【特集】供給対策の効果検証の必要性を訴え 業界浮沈かけた攻防戦が正念場に (Taxi Japan 457号より)

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4月22日に都内千代田区の「総理大臣官邸」において開催された第5回デジタル行財政改革会議(議長=岸田文雄・内閣総理大臣)において、岸田・総理大臣が「タクシー事業者以外の者が行うライドシェア事業に係る法制度について、6月に向けた議論において、論点整理を行い、5月中に規制改革推進会議に報告してもらいたい」などと述べ、斉藤鉄夫・国土交通大臣に対して指示を行うと共に、「河野(太郎・デジタル行財政改革担当)大臣を中心に、6月の取りまとめに向け、改革を加速させてもらいたい」などと求めた件が、タクシー業界に大きな衝撃をもたらし、波紋を呼んでいる。

こうした官邸主導の予断を許さない状況の中で、タクシー業界としては国土交通省と二人三脚で、「供給不足対策の施策に対する効果検証が必要であり、6月に結論を出すのは、あまりに時期尚早過ぎる」との主張を展開、4月23日には河野太郎・デジタル行財政改革担当大臣、5月8日には斉藤鉄夫・国土交通大臣に対して、全タク連の川鍋一朗会長や坂本克己・最高顧問、各副会長・専門委員長らが、自民党タクシー・ハイヤー議員連盟の渡辺博道会長らの同席のもとに、連名で、「『タクシー事業者以外の者がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度』については、結論ありきにより拙速に議論を進めることのないよう、慎重かつ丁寧な検討を要請する」などとした要請文を手渡した。

一方の規制改革推進会議では、地域産業活性化ワーキング・グループが4月11日の第10回会合、同24日の第12回会合で、自家用車活用事業とその進捗状況について相次いで協議、日本交通の川鍋一朗取締役のほか、ロイヤルリムジン(東京)とエムケイ西日本グループからヒアリングを行った。

タクシー業界として取り組む供給対策の、効果検証の必要性をどれだけ政官界、そして世論に訴えることが出来るか、タクシー業界全体としての力量が問われている状況だ。

〈本紙編集長=熊澤 義一〉

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全タク連が正副会長会議を開催


全タク連は5月8日、都内千代田区の「自動車会館」において、定例の正副会長会議を開催した。冒頭の挨拶で、川鍋一朗会長は「これから6月の骨太の方針(毎年6月中旬ごろに閣議決定する、政府の経済財政運営と改革の基本方針)に向けて、ライドシェア論議における一つの山場を迎えると思っている」と指摘した上で、「本日は、(4月1日付で着任した)国交省の浅井(俊隆)旅客課長にも出席していただいているが、政府のデジタル行財政改革会議などが開かれるたびに、(岸田文雄)総理が発言されて、(斉藤鉄夫)国土交通大臣や(河野太郎)規制改革担当大臣にライドシェアの検討を指示されるという状況が続いている。

岸田総理の頭の中に、(ライドシェアのことが)刷り込まれている感じがして大変に危惧している」などとする見方を示した。続けて、「我々(全タク連)としても、河野(太郎・デジタル行財政改革担当)大臣のところに、自民党タクシー・ハイヤー議連の渡辺(博道)会長らと一緒に出向いて要請行動を行ったほか、4月24日に開かれた規制改革推進会議の地域産業活性化ワーキング・グループ(WG)に、全タク連としては出席をしていないが、日本交通(取締役)としての立場で久しぶりに出席して、少なくとも新たに取組を始めた現在の諸施策が、どのような効果を発揮するのかを、しっかりと見極めてから方向性を定めるよう要請している。

本日(5月8日)もこの後、斉藤鉄夫・国交大臣のところに出向いて陳情をして来る予定だ」としながら、川鍋会長は「しっかりと、やるべきことをやって行く。4月はタクシー乗務員も増えており、我々が地に足を付けてコツコツとやってきた施策の成果もドンドンと出て来ており、(配車アプリの)マッチング率も改善してきているので、我々のやっていることに自信を持って、胸を張って、進みたいと思っている。皆さんにおいても、次回(6月3日の予定)の正副会長会議で会う時には、(ライドシェア解禁問題に関する)方向性が出ている可能性もあると思うので、親しい先生方などに、我々が一所懸命に頑張っていて、新しい施策にも多く取り組んでいて、国交省にも様々な規制改革をやってもらっていることで武器も揃ったので、その武器を使ってドンドンとやるべきことをやるだけだが、如何せん時間が少な過ぎる、というタクシー業界としてのメッセージを皆さんからも伝えてもらえればと思う」などと要請した。

