【特集】コロナ禍を乗り越える①-MaaS への積極的なタクの参画-トヨタ系MaaS アプリ「my route」福岡、北九州に続き横浜にも拡大(Taxi Japan 373号より)

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My-Routeロゴ

福岡県福岡市や北九州市などで先行実施されている、トヨタ自動車系のMaaSアプリである「my route」(マイルート)が7月22日、神奈川県横浜市のみなとみらい地区などの横浜都心臨海部での運用を開始した。MaaSアプリ「マイルート」は、鉄道・バス・タクシーなどの公共交通機関に加え、自転車シェアやカーシェア、駐車場シェア、さらには新型コロナウイルスの感染対策で需要が伸びているフードデリバリーなどにも対応する、交通機関の経路検索と予約・発券・配車・決済、観光案内や店舗情報発信などの機能を持つ、複合型のマルチモーダルモビリティサービスを提供するスマートフォンアプリで、iPhoneなどのiOSとGoogleのアンドロイドOSに対応している。

先行実施している福岡県福岡市や北九市では、西鉄グループやJR九州のほか、タクシー配車アプリの分野で「JapanTaxi」と「MOV」を運用するMobility Technologies(MoT)と第一交通産業(配車アプリ「モタク」)などが提携している。

横浜では、地下鉄や路線バスを運行する横浜市交通局やタクシー配車アプリのMoTなどが提携しているほか、みなとみらい地区など横浜都心臨海部の観光施設や飲食店などが参画している。複合型のマルチモーダルモビリティサービスを提供するアプリとして、観光型MaaSと都市型MaaSを併合したような機能を有している。

日本国内のほか、フィンランドやドイツ、イギリス、さらにアメリカ、台湾など世界各地でMaaSアプリを体験してきた本紙の熊澤義一編集長は、MaaSアプリ「マイルート7」を1月30日の福岡に続き、8月18日に横浜において利用した。「マイルート」のMaaSアプリとしての使い勝手としては、利用できる公共交通機関が一部のみに留まっていて限定的で、地域での移動手段としての網羅性が低く、利用方法も限られ、現段階ではMaaSアプリとしての機能性は初歩的で利用するメリットも少ないが、それでも交通機関の利用だけにとどまらない日本ならではの複合型のマルチモーダルタイプとしての可能性は高く、今後の機能拡張とバージョンアップに期待を抱かせるものだ。〈本紙編集長=熊澤 義一〉

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MaaSアプリ「マイルート」とは


スマートフォンアプリ「マイルート」は、公共交通機関の経路検索や予約・発券・配車・決済などを一括して行うMaaSアプリとして、自動車大手のトヨタ自動車の主導で開発され、トヨタが展開地域における実施主体となる地域パートナーと提携する形でアプリを運用する形態をとる。

トヨタ自動車では「トヨタは、100年に一度と言われる大変革の時代に、モビリティカンパニーへの変革を目指し、地域に根ざした、新たなモビリティサービスの提供に取り組んでいる」などとしながら「『my route』もモビリティカンパニーの取り組みの一環であり、お客様が『移動したい』ときに必要となる、『あらゆる移動手段の検索』、『予約・決済』サービスを提供することで、『よりシームレスな移動』を実現するものだ。さらに、地域のイベントスポット情報の提供などを通じて、移動したいと思うきっかけをつくり、ひいては街の活性化に貢献することを目的としている」などとしている。

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福岡で運用をスタート


2018年11月に福岡県を地盤とする大手私鉄の西日本鉄道が地域パートナーとなる形で、福岡市において「マイルート」アプリの実証実験を開始。福岡市では、タクシー配車アプリを運用するMobility Technologies(当時はJapanTaxi)やシェアサイクル「メルチャリ」を手掛けるメルカリグループ、駐車場予約アプリのakippaなどに加え、地域の店舗やイベントなどの情報も発信するという複合型のマルチモーダルモビリティサービスとして実証実験を展開。その後の1年間で「マイルート」アプリのダウンロード数は約3万件に達し、アプリ利用後のアンケート調査でも、利用者の約8割が「満足」と回答した。

