ライドシェア解禁を巡る政官界のこれまでの強引で拙速な経緯を振り返る。
昨年の8月19日、菅義偉・前内閣総理大臣が、長野青年会議所の創立70周年記念講演会での質疑応答の中で「(ライドシェア解禁に肯定的か、との問いに)そう思っている。これだけ人手不足になって来たら、そうした方向性も必要。議論していきたい」などと発言。それから昨年10月23日の臨時国会冒頭での所信表明演説の中で、岸田文雄・内閣総理大臣が「移動の足の不足といった、深刻な社会問題に対応しつつ、ライドシェアの課題に取り組んでいく」と述べ、タクシー業界に衝撃が走った。これが、今日まで続くライドシェア解禁論議の出発点となった。
そして昨年11月6日には、河野太郎・規制改革担当大臣が統括する政府の規制改革推進会議の第1回地域産業活性化ワーキンググループが、「地域の交通に関する現状と課題」を議題として開催され、ライドシェア解禁に向けた怒涛の論議の火ぶたを切った。それと並行する形で、小泉進次郎・衆議院議員が世話役になって超党派のライドシェア勉強会が立ち上げられ、全面解禁を目指すライドシェア新法を視野に立法府での根回しがおこなわれている。
神奈川県選出で知名度も高い、菅前総理、河野デジタル大臣、小泉・衆院議員の3人によるマスコミ、政府、国会における役割分担と連携ぶりは、誰かがシナリオでも描いているかのような見事さである。確かに、菅発言から8カ月余で自家用車活用事業という名称での「日本版ライドシェア」を誕生させたスピード感も異例であろう。さらに、今回のライドシェア解禁問題は、岸田政権下でも、とりわけ内閣府主導で論議が進められていて、国土交通省の政策立案から決定のプロセスまでの各段階で、内閣府による異例の形での関与と事前チェックが行われている。
解禁派3人組の軌を一にしたライドシェアに関する言動は、国民の移動の足確保の決定打というのか。ライドシェアが国民の移動の足を確保できるという科学的な分析や考察は寡聞にして知らず、大いに疑問である。筆者は、ライドシェア全面解禁ありきで新規ビジネスへの利権を見越した組織、団体による大きな推進圧力が、その背景にあるのではないかと推測してしまう。
国民の移動の足を確保していくには、ライドシェアが決め手ではなく、総合的な交通体系全体の再編と整備が必要だ。それが出来ないことへのスケープゴートとして、ライドシェア解禁論が台頭している、と筆者はみている。解禁派3人組の落としどころは、タクシー事業者を実施主体とする「日本版ライドシェア」に止まらずに、さらに先にある本格的な全面解禁であることを忘れてはならない。
(高橋 正信)
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