損害を受け、14台あったタクシーのうち11台が流出。稼働可能なタクシーは3台のみとなった。

そうした中で、釜石タクシーの乗務員らで組織する全自交岩手地本釜石支部では、全自交岩手地本や全自交労連本部を通じて全国に支援を要請。これに、神奈川県秦野市の秦野交通がタクシー3台とカーナビ、国際興業大阪の神戸支店(兵庫県神戸市)がタクシー3台、加古川タクシー(兵庫県加古川市)がタクシー2台、さらに東京福祉バス(都内荒川区)がジャンボタクシー1台を釜石タクシーの再建のために寄贈した。

釜石タクシー

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岩手県内からも、盛岡市のつばめタクシーが車両整備や部品調達などで同社の再建を支援したほか、奥州市の北都交通も支援物資を積んだタクシーを釜石市まで走らせるなどして応援した  

2011年7月には釜石市内の中妻町に仮設の営業所を開設。震災前には20人ほどいた乗務員は、自宅流出による遠方避難からそのまま退職したり、働くことを断念したりしたことなどで8人にまで減少したものの、その後は少しずつ増加して2014年4月の現在の新社屋完成時には 14人にまで増えた。  

現在の社屋は、東日本大震災の影響で釜石市街が地盤沈下したことへの対処のため、周辺道路とともに盛土をして、かさ上げ工事を実施。その上に、屋根付きの車庫と本社営業所を復興支援の補助金なども活用して新設した。タクシー車両についても支援車両からの代替を進め、9台をトヨタ自動車プリウスαとした。復興特需もあり、2018年上期頃まではタクシー営業収入も震災前よりも高く推移した。

本紙編集長が釜石タクを訪問

本紙の熊澤義一編集長は2月19日、東日本大震災での被災から10年を迎える岩手県釜石市にある釜石タクシーを訪問した。熊澤編集長は、2014年4月20日に開催された釜石タクシー新社屋完成祝賀会を取材していたという縁もあり、再び釜石タクシーを訪問して、同社の小澤伸之助社長に震災から今日までの釜石タクシーについてのインタビューを行ったほか、釜石タクシーの被災からの再建に大きな役割を果たした全自交岩手地本釜石支部の後藤文雄前委員長(震災当時の委員長。前釜石市議会議員)、今野徹委員長、小池雅秋副委員長、さらには全自交岩手地本の森茂委員長、東日本大震災の発生時に本社営業所で無線配車を担当していた釜石タクシーの藤井裕之総務課長らから話を聞いた。

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小澤社長にインタビュー

ー全国的に新型コロナ禍による タクシー需要の減退が深刻な状況となっています。釜石タクシーにおける新型コロナ禍の影響はいかがですか。

小澤社長

小澤社長 昨年4月頃から釜石タクシーの営業収入も前年同月対比で50%というような状況となり、5、6、7月と少しずつ売上が回復しつつあったものの、その後、再び減少に転じて昨年12月は前年同月比で 50%を割り込む状況となった。今年1月以降も10都府県で緊急事態宣言が発出されたことから、厳しい状況が続いています。

釜石タクシーの営業所は、市内中心部の飲食店や飲み屋が多く集まる地域にあり、どちらかというと夜の稼働が、市内の他のタクシー会社と比べて多いというのが特徴となっていた。新型コロナ禍で、その強みだった夜のタクシー需要がほとんど無くなってしまった。  

14台(一般タクシー12台とジャンボタクシー2台)あったタクシーも、需要に合わせた効率化のため一般タクシー9台、ジャンボタクシー1台の計10台に減車している状況だ。人員面では、運行管理や無線配車などの担当が3人、事務員が1人、乗務員が人で釜石タクシーを運営しています。