そして、2019年11月にはMaaSアプリ「マイルート」の福岡での地域パートナーに、西鉄に加えてJR九州が参画し、今年1月16日からはMaaSアプリ「マイルート」が「JR九州インターネット列車予約サービス」と連動してスムーズに九州新幹線の切符予約と購入が可能となった。さらに、地域的にもサービスエリアを政令指定都市の福岡県北九州市にも拡大。トヨタレンタカーやトヨタ系カーシェアなどとの提携、福岡と東京を結ぶ高速バスなどを運行している京王電鉄バスの高速バス予約サービス「ハイウェイバスドットコム」との連携、大手旅行会社JTB系列のJTBパブリッシングの観光データベース「るるぶDATA」を使った観光情報配信などを打ち出し、複合型のマルチモーダルモビリティサービスを提供するMaaSアプリとしての機能拡張と利便性の向上に取り組んでいる。決済手段としても、トヨタ系のキャッシュレス決済アプリでクレジットカードや各種電子マネーにも対応する「TOYOTA Wallet」を導入するなど電子決済手段の多様化も進めている。

MaaSアプリ「マイルート」の展開エリアでは、福岡市と北九州市に続き、熊本県水俣市にも拡大。水俣市などとも連携し、水俣市内における円滑な移動のサポートや街の賑わい創出への貢献を目指す考え。

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福岡で「マイルート」を体験


日本国内のほか、フィンランドやドイツ、イギリス、さらにアメリカ、台湾など世界各地でMaaSアプリを体験してきた本紙の熊澤編集長は今年1月30日に福岡市を訪れ、福岡市内での移動や、福岡県を代表する観光地のひとつである太宰府市の太宰府天満宮への訪問にMaaSアプ23リ「マイルート」を利用して、MaaSアプリとしての機能性や利便性などを確かめた。

福岡の「マイルート」は、地元の大手私鉄である西日本鉄道(西鉄)との提携が大きな役割を占めていることから、「マイルート」アプリで西鉄バスの「福岡市内6時間フリー乗車券」(大人600円)をデジタル発券して、アプリに登録したクレジットカードで決済。

福岡市内には、西鉄バスの路線が数多くあり、市内中心部では運行頻度も高いことから、福岡市内をあちらこちらと移動するのに、制限時間内は乗り放題となる「福岡市内6時間フリー乗車券」は非常に便利だった。もちろん、このほか「福岡市内24時間フリー乗車券」(大人900円)も「マイルート」アプリからデジタル発券が可能だ。

西鉄バスでは「スマ乗り放題」の愛称で、これら6時間と24時間のデジタルフリー乗車券の販売に注力しており、「Kids FREEサービス」として大人1人分のデジタルフリー乗車券で小学生1人分が無料になるサービスも提供している。

本紙の熊澤編集長は、JR博多駅に到着すると、MaaSアプリ「マイルート」を起動して福岡市内の複数の目的地を選択、経路検索したうえで、西鉄バスの「福岡市内6時間フリー乗車券」(大人600円)をデジタル発券して、アプリに登録したクレジットカードで決済した。路線バスに乗車する場合、決済時に「マイルート」アプリの画面上に表示したデジタルフリー乗車券の画面を提示し、運転手が目視で確認する形になる。JR博多駅から複数の移動先を経由して西鉄のターミナル駅である天神駅、さらに天神駅前からJR博多駅までの移動にデジタルフリー乗車券を利用したが、福岡市内では西鉄バスの運行路線が多く、運行頻度も高いことから、非常に便利だった。

さらに、西鉄バスでは、北九州市内でもデジタルフリー乗車券を販売しており、24時間フリー乗車券が大人800円、48時間フリー乗車券が大人1500円。

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デジタル乗車券で太宰府へ


また、福岡市中心部の繁華街である天神地区にある西鉄のターミナル駅である天神駅と太宰府駅を結ぶ1日デジタルフリー乗車券(大人800円)を、同じく「マイルート」アプリからデジタル発券して決済した。

