ここ数年、日本社会の高齢化に伴い、高齢ドライバーのアクセルとブレーキの踏み間違いによる交通事故が頻発している。
とりわけ今年4月に都内池袋で88歳の旧通産省幹部が運転していた乗用車が暴走して31歳の女性と3歳の長女を死亡させ10人に重軽傷を負わせた悲惨な交通死亡事故は、全国に衝撃を与えた。その影響もあり、高齢ドライバーによる運転免許証の自主返納が急増し、5月以降の返納者数は前年同期の2倍のペースとなっている。
さらに直近では、12月1日に80歳の高齢男性が関越自動車道で軽乗用車を逆走させて乗用車と正面衝突して死亡、乗用車に乗っていた男女に重軽傷を負わせた。ドライブカメラによる逆走車両の映像は、この先で発生する正面衝突の凄惨さを予測させられてゾッとした。
乗務員の高齢化が進むタクシー業界でも、高齢乗務員が営業所内でブレーキとアクセルを踏み間違えて営業車を壁にぶつける自損事故や、帰庫した車両に擦り傷や軽度な損傷を受けながら乗務員本人が認識していないようなケースが散見されるのが実態だが、これらは高齢乗務員の認知機能低下による社会問題化しかねない暴走事故を予兆させる「ヒヤリハットの事象」だと受け止めるべきだろう。
そして今年9月にはヒヤリハットではなく、社会的指弾を受けかねないタクシーの暴走事故が名古屋市内で発生している。主要駅である金山総合駅南口のロータリーの歩道に、75歳の高齢乗務員が運転するタクシーが暴走して突っ込み、20代から60代の男女7人をはねて重軽傷を負わせた。事故の目撃者によると、タクシーが歩道に突っ込んで人をはねた後も、さらにバックして複数の人をはねたという。被害者の命に別条はなかったが、事故を起こした高齢乗務員は警察の調べに「当時の状況は覚えていない」と話していたという。
この事故発生後、当該タクシー会社の代表は、加盟する名古屋タクシー協会の理事会で「迷惑をかけ、タクシー業界の信用失墜を招いた」などと陳謝したという。しかし、このことは陳謝しただけではすまない。仮に、この高齢乗務員による暴走事故で被害者7人全員が死亡していたら、当該タクシー会社は社会的に非難され、利用者からは敬遠され、その結果、乗務員が退社して廃業の憂き目にあうことさえ想像に難くない。そればかりか、高齢乗務員そのものへの排除の機運が高まることも考えられ、深刻な運転者不足と長期の利用者減に見舞われているタクシー業界にとって致命的ダメージになりかねない。そうした最悪の結果を招かないための自衛策が必要だ。
運転者不足が深刻化する中で乗務員の高齢化に歯止めがかけられないのであれば、今いる高齢乗務員への対応として、認知機能の現状を把握し、認知機能の維持と改善を何らかの方法をもって対処しなければならないはずだ。いずれにしても挙手傍観は許されない。待ったなしで次善の対応策に着手しなければならない。
<高橋 正信>
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