【特集】コロナ収束後のタクシー事業を考える② 月額定額乗り放題の「タク放題」静岡Taasが第5回セミナー開催(Taxi Japan 411号より)

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Taasセミナー
経営環境が厳しさを増す地方の中小タクシー事業者の事業存続と発展に向けた事業モデルに取り組む、一般社団法人静岡TaaS(清野吉光代表理事、静岡市)は4月18日、静岡市駿河区の静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」で、第5回静岡TaaSの説明会を開催した。TaaSは、Taxias aServiceの略。
 
説明会では、静岡市の地域密着型官民連携コンソーシアム「しずおかMaaS」(静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト)にも携わる、名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所の金森亮・特任准教授が「静岡市の移動の未来とタクシー事業者に期待する事」と題した講演を行ったほか、タクシー専門ソフトハウス大手のシステムオリジン(海野知之社長、静岡市)が、同社のベストセラータクシー配車システム「テレハイAVM」と連携する車載型タブレット端末の新製品「テレハイみちびき」の商品紹介、タクシー事業者向け自社専用配車注文アプリ「ゆびタク」の静岡TaaS版「タク呼び」の開発などについて説明した。
 
また、国土交通省において4月1日から申請受付が始まった遠隔点呼について、遠隔点呼に対応したクラウド型点呼システム「e点呼PRO」を販売する東海電子(静岡県富士市)の杉本哲也社長が「遠隔点呼の現状と方向性」と題して講演し、遠隔点呼の概要を説明するとともに、実際に東海電子のシステムを使用して駿河交通との間で模擬的に遠隔点呼を実演してみせた。また、運輸支局等に提出する「遠隔点呼の実施に係る申請書」の内容などについても解説した。システムオリジンでIT労務アドバイザリー業務を担当し、社会保険労務士資格も保有する土橋豪氏が、タクシー乗務員を対象とした「フレックスタイム制導入とその課題」と題して講演し、「乗務員に適用するハードルは高い」としながらも注意点や課題などについて説明した。
 
このほか、清野代表理事が、静岡TaaSが7月1日から6カ月間の予定で取り組む、静岡市内の市街地北西部を対象にタクシーのエリア内月額定額乗り放題の実証実験「タク放題」の概要を説明。「タク放題」は、旅行業法の募集型企画旅行の枠組みを使ったもので、65歳以上は月額8000円、65歳未満は月額1万円で会員を募り、利用は月曜から金曜までの平日午前10時〜午後5時の間。「タク放題」の会員募集(目標は400人)のほか、受注・配車などの運用は静岡TaaSが担い、市内のタクシー2社が車両運行を受託する。
 
〈本紙編集長=熊澤義一〉
 
 

海野代表副理事が司会進行


静岡市駿河区の静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」で4月18日に開催された第5回静岡TaaSの説明会には、静岡市内のタクシー事業者ら多数が参加した。説明会の司会進行を行った、静岡TaaSの海野知之・代表副理事(システムオリジン社長)は、冒頭の挨拶で「静岡TaaSの説明会も今回で5回目を迎える。
 
いよいよ色々な事業が具体化して来ており、月額定額乗り放題の「タク放題」静岡TaaSが第5回セミナー開催今後の事業運営に当たっての参考にしてもらえれば」などと述べた。続いて、清野吉光代表理事は「第5回の説明会となるが、第1回の説明会を開催したのは昨年の5月21日だった。静岡TaaSとして、全体的な動きは遅々としているものの、それでも直実に一歩一歩を進めている状況だ。
 
そもそも静岡TaaSを作った目的は、もちろん静岡市の住民の足の確保がテーマだが、その一方で、タクシー事業の生産性をいかに上げるか、その仕組みをどうやって作るか、ということが大きな課題としてある。それを一つ一つクリアしていく中で、タクシー事業の存続と、さらに発展が出来るような仕組み作りに取り組んで行きたい」などと挨拶した。
 

名大の金森特任准教授が講演


「静岡市の移動の未来とタクシー事業者に期待する事」と題した講演を行った、名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所の金森亮・特任准教授は、2019年5月に発足した静岡市の地域密着型官民連携コンソーシアム「しずおかMaaS」(静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト)にも携わっており、今後展開される①Society5・0時代のモビリティサービス、②MaaS、③AIオンデマンド交通、④MaaSの特徴であるサブスクリプション(定額制)ーなどの概要を説明したほか、静岡市の交通政策や静岡市における官民連携コンソーシアム「しずおかMaaS」、さらには、2020年11月1日〜12月25日までの約2カ月で実施した静岡市の草薙地区におけるAIオンデマンド交通の実証実験(1回乗車200円、14日乗り放題で1000円)の概要やサブスクリプション利用者の利用回数は期間中の平均で29回であり、70歳以上の利用者も多かったことなどを説明。
 