ー釜石市内では、ー昨年末から市役所職員や市内で勤務する県職員による飲酒運転が相次いだことが大きな問題となったことから、市役所や県関係の公務員、企業関係者を中心に忘年会や新年会、歓送迎会など飲酒を伴う会合を自粛する傾向が強まっていたところに、新型コロナによる夜間飲食の自粛が、夜のタクシー需要減に拍車をかけて深刻な影響を与える事態となっているようですね。私も昨晩、釜石市内の夜の飲食店街をみたが、出歩く人の姿を見かけなかった。

小澤社長 タクシーの事業環境としては、釜石市内は非常に厳しい状況にあります。

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事業再開のつもりはなかった

ー話は変わりますが、10年前に発生した東日本大震災で釜石タクシーは津波による甚大な被害を受けました。釜石タクシーの事業再建について、当時はどのように考えましたか。

小澤社長 私は、釜石タクシー以外にも、花巻や宮古の自動車学校、弁当事業の丸和、FRP(強化プラスチック)製品製造の三陸技研、そして不動産賃貸業を中心とした小澤商店などをグループとして経営していますが、釜石タクシーは震災前から経営状態が悪く、また、乗務員らで組織されていた労働組合との関係も良くなかった。そうした状況にある中で、東日本大震災で釜石タクシーが被災しました。  経営者である私の本音としては、被災後に釜石タクシーの事業を再開するつもりはありませんでした。自動車学校や小澤商店なども被災しており、東日本大震災での被災を機に、釜石タクシー以外の事業に注力していこうと考えていました。

ー経営状態が震災前から悪かった釜石タクシーについては、被災をきっかけに廃業しようと考えられたのですね。釜石タクシーの再建に向けて翻意された理由は何ですか。

小澤社長 私が、釜石タクシーは再建しない、としたことが震災後のスタートだったのですが、それでも乗務員の代表、そして全自交岩手地本の森委員長が私のところに何度も足を運び、全自交労連の全国的なネットワークでタクシー車両やカーナビなどを寄贈していただいた。そのことが、私が釜石タクシーを再建すると翻意する上で大きかった、というのは事実です。

ーなるほど。

小澤社長 そうした中で、今でも続いているのですが、被災した釜石タクシー内に労働組合と私を含む経営側で組織する復興委員会を設置することになりました。労使が一緒になって釜石タクシーを経営していこう、というもので、今でも毎月開催しており、そこには全自交岩手地本の森委員長にも参加してもらっています。復興委員会では、釜石タクシーの経営上の数字もすべてオープンにして、経営上の課題もすべて出して、釜石タクシーの経営改善に向けてどうしていったらいいか、この10年間、労使が一緒になって話し合いを続けてきています。

ー非常に珍しい取り組みだと思いますが、人口減少が深刻化して地域経済が疲弊する地方都市のタクシーが生き残っていくためには、労使が共通の課題認識を持ってタクシー事業運営にあたっていかないと事業を継続していけない、それぐらい厳しい経営環境だということですね。

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タクの復興特需も無くなる

小澤社長 震災以降は、復旧・復興のための工事関係者が釜石市内にも多く来た関係で、市内の景気としては良く、タクシーの需要も震災前より多かった。東日本大震災のあった2011年以降、2018年の夏前ぐらいまでは復旧・復興関連のタクシー需要が相当あって、タクシーの経営的にも本当に良かった。

ー復興特需といわれるものですね。

小澤社長 それが、釜石市内における復旧・復興事業が終了して工事関係者が徐々に釜石から引き揚げていくと、それに伴うように2018年の後半から2019年へと、市内のタクシー需要はどんどんと減少し、釜石タクシーの営業収入も落ち込んでいった。そうした状況のところに、2020年になると新型コロナウイルスの感染拡大が起きた。