福岡・天神駅と太宰府駅を結ぶ西鉄電車の運賃は片道410円だが、1日デジタルフリー乗車券では、800円で天神駅と太宰府駅を結ぶ経路内の駅での途中下車と乗車が終日自由となるため、周遊する観光客には利便性が高いと感じた。改札は、路線バス乗車時と同様に、「マイルート」アプリの画面上に表示したデジタルフリー乗車券の画面を提示し、係員が目視で確認するスタイルだ。

タク配車アプリとも連携


タクシー配車に関しては、「マイルート」アプリがMoTの「JapanTaxi」アプリや第一交通産業の「モタク」アプリなどと連動しており、これらのタクシー配車アプリをスマートフォンにインストールしてあれば、経路検索画面からタクシー配車を選択すると、「JapanTaxi」もしくは「モタク」の配車アプリが起動する仕様となっている。

横浜でも「マイルート」導入


福岡県の福岡市と北九州市、そして熊本県水俣市でサービスを展開しているトヨタ自動車系のMaaSアプリ「マイルート」が7月22 日、神奈川県横浜市での運用をスタートした。エリアは、みなとみらい地区を中心に横浜駅や新横浜駅を含む横浜都心臨海部エリアで、横浜中華街や山下公園、赤レンガ倉庫、横浜港大さん橋や横浜ハンマーヘッド(客船ターミナルと商業テナントの複合施設)、三渓園、伊勢佐木町などの人気観光スポットも含む地域。

横浜における「マイルート」アプリの実施主体となる地域パートナーは、神奈川県オールトヨタ販売店(神奈川トヨタ自動車、横浜トヨペット、トヨタカローラ神奈川、ネッツトヨタ神奈川などで構成)で、神奈川県オールトヨタ販売店が共同で設立した、アットヨコハマ(代表取締役=神奈川トヨタ自動車などを運営するKTグループの上野健彦社長と横浜トヨペットの宮原漢二社長の二人代表制、本社=横浜市神奈川区)が横浜地区におけるアプリの運用を担うほか、「マイルート」アプリと連携して横浜市内の店舗やイベントなどの情報を提供する独自のポータルサイト「@YOKOHAMA」を開設する。

横浜都心臨海部におけるMaaSアプリ「マイルート」には、地下鉄や路線バスを運行する横浜市交通局や横浜港を管理する港湾局、私鉄大手の京急電鉄、タクシー配車アプリ「JapanTaxi」と「MOV」を運用するMoT、さらにはドコモ・バイクシェア、日産自動車などが提携する。このため、横浜における「マイルート」が提供する複合型のマルチモーダルモビリティサービスには、トヨタ系列のトヨタレンタリース神奈川・横浜のほか、日産自動車系列の日産レンタカーや日産カーレンタルソリューション「eシェアモビ」などが加わる。「マイルート」は、トヨタ自動車系のMaaSアプリだが、日産自動車が横浜市に本社を置くという関係から、日産自動車もサービス提供で連携することになった。

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「JapanTaxi」と「MOV」


横浜において「マイルート」アプリで予約・発券・配車・決済までの全てができる移動手段は、本紙の熊澤編集長が訪問した8月18日時点では、横浜市交通局が発行する「デジタル1日乗車券みなとぶらりチケット」、ドコモ・バイクシェアの自転車シェア「Baybike」のほか、スマートフォンにインストールしてある配車アプリと連携する形でのMoTの「JapanTaxi」と「MOV」のみだった。

本紙の熊澤編集長は、「マイルート」アプリで横浜中華街を出発地、JR横浜駅を目的地に設定して経路検索すると、到着が早い順で「タクシー17分 1770円」と表示された。

そこでタクシーを選択すると、「マイルート」の検索アプリ画面上に「タクシー〈呼ぶ〉」のアイコンが表示された。画面上の「タクシー〈呼ぶ〉」のアイコンをタップすると、MoTの「JapanTaxi」と「MOV」のアイコンが表示され、「JapanTaxi」は「待ち時間目安 未定」、「MOV」は「待ち時間目安 4分」と表示されたことから、「MOV」を選択。するとスマートフォンにインストールしてある「MOV」アプリが立ち上がった。やはりタクシー配車アプリを利用する際に、配車までの待ち時間目安が示されるのは、利用者からすると安心感につながると改めて感じた。

