国土交通省は、先に全国を対象に準特定地域における期間限定のタクシー暫定増車枠を1467台設定して未稼働車両による移動の足の不足解消を目的に実施したが、この暫定の増車制度そのものが運輸行政によるタクシー不足対策として、いかにも”やっています“的な演出に終始し、はたして暫定期限が切れる1年後に実効が上がっているか大いに疑問である。
暫定増車制度の目的が、未稼働車両の補完による移動の足の確保というのだが、このところ都市部を中心にタクシー不足の解消が進んでいるばかりか、そもそも未稼働車両の存在とタクシー不足との因果関係は開示されていない。仮に未稼働車両の存在がタクシー不足の一因だったとしても、まず、未稼働車両の実態を明らかにし、その解消方法について策を講じるのが先決ではないか。未稼働車両があるから増車というのは、いかにも短略的にすぎる。
今回の全国における暫定増車枠1467台に対して、東京都特別区.武三地区だけで過半となる743台の枠が設定された。今回の暫定増車が、都内での増車のための制度と一部で指摘された所以でもある。そこで同地区の未稼働車両の特徴をみてみる。
特別区.武三地区における法人タクシー190社の3月分個別輸送実績を集計した某資料によると、保有台数割営収ランクのトップ会社による認可台数割営収は7万6437円、稼働1台当たり8万3033円、実働率は92.1%となっている。上位50社の稼働率は、概ね80%〜90%。都内における未稼働タクシーの大きな特徴は、あるグループの実績をみると分かる。系列も含めて保有タクシー台数が1500台強。一方で、190社中の順位では全社が180位台となっており、認可台数割では7570円〜1万2282円、稼働台数割で4万7292円〜5万2902円、実働率が15.4%〜25.1%と、低位の輸送実績となっている。
そこで、このグループの現行の実働率(単純平均で約20%)を全体で50%向上させて業界平均の70%と仮定すると、1500台×50%=750台となり、東京都特別区.武三地区の暫定増車枠743台を上回る台数となる。そうした状況の中で、供給過剰対策を目的とした改正タクシー特措法によって、法的に新規参入と増車を制限しながら、期間限定の暫定とはいえ増車策を講じるのは矛盾の極みであり、法制度の軽視とも言える。新規.増車を規制している中で取り組むべきは、未稼働車両がタクシー不足の一因というなら、まずは稼働対策を講じるべきが先決ではないか。法的に制限している増車を、暫定という免罪符をつけて堂々と制度として実行する。そんな運輸行政は、その寄って立つ要諦をすでに見失っているのではないか。
(高橋 正信)
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