2019年でさえタクシーの営業収入は落ち込んでいたのに、さらにそこから新型コロナ禍で50%もの営収ダウンとなった。

パソナの「ふるさと兼業」活用

ー復興特需の喪失と新型コロナ禍のダブルパンチで、釜石タクシーの経営状況が非常に厳しいのは分かりましたが、将来に向けた展望や新たな取り組みは何かありますか。

小澤社長 人材派遣大手のパソナが「ふるさと兼業」というプロジェクトを実施しています。高度な技能やノウハウを持った人材の集まる首都圏で副業をする人が多くなってきていることから、そうした副業をしたい人と、地方の中小企業をマッチングすることで、地方の中小企業が抱える経営課題を解決しようというものです。そこで、その「ふるさと兼業」というプロジェクトを釜石タクシーで活用することにしました。

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ー地方では、高度なAIやIT技術などを持つ人材を採用することは難しいと思うので、地方の中小企業がAIやIoTの導入などによるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を考える場合には、ネットを活用しての副業や兼業というのは利用しやすい仕組みですね。

小澤社長 新型コロナの影響で、観光客は激減。釜石タクシーが主要顧客としている夜の飲食店街にも人がいなくなり、高齢者の姿も減った。震災後の復旧・復興事業が終了すると、もともと人口減少が原因で長期にわたって営業収入が低迷していた釜石市内のタクシー事業にとっては、今回の新型コロナ禍は大きなダメージとなっています。

そうした中で、従来からのようなタクシーのビジネスモデルでは人口減少が続く地方では存続していくことが難しい、と私は考えており、今後、地域で持続可能なビジネスとしてタクシー事業を運営していくためにはAIやIoTを活用した新しいサービスの創出が必要不可欠だと考えています。  

その一方で、地方の中小タクシー事業者が、ITなどのスキルを持った人材を採用することは難しい。そこで、この「ふるさと兼業」のプロジェクトで、求める人材として①経営者と同じ目線で事業を構想できる人、②変化やチャレンジを前向きに捉え、楽しめる人、③自ら学び自ら考え行動できる人、④スピード感を持ってPDCAを回せる人、⑤チームメンバーと助け合える人ーなどとした上で、「Webサービスの立ち上げ業務に携わった経験のある人」、「モビリティ関連事業のIT化に携わった経験のある人」、「IoTを活用した業務経験がある人」の条件で、テレワークによる副業としての兼業募集をしたところ12人もの応募があり、その中の1人を採用して、昨年11月から週1回のWEB会議などを開いて釜石タクシーとして新しいサービスを開発するための取り組みを進めているところです。今回は月額3万円での契約なので、これなら地方の中小タクシーでも負担できます。

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ー具体的には、どういったことを検討しているのですか。

小澤社長 タクシーが地域の中で果たす役割を考え、地域課題とAIやIoTなどの技術で新たなサービスの開発や新たなビジネスモデルを創出し、地方のタクシーが生き残る道を考えていきたい、ということがあります。  まずは営業収入が上がらない中でタクシー事業の経営を成り立たせるためには固定費を下げるしかないが、固定費で大きいのが無線配車の部分です。そこで、人に頼っている部分をAIに置き換えることで自動化できないか、と検討しています。

もうひとつが、営業収入を上げるための方策で、高齢化が進む釜石市におけるニーズとして、高齢者の見守りや介助の代行、グループの事業でもある弁当の配達など、AIの活用や行政との連携などで、何か釜石タクシーとして新しいサービスが提供できないか、ということについても固定費削減の方策と同時並行で検討しているところです。

ータクシー事業経営において負担が大きくなっている無線配車業務などに関する固定費の削減に加え、旅客輸送だけでなく、様々な地域ニーズに対応した新サービスを兼ね合わせることでタクシーの生産性を引き上げよう、とういうものですね。

小澤社長 釜石タクシーの強みは、グループ経営にあると考えています。グループ企業で弁当事業、さらに自動車学校を経営していますが、こうした事業は新型コロナ禍の影響を受けていない。さらに、メーカーとしてのFRP製品製造事業も影響を受けていません。新型コロナ禍でタクシー需要が激減して乗務員としての仕事が無くなっても、グループ内における出向という形で弁当の配達や自動車学校の送迎などといった仕事があります。  また、グループ事業との連携で、地域ニーズのある食料品や総菜の配達とタクシー事業を組み合わせることが出来ないか、ということも考えているところです。

