論風一陣 営業権の推移にみるタク経営の健全度(Taxi Japan 420号より)

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タクシー事業のM&A(合併・買収)について、国土交通省(2001年1月発足)の前身である運輸省時代を振り返る。

タクシー事業のM&Aは、大きく分けて、株式売買による企業の譲渡譲受、または運輸当局の認可を得て実行するタクシー事業の譲渡譲受の2つの方法がある。運輸当局は、タクシー事業の譲渡譲受を認可事項としながらタクシー1台当たりの営業権価額の存在を否定してきた。しかし、株式の譲渡譲受では、デューデリジェンス(資産や負債などの再評価)においてタクシーの営業権価額を資産の部に計上して株価の評価をしていたのである。

一方、タクシー事業の譲渡譲受申請では、当事者間の契約書の添付が求められた。ところが運輸当局は、タクシー営業権の存在を認めなかったので、申請当事者は、契約書を2種類作成し、業権価額の記載がない契約書の方を申請書類に添付していた。

 
かねてこの成り行きに疑問を抱いていた筆者は、のちに運輸事務次官になるH氏が地域交通局長時代に運輸当局がタクシー営業権の存在を認めないのはどうした訳かを問い質したところ、「免許する権限を持ったところが営業権を認めるわけにはいかない」との返答。これに、「実際に株式譲渡の場合は営業権が存在しているし、あらゆる商売や事業体には、それなりの営業権が存在する。税務当局も認めているものを認めないのはおかしい」と詰め寄ったところ、H局長は、「それもそうだな」とあっさり認めた。それから程なくして、申請書に営業権の金額が記載された契約書を添付しても受理されるようになったのであった。
 
そのような水面下にあるタクシー営業権の推移は、バブル期の東京においてタクシー1台1000万円での取引が複数回あった。その後の規制緩和による需給調整規制撤廃で営業権はゼロに。そしてタクシー特措法による再規制で復活。新型コロナ禍前の段階ではバブル期の半額程度だったタクシー営業権の金額は、コロナ禍でさらに半減。ところがコロナ禍が収束の方向になると、直近の金額はコロナ禍前に対して80〜85%まで回復しているのである。
 
その東京に対して大阪は、コロナ禍前の営業権は東京の約半額。それがコロナ禍の中で20〜30%の金額にまで大幅下落。アフターコロナに向けた現在に至っても東京のように回復の兆しがない。さらに大阪以外の多くの地域でも存在していたタクシー営業権は、ほとんどが消滅し回復のメドも立たないといわれている。タクシー営業権の推移をみるにつけ、東京の一人勝ちというよりも、東京を除くその他の地域のタクシー経営の健全度がコロナ禍によって大きく毀損してしまったという見方が出来そうだ。
(高橋 正信)

次回Taxi Japan 421号 をお楽しみに!

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