今年1月17日〜3月11日にかけては静岡市内の社会福祉協議会とも連携してAIオンデマンド交通の実証実験を行い、一定の徒歩移動が必要な乗降スポット方式のエキスプレス・プール型(300円)とドア・ツー・ドア型(400円)の2種類の運行形態で料金差を設けて実施したことを説明し、一定の徒歩移動が必要な乗降スポット方式のエキスプレス・プール型では、ドア・ツー・ドア型との比較で細街路での利用が約半減し、車両運行の時間比較では、ドア・ツー・ドア型に比べてエキスプレス・プール型の方が約2割減となり、車両運行の面では効率化されることを指摘した。
 
金森・特任准教授は、タクシー事業者に期待する事として、AIオンデマンド交通(乗合事業)や自家用有償旅客運送の事業者協力などに挑戦して「新たな領域に参加する」ことのほか、「地域の交通事業者と連携する」ことで、自家用車以外の地域の公共交通サービスと一体化することが望ましく、運賃収益のみではないビジネスモデルを構築していくべきだとした。さらに「データに基づいてサービスを改善し続ける」ことの必要性も指摘した。
 
 

車載端末「テレハイみちびき」


また、システムオリジンの畑山久記企画部長が、同社のベストセラータクシー配車システム「テレハイAVM」と連携する車載型タブレット端末の新製品「テレハイみちびき」の商品紹介とデモを実演した。基本機能と使い勝手の良さを追求したタクシー乗務員用の車載型業務端末「テレハイみちびき」は、タクシー車内に設置した専用タブレット型端末上で動作するもので、システムオリジンが販売するベストセラー高機能タクシー配車システム「テレハイAVM」と連携し、配車依頼などの指示を受信して表示するほか、ナビゲーション機能を実装し、さらには乗務員が待機場所や休憩等の業務申請なども行うことが出来る。
 
「テレハイみちびき」は、市場が求める高度な情報化・IT化・ネットワーク構築への要求に対応し、かつ初期投資コストを抑えた月額利用料で提供可能なサービスになるとしているほか、さらに同社のベストセラータクシー事務処理システム「タクコン」と「テレハイAVM」をシームレスに連携できるスーパータクシーシステムの開発にも着手しており、「テレハイみちびき」を通じてリアルタイムでの乗務員指導や労務管理に活かすことが出来る連携機能の提供も予定している。主な機能として、①配車オペレーターと乗務員間の文字情報によるチャット機能、②配車先に道案内するナビゲーション機能、③音声通話機能、④待機場所や休憩・食事などの状態などの業務申告機能、④実空車などのメーター情報連動機能ーなどがデモを交えて紹介された。
 
システムオリジンの海野社長は、同社のタクシー配車システム「テレハイAVM」と連携する車載型業務端末「テレハイみちびき」について、「月額の一定額でなるべく低価格で導入していただけるようにしたいと考えており、タクシー事業者の皆様のコストダウンにも繋がるものにしていきたい。乗合などの他の様々なシステムとの連携も図れるようにしていく」などとする意向を述べた。
 
ステムオリジンの畑山久記企画部長

静岡TaaS版「タク呼び」


さらに、システムオリジンが開発・販売するタクシー事業者向け自社専用配車注文アプリ「ゆびタク」をベースに開発した静岡TaaS版「タク呼び」についても説明が行われた。「タク呼び」は、静岡TaaSが6カ月間の予定で取り組む、静岡市内の市街地北西部を対象にタクシーのエリア内月額定額乗り放題の実証実験「タク放題」の配車受注などで活用される予定となっている。
 

遠隔点呼で講演とデモの実演


国土交通省において4月1日から申請受付が始まった遠隔点呼について、遠隔点呼に対応したクラウド型点呼システム「e点呼PRO」を販売する東海電子(静岡県富士市)の杉本哲也社長が「遠隔点呼の現状と方向性」と題して講演し、遠隔点呼の概要や今後の制度運用の方向性などについて解説した。
 
東海電子の杉本社長は、静岡TaaSの清野吉光代表理事の子息の清野大樹氏が社長を務める駿河交通(静岡市駿河区)でも、新たに沓谷営業所を開設し、東海電子のクラウド型点呼システム「e点呼PRO」を導入することで遠隔点呼の実施を予定していることを紹介し、実際に東海電子のシステムを使用して駿河交通の清野社長が乗務員役となって運行管理者との間で模擬的に遠隔点呼を実演してみせた。また、運輸支局等に提出する「遠隔点呼の実施に係る申請書」の内容などについても説明した。
 