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ーグループ企業内でのシナジー効果ですね。

小澤社長 そうした一方で、釜石タクシーの経営のことだけを考えることも必要ですが、タクシーは公共交通機関であり、釜石市内にも複数のタクシー会社があります。飲食の自粛などで夜のタクシー需要が激減する中でも夜間のタクシーニーズがゼロになる訳ではないので、少ない需要の中で各社が車両と人員をそれぞれ配置しているというのが現状です。しかし、地域全体でみれば、こうしたことは無駄が多いということになります。

ータクシー需要が激減する中で、共倒れにもなりかねません。

小澤社長 夜の需要に対して、地域全体で車両と人員の配置を最適化するにはどうしたらよいか、地域全体で最適化を図れるような仕組み作りが必要だと考えています。

ー地方では、夜間のタクシー需要が減少する中で深夜~早朝の運行を取り止める事業者も増えている。しかし、地域の住民が深夜でも安心・安全に移動できる手段を確保しておくことは治安や防犯の面からも重要であり、そうした観点から、例えば、その地域に必要な深夜時間帯のタクシーについては自治体が借り上げるなどして運行を確保する、深夜でも安心・安全な街づくりという視点からタクシーを活用してもらうことも必要ではないでしょうか。

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小澤社長 その通りだと思います。私は釜石商工会議所の副会頭もしており、地域における街づくりや街の活性化という視点はとても重要だと考えています。

新しいサービス創出を考える

ー最後に

小澤社長 先ほど、新型コロナ禍においてグループの中で釜石タクシーだけが赤字だという話をしましたが、その一方で、私は釜石タクシーが「良くなってきている」とも思っています。震災前は、労使関係も悪く、従業員と経営者が別々の方向をみて会社を運営しているような状況でしたが、震災以降は、復興委員会を毎月1回開催し、釜石タクシーの経営課題について前向きに話し合いが出来ている状況となっています。  

私が、釜石タクシーは再建しない、としたことが震災後のスタートでしたが、それでも乗務員の代表、そして全自交岩手地本の森委員長が私のところに何度も足を運び、全自交労連の全国的なネットワークでタクシー車両やカーナビなどを寄贈していただいた。そのことが、私が釜石タクシーを再建すると翻意する上で大きかった、というのは事実です。  

全自交労連の方々、タクシー車両やカーナビを寄贈していただいた神奈川・秦野交通の佐藤社長に新社屋完成祝賀会に出席していただいたのも有難かったのですが、会社を継続して釜石タクシーを残していくことが一番の恩返しだとも思っています。  

新型コロナ禍で厳しい経営環境ですが、逆に考えると、新しいサービスの創出を考えるきっかけにもなるチャンスだと前向きに捉え、「ふるさと兼業」で採用した人材のAIやIoTのスキルやノウハウの活用、弁当事業などのグループでの連携なども含めて、何とかこの危機を乗り越えて行きたいですね。

ーありがとうございました。

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全自交岩手地本釜石支部

本紙の熊澤編集長は、小澤社長のインタビューに続き、釜石タクシーの被災からの再建に大きな役割を果たした全自交岩手地本釜石支部の後藤文雄前委員長(震災当時の委員長、前釜石市議会議員)、今野徹委員長、小池雅秋副委員長、さらには全自交岩手地本の森茂委員長、東日本大震災の発生時に本社営業所で無線配車を担当していた釜石タクシーの藤井裕之総務課長らから話を聞いた。

