東京ハイヤー・タクシー協会が毎月まとめているタクシー輸送実績表をみていて見逃すことができない事実に気付いた。それは、特別区・武三地区における実働日車営収について原価計算対象事業者の金額が東タク協傘下による全事業者の集計値を下回っていることである。
具体的にみる。直近の数字で令和3年12月の全社計の実働日車営収が5万3740円で原価計算対象事業者が5万0044円。以下、11月、10月、9月と遡ってもすべて原計対象事業者が全社計を下回っている。さらにこの傾向を暦年の定点観測でみると令和2年12月の全社計が4万1862円で原価計算対象事業者が3万8229円、令和元年12月が5万7470円に対して5万5155円、平成30年12月が5万5739円に5万3806円と同様に原価計算対象事業者が下回っている。
一方、多摩地区は、令和3年12月の全社計が4万4838円に対して原価計算対象事業者が4万6642円、令和2年12月が3万7753円に対して3万9092円と全社計より原価計算対象事業者が上回っている反面、令和元年12月が4万6080円に4万5177円、平成30年12月が4万6272円に4万5140円と今度は全社計が原価計算対象事業者を上回っている。多摩地区はまちまちの実態なのに比べて特別区・武三地区は一貫して原価計算対象事業者が下回っているのがわかる。そもそも原価計算対象事業者とは何か?
国土交通省が定めた運賃改定手順では、①小規模、零細②事業開始3年以内③平均車齢が特に高い④事故多発⑤実働率又は従業員一人当たり営業収入が低水準Iの事業者を除いて標準能率事業者を選定。そして標準能率事業者の中から事業規模別に原価計算対象事業者を抽出。その原価計算対象事業者が提出した営業収支に係る数値を元に運賃改定率を決定するのである。
小規模零細でなく実働率や営業収入が低水準でない原価計算対象事業者の実働日車営収が東タク協の全事業者の数値より低水準ということは何を意味するのか。現在の原価計算対象事業者の元となった前回運賃改定は15年前の平成19(2007)年であり、歳月がこうした結果をもたらしているとも言えるが、一方で、標準能率事業者の選定が恣意的で杜撰であり、その中から抽出した原価計算対象事業者も同様ということにも原因があるのではないか。標準能率事業者や原価計算対象事業者の選定、抽出を取りやめて、全事業者による輸送データーおよび税務申告書を元に必要係数を組み込んだAI(人工知能)で運賃改定の是非や改定率を分析、算定すれば、総括原価の変動に応じた適時適切な運賃改定となり、国交省による恣意的な裁量権というさじ加減行政を排除できるのではないか。
国交省は、こうした事実に鑑み、標準能率事業者や原価計算対象事業者の選定、抽出する事業者の入れ替えというような対症療法でなく、現行の運賃改定手続きのあり方そのものを見直す契機にしてもらいたい。
(高橋 正信)
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