フレックスタイム導入と課題


システムオリジンでIT労務アドバイザリー業務を担当し、社会保険労務士資格も保有する土橋豪氏が、タクシー乗務員を対象とした「フレックスタイム制導入とその課題」と題して講演。
 
土橋氏は、残業の定義、残業時間の求め方、残業時間に関してよくある勘違いなどの基本的な事項を説明したうえで、フレックスタイム制やフレックスタイム制における残業時間の計算方法などについて解説。フレックスタイム制には、労働者の残業時間や残業代の削減につながるケースがあることを指摘しながらも、フレックスタイムの導入要件として「始業時間と終業時間を労働者の自由にする」という導入要件があるため、厳密な労働時間管理が求められているタクシー事業においては「乗務員に適用するハードルは高い」としながらも、注意点や課題などについて説明した。
 
 

地域全体最適プラットフォーム


最後に、静岡TaaSの清野代表理事は「システムオリジンの土橋氏に、フレックスタイム制の講演を依頼したのは私だが、乗務員の働き方の実態を考えればフレックスタイム制を導入するハードルが高いことは理解していたものの、それでも地方のタクシー事業が抱える課題を考慮すると、臭いものに蓋をして先送りするのではなく、(乗務員の労働時間や残業代の問題などの)課題を顕在化させて、それを解決する方法で対処していかないとタクシー業界の未来は暗いと思わざるを得ない。
 
大変さは理解しているが、そこを恐れずに対処していく努力をしていきたい」などとしながら、「静岡TaaSとしても新しい試みをいくつか実際に着手していくが、現実のハードルは高く、すんなりうまく行くのか不安もあるが、このままでは(特に地方の中小)タクシーはもたず、存続できず、未来は無いと感じている。そういう意味で、共同化を軸に、地域全体の最適プラットフォームを何とか立ち上げて、タクシー事業の生産性を何とか上げる仕組みを作っていかないと存続できない、ということを、この1年間で増々、試みをする中で実感している」などと指摘。
 
その上で、「ひとつの大きな柱は、共同配車であり、共同配車を行うために共同点呼が必要になる。その共同点呼を行うためには乗務員の労働時間管理における新しい工夫が必要となる」としながらも、「(総論賛成、各論反対で)その共同化そのもののハードルが高いのも現実だが、5月中旬をメドに駿河交通が新たに沓谷営業所を開設し、その上で(営業所間の)遠隔点呼に取り組み、共同配車についても静岡TaaSが1社のみだが駿河交通から業務委託を受ける形で5月中旬から配車運用を行いながら他社に働き掛けを行っていく考えだ」などとした。
 
タク放題
 

定額乗り放題の「タク放題」


清野代表理事は「もうひとつの柱として『タク放題』というエリア内月額定額乗り放題の実証実験を7月1日からスタートすることを予定している。共同配車化で配車マッチング率が向上しても、元となる安定したタクシー需要が無ければ効果は出ない。特に午前10時〜午後5時のタクシー需要は少なく、そこにサブスクリプションモデルを構築して安定した収入を確保したい。
 
一方で、タクシーの供給についても、副業のサブジョブドライバーとサブスクリプションの取り組みは相性が良いと考えており、サブジョブドライバーのマッチングをどう図っていくかも大きな課題だ。5、6月には『タク放題』のサブスクリプション会員を募集し、400人を目標に会員の獲得活動に取り組みたい。今までにない層の需要を獲得していきたい」などとする意向を示した。
 
最後に、清野代表理事は「これから静岡市内の個々のタクシー会社に対し、(静岡TaaSによる)配車業務受託の具体的な費用も含めてメリットのある数字を提示していけると思っている。システムオリジンからは車載型業務端末『テレハイみちびき』の紹介もあったが、導入できる条件の会社もある。静岡市の移動を担う地域全体の最適プラットフォームを立ち上げるために努力していきたい」などと締め括った。
 
静岡TaaSが7月1日から6カ月間の予定で取り組む、静岡市内の市街地北西部を対象にタクシーのエリア内月額定額乗り放題の実証実験「タク放題」の概要は、旅行業法の募集型企画旅行の枠組みを使ったもので、65歳以上は月額8000円、65歳未満は月額1万円で会員を募り、利用は月曜から金曜までの平日午前10時〜午後5時の間。
 
「タク放題」の会員募集(目標は400人)のほか、受注・配車などの運用は静岡TaaSが担い、市内のタクシー2社が車両運行を受託する。
 

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