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92ブロックで運賃改定実施


正副会長会議では、国土交通省側から、全国101ブロックにおける運賃改定の状況については、令和2(2020)年度以降に運賃改定を行った運賃ブロック数は5月1日時点で92となり、現在審査・申請中の運賃ブロックは8となっていることが説明された。2020年度以降では唯一、運賃改定申請が出ていなかった東京島しょ地区(伊豆大島や三宅島など)でも4月26日付で申請が出たことから、全国すべての運賃ブロックにおいて1回は運賃改定申請が出た(申請率7割未達も含む)ことになる。運賃改定が2回目となる運賃ブロックも出始めている状況だ。申請受付中は、北海道札幌B(小樽市、7月22日 ま で、2020年度以降で2回目・前回改 定 率 は13・15%)、同北見B(網走市など、7月22日まで、前回は7割未達で2回目)、東京都島しょ(伊豆大島、三宅島など、7月25日まで)、奈良県(7月10日まで、2回目・前回改定率9・25%)などとなっている。

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新たに8地域プラスで12地域


自家用車活用事業(=日本版ライドシェア、日本型ライドシェア)では、東京都特別区・武三、神奈川県京浜、愛知県名古屋、京都府京都市域の4地域に加え、新たに4月26日付で、北海道札幌、宮城県仙台市、埼玉県県南中央、千葉県千葉、大阪府大阪市域、兵庫県神戸市域、広島県広島、福岡県福岡の8地域を追加、全国12地域となった。追加8地域は、5月以降のスタートとなり、該当地域のタクシー事業者に対する実施意向調査に基づき、まずは不足分の半数が配分されることになる。(配車アプリのマッチングデータは、冬季需要との乖離が大きな札幌のみ昨年4月1日〜6月30日までのもの、残る仙台市、埼玉県南中央、千葉、大阪市域、神戸市域、広島、福岡が昨年10月1日〜12月31日までのもの)


算出不足台数が僅かな地域も


追加8地域の不足車両数は、▽札幌交通圏(札幌市や江別市、北広島市など、4499台)=土日の深夜1時台〜4時台(配車アプリのマッチング率73%)で110台▽仙台市(2245台)=金曜夕方の午後4時台〜午後7時台(84%)で50台、および土曜深夜0時台〜3時台(76%)で30台▽埼玉県南中央交通圏(さいたま市や川口市など、2400台)=火曜〜金曜の深夜0時台〜5時台(75%)で140台、および金・土・日の午後5時台〜翌早朝6時台(42%)で580台、▽千葉交通圏(千葉市や四街道市など、1195台)=土日の深夜0時台〜3時台(59%)で110台▽大阪市域交通圏(大阪市や豊中市、東大阪市など、1万2181台)=土曜深夜0時台〜3時台(75%)で420台、および金・土の夕方午後4時台〜19時台(85%)で240台、▽神戸市域交通圏(神戸市や尼崎市、西宮市など、4772台)=水曜と金曜の深夜0時台〜3時台(86%)で100台、および金曜・土曜の夕方午後5時台〜翌早朝5時台(67%)で510台▽広島交通圏(広島市や廿日市市など、2682台)=月曜から木曜までの夕方午後4時台〜午後7時台(76%)で100台、および金曜・土曜の夕方午後4時台〜翌深夜3時台(58%)で220台、および日曜の夕方午後4時台〜午後8時台(77%)で70台▽福岡交通圏(福岡市や春日市、大野城市など、4415台)=月曜から木曜の夕方午後4時台〜午後9時台(74%)で220台、および金曜・土曜の夕方午後4時〜翌早朝5時台(54%)で520台、および日曜の午後3時台〜午後9時台(67%)で230台

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静岡・岐阜・福井の3県が突出


これら12地域を以て、配車アプリのマッチングデータによる不足数の算出は終了となり、これら以外の地域では、地元タクシー事業者による手上げ方式での「簡便な方法」が適用される。「簡便な方法」では、全国的にタクシー不足傾向の強い金曜・土曜の夕方午後4時台〜翌早朝5時台をタクシーが不足する曜日および時間帯として、当該営業区域内のタクシー車両数の5%を不足車両数とみなす、というもの。

