【特集】アフターコロナを考える②景気後退する中での 感染拡大対策 需要に応じたタクの供給調整必要(Taxi Japan 372号より)

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小池都知事

日本国内における新型コロナウイルス感染者数の増加傾向が顕著になっており、政府や東京都などの地方自治体が感染拡大予防策の強化を打ち出している。西村康稔経済再生大臣は7月26日、経団連などに対し、「職場での感染拡大を防ぐため」としてテレワーク70%の取り組みを要請したほか、東京都の小池百合子知事は7月30日、都内で酒類を提供する飲食店やカラオケ店に対して、8月3日から31日までの間、営業時間を午前5時から午後10時までの間にするよう要請する考えを示した。タクシー需要への影響は避けられない。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ステイホームによる移動の自粛や在宅勤務によるテレワークの拡大は、経済活動に深刻なダメージを与えており、国内外で景気後退が鮮明になっている状況だ。内閣府が7月30日に開催された政府の経済財政諮問会議に提出した2020年度の国内総生産(GDP)成長率の試算では、物価変動の影響を除いた実質で前年度比4.5%減のマイナス成長になるとの予測が示された。

全国ハイヤー・タクシー連合会(川鍋一朗会長)がこのほどまとめた、6月の新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入の変化(サンプル調査)では、全国の営業収入の前年同期比(単純平均)は59.8%で、新型コロナウイルス禍が限定的だった3月の67.3%には及ばないものの、4月の37.9%、5月の37.2%からは、緊急事態宣言が解除されたことから大きく回復したものの、タクシー需要を大きく減退させるような施策が、感染拡大防止対策として相次いで実施される見通しの中で、営収低迷によるタクシー事業経営の行き詰まりや乗務員の離職を防ぐ観点からも、国土交通省などの政策的な支援も求めながら、慎重かつ大胆な供給調整が必要な状況だ。〈本誌編集長=熊澤 義一〉

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感染者数の増大傾向が強まる


日本国内では30日、新たに1305人の新型コロナウイルス感染者が確認され、1日当たりの過去最多を更新した。国内の感染者数は29日に1261人と初めて1000人を超え、全国レベルで感染拡大の勢いが止まらない状況だ。

中でも東京では367人の感染を確認。7月23日に確認された366人を上回り、最多を更新した。東京都によると、年代別では20代が147人で最も多く、30代の89人と合わせて20~30代で全体の約6割を占めた。ただ、40代が53人、50代が30人と、若者以外にも新型コロナウイルスの感染が拡がっている状況だ。

感染拡大が続いていることを受け、東京都は7月30日に新型コロナウイルスのモニタリング会議と対策本部会議を開き、小池百合子知事は「現状は感染爆発も憂慮される極めて危機的な事態だ」として、酒類を提供する飲食店やカラオケ店に営業時間の短縮を要請し、これに応じた事業者に協力金を支給する考えを表明。

都内で酒類を提供する飲食店やカラオケ店に対して、8月3日から31日までの間、営業時間を午前5時から午後10時までの間にするよう要請し、感染防止対策を施したうえで要請に応じる中小事業者には協力金として20万円を支給する。

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政府がテレワーク70%の要請


政府も新型コロナウイルスの感染拡大を受け、西村康稔経済再生大臣は7月26日、経団連などに対し、「職場での感染拡大を防ぐため」として①感染防止策をまとめた業種別ガイドラインの徹底、②テレワーク70%や時差出勤、③体調不良者は出勤させずPCR検査を推奨、④大人数での会食を控える、⑤接触確認アプリの導入促進Iなどについて要請する考えを改めて示した。

テレワーク70%の要請について、西村経済再生大臣は「(コロナ禍前に)後戻りすることなく、時差出勤と合わせて多様な働き方を維持、推進して欲しい」などとしたほか、政府の接触確認アプリについては、企業が社員へアプリのインストールを促し、職場でクラスター対策を効率的に行うよう求めた。

交通会館イメージ

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伊藤忠商事は全社員在宅勤務


大手商社の伊藤忠商事では7月30日、国内の本支店などで働く約3000人の社員を対象に、再び原則として在宅勤務とすることを発表。伊藤忠商事では新型コロナウイルス感染防止の観点から4月上旬から5月下旬にかけて原則として全社員を在宅勤務にする取り組みを進めていたが、6月からは出社する社員数を徐々に増やし、7月に入ってからは通常出勤体制に戻したものの、社員2人の感染が判明したため、再び全社員を原則として在宅勤務とすることに変更した。

