東海道・山陽新幹線のグリーン車において無料配布されている月刊の政治・経済雑誌「Wedge(ウェッジ)」8月号に、ジャーナリスト・中西享氏(共同通信社客員論説員)の「透明人間が運転?『Waymo』に乗って分かったこと」と題した、米サンフランシスコ市での自動運転タクシー乗車体験記が掲載されていた。Waymo(ウェイモ)は、米IT大手グーグルの親会社であるアルファベット傘下の自動運転車開発企業である。
内容は、「サンフランシスコ市内で度々目撃した完全自動運転タクシーの『Waymo(ウェイモ)』。そのスムーズな運転に衝撃を受けるとともに、安全性、利便性を体感することができた」というもので、乗車体験を概要次のようにレポートしている。
- 車両はジャガーで4人乗り。車体には複数のセンサーやカメラが設置され、障害物を素早く検知する。迎車場所や行き先もスマホで指示するだけである。
- 車両に乗り込み、後部座席にあるタッチパネルの「START RIDE」のアイコンを押すと、ハンドルがくるくる回り始めるとともに発進した。まるで透明人間が運転しているかのような錯覚に陥った。無人と言われなければ分からないぐらいスムーズだったからだ。シートベルトの着用を忘れていた我々には、警告音で知らせてくれた。
- 走行中、人がいれば減速し、右折、左折も難なくこなす。狭い道に入ると、右側に大型車、その先の左側に自動車が止まっていたが、スムーズに左に右にハンドルを切っていた。赤信号ではゆっくりと止まり、急ブレーキや急発進はない。端的に表現すると、人間の運転よりも”ちょっぴりうまい“のだ。
国土交通省とタクシー業界では、日本版ライドシェアを橋頭保にしてライドシェア全面解禁を目指す新法制定を阻止する方針で対応している現状だ。ところが、米サンフランシスコ市では、利用者限定のサービスだったウェイモを、この6月25日からは一般市民にも開放したのである。この種の話は、米国の他都市や中国の一部都市でも既に実現しており、米中が先行する自動運転車の開発・実用化を巡っては、我が国でもホンダが米自動車大手GM傘下の自動運転車開発企業GMクルーズと合弁会社を設立し、自動運転タクシーの実証実験を2年後に都内の台場地区周辺で実施すると公表したのは周知の事実である。
全面解禁か阻止かのライドシェア論議を一過性のものと、無意味化しかねない完全自動運転タクシーの技術革新の進展と普及へのスピード感は、目を見張るものがある。完全自動運転タクシーの出現は、人が人の移動を担う道路運送法上で規定している一般乗用旅客自動車運送事業と呼ばれるタクシーの事業形態そのものを消滅させかねない。タクシー業界にとってのライドシェア論議は、黒船来襲のイントロに過ぎず、本番は、完全自動運転タクシーの登場ではないか。タクシー業界にとって「見ざる、言わざる、聞かざる」で触れたくもない完全自動運転タクシーの近未来予想図は、単なる予想に止まらず、現実のものとして市民権を得るその日が意外と、もうそこまで来ているのかも知れない。
(高橋 正信)
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