ー東日本大震災の発生当時の状況はいかがでしたか。

藤井総務課長 私は東日本大震災が発生した2011年3月11日の無線配車担当で、地震発生時も釜石タクシーの本社営業所の事務所にいました。とても大きくて長く揺れた地震ではあったが、地震の揺れそのものでの事務所の被害はほとんど無かった。停電はしたものの、戸棚のマグカップが2つ割れたぐらいで、事務所の機器や備品等にも損害は無かった。そのため、防災無線のサイレンが鳴ったものの、釜石港から1キロほど離れた市内中心部に釜石タクシーがあったこともあり、近隣でも津波の発生を危惧してすぐに避難する人は少なかった。道路に出て話をしているような状況でした。

ー釜石市内では、地震そのものの被害は少なかったのですね。

藤井総務課長 停電で会社基地局の無線機は使えなかったのですが、タクシー車両に搭載した無線移動局同士の通話なら停電時でも可能なことを無線配車担当の先輩から教えてもらっていたので、本社車庫のタクシー車両の無線機を使用して、当時営業中だった3台のタクシーに避難指示を出しました。結果的に、その3台のタクシー車両が津波による流出被害を逃れたことで、震災後のタクシー事業再開に向けた営業を継続することができたことになります。  

また、結果的に地震発生から津波が来るまでに30分ほどの時間があったので、後から考えれば本社のタクシー車両を退避させておくことも可能だったが、当時はそこまで考えが及ばなかったし、近隣の人達も避難していなかったので、釜石タクシーの場所にまで津波がやって来るとは思ってもいなかった、というのが当時の実情です。

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ー釜石タクシーは、津波で甚大な被害を受けることになるのですが、その後の状況はどうでしたか。

藤井総務課長 釜石タクシーにタクシーのお客さんがやって来るようなこともあって、私は事務所の中に留まっていたものの、事務所前の道路を消防車が港の方からもの凄いスピードで走り去っていく姿を目にして、これは尋常ではないぞと港の方向に目を向けると、津波が押し寄せてくる様子が見えました。慌てて、近くの4階建ての立体駐車場の上に逃げたものの、走っている横から津波の海水がやってくるような状況で、まさに間一髪でした。  

釜石タクシーの近隣にあった商店街では、店の中にいて逃げ遅れて亡くなった方も多かったが、もっと地震そのものでの被害が大きければ、逃げ遅れて津波で亡くなった人は少なかったのではないか、とは思いますね。

ー九死に一生を得たような状況でしたね。

労組員の安否確認に奔走

後藤前委員長 私は、地震発生当時は自宅にいて、自家用車で釜石の市街に向かったものの、途中で警察官が道路封鎖をしていて、釜石タクシーのある市街には行けなかった。ようやく3日後になって道路封鎖が解除されたが、道路は津波で押し流された瓦礫の山で自動車の通行は無理なことから、徒歩で釜石タクシー本社に向かったものの、瓦礫で滅茶苦茶な状況で、タクシー車両も津波で流出していた。その後、労組員の家を尋ねるなどして、数日かけてようやく労組員全員の安否を確認することができました。

森委員長 後藤委員長(当時)から公衆電話で連絡を受けて釜石タクシーと現地の様子を聞き、食料や飲物など必要な物資を届けに行くから2日間待って欲しいと告げました。その後、釜石駅に到着すると、髭が生え放題になっていた後藤委員長の姿がありました。

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全自交岩手地本釜石支部

釜石タクを再建する考えない

ー釜石タクシーの再建に向けた取り組みはいかがでしたか。

後藤前委員長 震災前から釜石タクシーの業績が悪かったこともあり、震災後、最初に小澤社長に会った際には、釜石タクシーを再建する考えがないことを告げられました。それでも何度か小澤社長のところへ足を運び、さらには全自交岩手地本の森委員長も交えて話をして、ようやく釜石タクシーの再建に向けて一歩を踏み出せるような状況となりました。

森委員長 私からは小澤社長には労働者を大切にしてもらいたいということ、一方で、釜石支部の労組員たちには小澤社長への全面協力を約束して業務に関わってもらいたいということ、を要請しました。そのことは、今も変わりません。