テレワークガイドライン

米の四半期GDP32.9%減


一方で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ステイホームによる移動の自粛や在宅勤務によるテレワークの拡大は、経済活動に深刻なダメージを与えており、国内外で景気後退が鮮明になっている状況だ。

米商務省が7月30日発表した、2020年4~6月期の実質国内総生産(GDP)速報値(季節調整済み)では、年率換算で前期比32.9%減と、新型コロナウイルス禍による経済活動の停滞でGDPの3分の1が失われた格好だ。

アメリカでは、新型コロナウイルス禍による死者数が15万人を超えるなど社会不安が深刻化しており、経済活動が急激に縮小した影響からGDPのマイナス幅はリーマン.ショック直後の2008年10~12月期の8.4%減を大幅に上回り、統計資料で比較可能な第二次世界大戦直後の1947年以降で最悪の落ち込みとなった。

そうしたアメリカの経済状況の中でも、米インターネット通販大手のアマゾンが7月30日に発表した今年4~6月期決算は、新型コロナウイルス禍による都市封鎖などで在宅需要でのインターネット通販が伸びたことから、売上高は対前年同期比40%増となる889億ドル(1ドル約104円=約9兆2456億円)となり、利益についても四半期としては1994年の創業以来最高となった。

コロナ感染症の影響による営業収入の変化

4.5%のマイナス成長予測


日本国内の経済状況は、内閣府が7月30日に開催された政府の経済財政諮問会議に提出した2020年度の国内総生産(GDP)成長率の試算では、物価変動の影響を除いた実質で前年度比4.5%減のマイナス成長になるとの予測が示された。

新型コロナウイルス禍による経済活動の停滞を受け、今年1月の政府経済見通しで示した1.4%増から大幅に下方修正された格好で、リーマン・ショックのあった2008年度の3.4%減を超える落ち込みとなる。

試算の内訳では、2020年度は内需を支える個人消費が実質ベースで4.5%減、設備投資も4.9%減と想定しているほか、輸出も17.6%減と急ブレーキがかかる見通しで、さらに今年秋に海外で大規模な感染第二波が発生した場合、今年度のGDPは5%減に下振れすると予測している。

JR東日本は終電の繰り上げへ


新型コロナウイルス禍の収束に見通しが立たない中で日本経済の減速が顕著になっていることに加え、東京などでは酒類を提供する飲食店の夜間営業の制限、さらにはテレワーク70%の政府要請など、都市部を中心としたタクシー需要を大きく減退させるような施策が、感染拡大防止対策として相次いで実施される見通しで、回復の兆しを見せ始めているタクシー需要にも冷や水を浴びせかける懸念が強まっている状況に予断を許さない。

また、同じ旅客運輸事業のJR東日本は7月30日、2021年春のダイヤ改正で終電時間を繰り上げる方向で検討していることを明らかにした。新型コロナウイルスの感染拡大で終電の利用者が減少しているためだ。

東京都心のJR山手線ではこのところ、感染防止のためのテレワークや時差出勤などの拡大で朝の通勤時間帯はコロナ禍前の水準に比べ利用客が6~7割の水準だが、終電に関しては半分程度の利用にとどまっており、需要低迷が深刻化している。

JR東日本が7月30日に発表した2020年4~6月の第1四半期の連結決算は、売上高3329億円で対前年同期比55%の減となり、1553億円の純損失となった。前年同期は915億円の黒字だった。

全国の6月輸送実績調査結果


全国ハイヤー.タクシー連合会がこのほどまとめた、6月の新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入の変化(サンプル調査)では、全国の営業収入の前年同期比(単純平均)は59.8%で、新型コロナウイルス禍が限定的だった3月の67.3%には及ばないものの、4月の37.9%、5月の37.2%からは、緊急事態宣言が解除されたことから大きく回復した。

特に、北海道(73.6%)、山梨(60.9%)、和歌山(70.4%)、高知(79.5%)、長崎(81.9%)、大分(66.3%)の6道県は3月の対前年同月比を上回った。また、広島(73.1%)や山口(70.5%)、宮崎(78.8%)、鹿児島(76.3%)の4県は、3月の対前年同月比には及ばなかったものの、前年実績との比較で70%を超えるまでに需要が回復基調にある。

