論風一陣 回復しない需要へ暫定的供給削減策を! (Taxi Japan 372号より)

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西村康稔経済再生担当大臣は7月26日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者が再び増加していることを受け、各企業が社員のテレワーク率を70%まで戻すよう経済界に要請する考えを明らかにした。

これを受けてNTTはテレワーク率を5割から7割に引き上げる方針を表明。KDDIや小売り大手のセブン&アイ・ホールディングスなども同様の措置を決めるなど、大手を中心に多くの企業が追随してテレワークを拡充していく情勢となっている。このことは、東京を中心とした都市部のタクシー事業にとって需要の大きな部分を担うビジネス利用が本格的に回復せずに低水準のままで長期化する可能性が強いことを意味していて極めて深刻である。

新型コロナウイルス感染症の拡大に、政府は4月7日に緊急事態宣言を発令し、5月25日に解除したが、その間における東京都特別区.武三交通圏のタクシー輸送実績(東タク協まとめ原価計算対象事業者)の推移を見てみる。

新型コロナウイルス禍の影響が出始めた3月は、実働日車営収が3万7042円(対前年同月比72.6%)で実車率38.0%(同80.9%)、営収は3割弱の減少だった。その時の実働率は73.7%(同92.0%)。それが、緊急事態宣言が発令された4月になると、実働日車営収2万2511円(対前年同月比45.7%)、実車率28.1%(同61.1%)となり、実働率は53.6 %( 同66.2%)。稼働するタクシー車両が対前年比で3分の2程度にまで減りながらも営収は5割強も減少した。

5月は、実働日車営収3万0608 円( 対前年同月比65.3%)で実車率34.6%(同77.3%)。実働車当たりでは5月よりも回復傾向がみられたものの、一方で実働率は38.2%(同48.8%)と4割を下回る水準まで低下しており、この営収回復は大手事業者を中心に実施された乗務員の計画休業と50 %をメドとした稼働削減、さらには感染リスクを懸念した高齢乗務員の乗務見合わせなどの効果によるものだ。

緊急事態宣言解除後の6月は、実働日車営収3万5306円(対前年同月比71.4%)、実車率37.8%(同81.8%)だった。これらは大手事業者などの計画休業や稼働削減の終了で実働率も65.1%(同81.2%)に上昇しての数値で、7月以降のタクシー需要回復を期待させるものだった。

しかし、その後の感染拡大による政府の企業に対するテレワーク7割の要請は、せっかく回復基調にあったタクシー需要に冷水を浴びせかねないものだ。需要低迷が長期化すれば、収入確保の道を断たれた乗務員の業界からの退出が懸念され、そうした事態を回避するにはどうすればよいのか。それは、4月と5月の輸送実績の数値をみれば明らかだ。実働率を下げた結果、実働車当たりの営収が回復している。これらの数値を見れば、需要動向に応じた供給調整措置は不可欠な対応策といえまいか。ここはタクシー業界が総崩れにならないよう、新たな政策的支援も含めて大胆かつ暫定的な稼働削減策が求められるのではないか。(高橋 正信)

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次回Taxi Japan 373号 をお楽しみに!

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