さらに、営業区域内の自治体が、特定の曜日及び時間帯における不足車両数を運輸支局へ申し出た場合は、その内容を不足車両数とみなす、という運用も併用する。この「簡便な方法」に基づき、地元タクシー事業者から書面での申し出があったのは、5月2日現在で、北海道運輸局管内(1地域)=伊達圏(伊達市等)、東北運輸局管内(1地域)=青森交通圏(青森市など)、関東運輸局管内(2地域)=茨城県水戸県央交通圏(水戸市など)、千葉県南房交通圏(木更津市など)、北陸信越運輸局管内(2地域)=富山県富山交通圏(富山市など)、石川県金沢交通圏(金沢市など)中部運輸局管内(17地域)=静岡県静清交通圏(静岡市など)、同浜松交通圏(浜松市など)、同御殿場交通圏(御殿場市など)、同富士・富士宮交通圏(富士市など)、同沼津・三島交通圏(沼津市など)、同磐田・掛川交通圏(磐田市など )、 岐 阜県岐阜交通圏(岐阜市な ど )、 同大垣交通圏(大垣市など )、 同 美濃・可児交通圏(可児市など)、同東濃西部交通圏(多治見市など)、同高山交通圏(高山市など)、同下呂市、福井県福井交通圏(福井市など)、同敦賀交通圏(敦賀市など)、同武生交通圏(越前市など)、同大野市、同勝山市沖縄総合事務局管内(1地域)=石垣島(石垣市など)「簡便な方法」による自家用車活用事業の申し出は、5月2日時点での全国24地域のうち17地域を中部運輸局管内で占めており、近畿・中国・四国・九州の各運輸局管内はゼロ。さらに、17地域のタクシー事業者から申し出の出ている中部運輸局管内でも、静岡6地域、岐阜6地域、福井5地域と、3県に集中している状況だ。

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自治体からの申し出は2地域


さらに、運輸支局に申し出た自治体では、5月2日現在で、長野県北佐久郡軽井沢町(毎日の朝8時台〜正午12時台、および夕方午後4時台〜夜11時台で、25台)と、福井県吉田郡永平寺町(土日・祝日の早朝6時台〜夜8時台で、2台)の2地域。このうち軽井沢町では4月26日、軽井沢町、軽井沢タクシー協会、軽井沢商工会、軽井沢観光協会、軽井沢ホテル旅館組合、そして配車アプリのGOが、避暑地として多くの観光客が訪れる軽井沢町における観光シーズンの観光客増加による交通課題解決の一手としての連携協定「軽井沢タクシー供給強化プロジェクト」に基づき、地元タクシー4社が最大で計25台の自家用車等の運行を開始した。


斉藤・国交大臣が記者会見


そうした中で、斉藤鉄夫・国土交通大臣は5月10日、都内千代田区の「衆議院分館」で行った記者会見の中で、道路運送法78条3号による自家用車活用事業(=日本版ライドシェア、日本型ライドシェア)について、「自家用車活用事業は、地域交通における『担い手』や『移動の足』の不足という課題に対応するため、タクシーサービスを補完するものとして制度化したものだ。東京、京都では、4月8日に運行が開始され、その後、横浜、名古屋、軽井沢でも運行が開始されている」としながら、「これまでの実績としては、5月5日までに、先ほど申し上げた5つの地域において、許可事業者は128者、延べ稼働台数は2283台、延べ運行回数は1万2628回という状況」などとした。

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一定の効果も、データを検証


斉藤・国交大臣は、「また、各地域のマッチング率については、タクシードライバーの増加の効果もあり、昨年10月から12月のデータと比較して、概ね改善されている。このように、自家用車活用事業は、『担い手』や『移動の足』不足の対策として、一定の効果が発揮されつつあるのではないかと認識している」としながらも、「一方、この事業が開始されてから間もないこと、また、多くの地域はまだ準備段階にあることから、その効果を現時点で評価することは適切ではないと考えている。引き続き、この事業のモニタリングを行い、データを検証しながら、地域の『移動の足』の不足を解消するため、制度の改善を行っていきたいと思っている」などする意向を示した。

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