京都は6月も前年比17.7%


一方で、茨城(49.1%)、東京(47.1%)、石川(41.2%)、長野(39.8%)、愛知(49.7%)、京都(17.7%)、鳥取(46.9%)、愛媛(47.2%)、福岡(49%)の9都府県は、3月の対前年同月比を下回ったうえで、対前年実績比が5割を下回っており、タクシー需要の回復が遅れている。とりわけ京都は、インバウンドと観光.修学旅行需要が壊滅的な影響を受けていることから6月も対前年実績比は17.7%と2割未満で、4月の20.1%、5月14%と3ヵ月連続で深刻な需要低迷に見舞われており、京都のタクシー事業そのものの存続の危機といえるような状況だ。

東京都特別区・武三地区 原価計算対象26 事業者1708 台 輸送実績速報

東タク協の6月原計実績


また、東京ハイヤー.タクシー協会(川鍋一朗会長)はこのほどまとめた令和2年6月の東京都特別区.武三地区における原価計算対象26事業者1708台の輸送実績速報では、実働率は65.1%(前年同月実績80.1%)、延実働車両数も前年同月対比で77.9%と、緊急事態宣言の解除もあって、乗務員の計画休業と大手事業者を中心とした50%稼働削減などの取り組みが終了したことなどから、タクシーの供給輸送力は増加傾向にある。

しかし実車率は37.8%で、輸送回数と運送収入は、対前年同月実績との比較でそれぞれ57.2%と55.6%で6割未満の水準。

需要と供給増加のバランス


一方、6月の実働日車営収は3万5306円で、前年同月の4万9453円との比較では71.4%という水準だが、5月の2万7825円からは26.9%の増となっており、需要回復とタクシー供給力増加のバランスをどのように取っていくか、新型コロナウイルス禍の収束に見通しが立たない中で日本経済の減速が顕著になっていることに加え、東京などでは酒類を提供する飲食店の夜間営業の制限、さらにはテレワーク70%の政府要請など、タクシー需要を大きく減退させるような施策が、感染拡大防止対策として相次いで実施される見通しの中で、営収低迷によるタクシー事業経営の行き詰まりや乗務員の離職を防ぐ観点からも、国土交通省などの政策的な支援も求めながら、慎重かつ大胆な供給調整が必要な状況だ。

京都タクシーイメージ

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地方自治体との連携が必要


タクシー業界では、地域の旅客需要が激減する中で、地方自治体との連携強化を模索する動きが顕在化しており、神奈川県タクシー協会(伊藤宏会長)では、体調不良から欠席した伊藤会長を除く、鳥海衡一、太田宏、菊池尚の3副会長や藤井嘉一郎経営委員長、三上弘良専務理事らが7月14日に神奈川県庁を訪れ、黒岩祐治知事に「新型コロナウイルス感染症に伴う経営悪化に係る要望」を手渡し、新型コロナウイルス禍によるタクシー事業の厳しい経営環境を訴えるともに県としての支援を要望した。

また、新潟県新潟市では7月2日~9月30日まで「新潟市タクシー事業者デリバリーサービス補助事業」を実施しており、「公共交通を確保維持しつつ、経済を活性化する取り組みとして、飲食店のデリバリーサービスを実施するタクシー事業者に対し、経費の一部を補助する」として、デリバリーサービス事業の準備経費として、タクシー車両1台あたり1万円を補助(1事業者あたり10万円が限度)するほか、デリバリーサービスの配達料として、1回の配達につき250円(法人タクシーは1事業者あたり110万円、個人タクシーは11万円までを限度)を補助する。

タクシー車両による飲食品のフードデリバリーに対する補助は、群馬県前橋市や千葉県船橋市、愛媛県新居浜市、鹿児島県枕崎市など全国の多くの自治体で実施されている。

神奈川県庁

八戸市はプレミアムチケット


青森県八戸市では、コロナ禍によって利用が落ち込んだバスやタクシーの利用促進のため、地域公共交通維持支援事業の一環として「八戸市プレミアムバス回数券」および「八戸市プレミアムタクシーチケット」の取り組みを実施。このうち「八戸市プレミアムタクシーチケット」は、5000円分(500円券×10枚)のタクシーチケットを3000円で販売するというもので、八戸市タクシー協会が発行元となり市内の法人タクシー9社および個人タクシーで利用できる。1人2セットまでの販売で7000セット(3500万円分相当)が用意されたが、割引率が大きいこともあって好評だ。

八戸市プレミアムチケット

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次回Taxi Japan 372号 をお楽しみに!

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