みなとぶらりチケットの発券


また、横浜で運用を開始した「マイルート」では、横浜市内で地下鉄や路線バスを運行している横浜市交通局と提携しており、横浜市交通局が販売している「みなとぶらりチケット」のデジタル版を発券・購入することが可能となっていた。

「みなとぶらりチケット」は、文字通り、横浜市交通局が運行する地下鉄や路線バスを利用して、みなとみらい地区や横浜港付近にある観光スポットの横浜中華街や山下公園、赤レンガ倉庫、横浜港大さん橋や横浜ハンマーヘッド(客船ターミナルと商業テナントの複合施設)、三渓園、伊勢佐木町などと、横浜駅や新横浜駅を結ぶ周遊型の観光に特化した、設定した区域内の地下鉄路線やバス路線が1日乗り放題となるフリー乗車券。

横浜駅が起点となる「みなとぶらりチケット」(大人500円)と、新横浜駅が起点となる「みなとぶらりチケットワイド」(大人550円)の2種類が販売されており、本紙の熊澤編集長は、「マイルート」アプリで横浜駅が起点となる「みなとぶらりチケット」(大人500円)を発券し、「マイルート」アプリに登録していたクレジットカードで決済した。

市営バスに乗車する場合、乗車時に「マイルート」アプリの画面上に表示したデジタルフリー乗車券の画面を提示し、運転手が目視で確認する形になるのは、福岡における西鉄バスの時と同様だった。

やはりMaaSアプリで発券と決済ができるデジタルフリー1日乗車券は非常に便利で、周遊型の観光にマッチすると感じた。

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タクシー飲食品配送にリンク


また、横浜におけるMaaSアプリ「マイルート」では、新型コロナウイルス感染防止の観点からニーズが高まっている「横浜のテイクアウト&デリバリーができるお店」の特集を掲載しており、横浜市内の区ごとに対応飲食店を紹介。この中には、タクシーによる飲食品のフードデリバリーを行っている飲食店もあり、当該飲食店のアイコンをタップするとアサヒタクシー(横浜市中区)の宅配サービスにリンクするというケースもあった。

今後のバージョンアップに期待


一方で、MaaSアプリ「マイルート」の横浜における現状は、アプリ内(またはアプリ経由)で決済までが可能な移動サービスは、横浜市交通局が販売するデジタル1日フリー乗車券の「みなとぶらりチケット(ワイド)」のほかは、ドコモ・バイクシェアの自転車シェア「Baybike」、スマートフォンにインストールしてある配車アプリと連携する形でのMoTの「JapanTaxi」と「MOV」のみで、これでMaaSアプリと呼ぶにはあまりにも移動手段の選択肢が限定的で少なく、網羅性にも欠けて、利便性は低い。多くの利用者を獲得するためには、MaaSアプリならではの機能性と利便性の高さが必要で、そうした意味では、経路検索結果に示された、あらゆる移動手段の予約・発券・配車・決済ができることに加え、宿泊施設や観光施設の予約と決済、観光情報案内、さらには、地域の店舗やイベントなど様々なサービス提供者との連携など、日本ならではの複合型のマルチモーダルモビリティサービスとしての完成形を目指して欲しいし、今後の機能拡張とバージョンアップに期待したい。

そうなれば、個別輸送機関としてのタクシー利便性の高さも再評価され、他の様々なサービスと連携することで、フードデリバリーだけではない、タクシーに対する新たなニーズと需要の創出、さらには観光タクシーや乗合タクシーなどの従来からあるメニューがMaaSに組み込まれることでの、移動手段としてのタクシーの役割の再発見や再定義なども可能になってくるのではないか、と期待したい。

〈本紙編集長=熊澤 義一〉

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次回Taxi Japan 374号 をお楽しみに!

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