小池副委員長 釜石タクシーの営業所は津波被害で使用できる状態に無かったため、小澤社長にアパートの一室を用意してもらってそこを臨時営業所とし、津波で被災した本社営業所から水没した書類などを回収、事務職員にも出社してもらい少しずつ体制を整えていきました。

後藤前委員長 そうしていたところ、全自交岩手地本の森委員長から、全労災の被災地調査などの仕事を紹介してもらい、被災を逃れた釜石タクシーのタクシー3台を全労災で借り上げてもらうことができた。タクシー3台をフル稼働させるための交番を組み、タクシー3台をフル稼働させることで、釜石タクシー再建に向けた資金稼ぎをすることが出来ました。

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復興特需が無くなりコロナ禍

ーその後、2014年4月に現在の釜石タクシー新社屋の完成披露祝賀会が行われました。2018年の前半ぐらいまでは、震災復旧・復興の特需で、タクシーの営収も良かったようですね。

藤井総務課長 復興住宅の建設などで全国から工事関係者が釜石に来ていたことから、そうした工事関係者を宿舎まで送迎するという仕事が多かった。

後藤前委員長 震災前では考えられなかったような営業収入が上がったが、釜石市内での復旧・復興工事が終了して工事関係者が引き上げるに伴って2018年後半には営収も急落することになった。

ー今野委員長は、釜石タクシーの現状をどうみていますか。

今野委員長 震災復旧・復興需要のあった2018年の前半ぐらいまでは、タクシーの需給バランスもとれていて固定費を含む経営収支も賄えていたが、2018年の後半から右肩下がりとなり、釜石市内でも試合が行われた2019年秋のラグビーワールドカップの終了後にはタクシー需要は急降下。2020年になると新型コロナウイルス感染症の問題が出てきて、4月には営収が前年同月比で半減、会社の固定費が賄えない状況が今日まで続いています。その一方で、乗務員も安心して生活できるような給与が得られずに苦しんでいるという状態です。タクシー需要が激減する中では、雇用調整助成金を積極的に活用することのほか、労組としても釜石市にタクシー事業の経営実態を訴えて支援を求めているところです。

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ー現在の営収は対前年同月比でどのくらいの水準ですか。

今野委員長 営収は前年比で半分以下という状況です。会社も赤字の状態が続いています。新型コロナ禍についてはワクチン接種に期待するしかないのですが、現状において、タクシー事業に関しては何の光明も見えていないという状況です。仕事が無ければ休業して、できる限り赤字を出さない、赤字を減らしていく取り組みを続けていくしかない、と思っています。

ー最後に。

森委員長 高齢者のワクチン接種にはタクシーを利用してもらえるよう補助することを釜石市に要請するなど、タクシーを活用してもらうアイデアを、こちらから出していく必要がある、と思っています。地方ではバス路線の廃止もこれからさらに増えていくでしょうし、タクシーがその受皿になるためには乗務員が充足している必要があります。ワクチン接種で新型コロナ禍が収束に向かってタクシー需要が回復しても、乗務員が足りなければ対応できない。例えば、釜石タクシーにおいても、今のうちに内勤者も含めて二種免許を取得しておく必要があると思っています。  

今のうちにコロナ禍収束後のことを考えて準備していく、グループ経営の強みを生かしてグループ企業にもっとタクシーを活用してもらえるような提案をしていく、グループ内で釜石タクシーだけが赤字だというような状況にしておかない、そうした取り組みが我々の職場の維持にとっても必要不可欠です。

ーありがとうございました。

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次回Taxi Japan 386号 をお楽しみに!

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日本タクシー新聞社の発行する、タクシー専門情報誌「タクシージャパン」は毎月10・25日発行。業界の人が本当に求めている価値ある情報をお届けするおもしろくてちょっとユニークな専門紙です。