TJピックアップと題して、過去のTaxi Japanより、読者の皆さまから反響のあった記事を振り返ります。
このシリーズ①では、新人タクシードライバー丸ちゃんに注目した「丸ちゃん奮闘記」をご紹介します。
タクシードライバーとしてデビュー、それからの1年間を通して、丸ちゃんが感じたこと、具体的な営業収入の推移や乗務ルート、走り方や考え方の変化など、タクシードライバーとして成長していく過程が具体的に綴られていきます。
通常公開することをためらうようなリアルで細かい情報と稼げる走り方を惜しみなく公開したことで、そのわかりやすさと内容の濃さにシリーズ連載中、多くのドライバーさんたちの反響を呼びました。
今回は「丸ちゃん奮闘記」連載1〜6回のスタート前の序章「夢と希望編」です。転職を決意し、タクシー会社へ入社する経緯、乗務がスタートしてからの新人特有の戸惑いや苦労など、タクシージャパン高橋氏のインタビューによって詳しく語られます。
タクシードライバーへの転職に興味はあるけれど迷っている人、現在タクシードライバーになったばかりで奮闘している人にぜひ読んでいただきたい、オススメの内容です。
− 丸ちゃん奮闘記 「夢と希望編」 −
35歳で年収650万円が目標 新人丸ちゃんのタクシー乗務談
新潟県佐渡島生まれの29歳・丸山皓平氏(※取材当時)
転職したタクシー会社では、先輩乗務員から、丸ちゃん、の愛称で親しみを込めて可愛がられている。丸ちゃんは、新潟市内で2歳から高校までを過ごし、群馬県下の大学を卒業後、新潟市内の印刷会社に就職した。その後、印刷会社の東京支店で営業職として勤務。
しかし、印刷業界の不況は深刻で深夜までの残業が常態化していたこととサービス残業による低賃金で転職を決意。知己の紹介で飛び込んだタクシー乗務員の職業。
初めてのことばかりながら、前職に比べてやりがいや収入面で大きな夢と希望が膨らんでいるという。
そんな丸ちゃんに現状と今後の見通しを聞いてみた。
(聞き手=高橋正信)
年収800万円可能
―年齢と出身は?
丸山 新潟県出身の29歳で、現在は都内在住です。
―20代ですか、若いですね。タクシー乗務員になる前は何をしていたのですか。
丸山 印刷会社の営業職です。大学卒業後に新潟の印刷会社に就職し、その後、東京支店に異動になりました。印刷業界は右肩下がりの構造不況業種で、将来展望を描けないなと感じていたところに、新潟への転勤の話があり、新潟に戻るより東京で転職しようと考えていました。
―タクシー乗務員は考えなかったのですか。
丸山 転職先の候補としては想定していませんでした。そんな時、印刷業界の知人の方から「タクシー乗務員はどうか」と言われました。タクシー乗務員は考えていなかったのですが、隔日勤務という働き方や給料の実態を聞くと、長時間労働の一方で給与水準の低い印刷業界と比べてメリットがあるのではないかと思い、知人の勧めもあって関隆氏が主宰する「流し方教室」の傍聴に行きました。タクシーという労働は、努力すれば報われる、タクシーは裏切らないとの関氏の考え方に触れ、その関氏から「君なら年収800万円も可能だ」と激励されました。自分でも考えて、最終的にタクシー乗務員に転職することを決断しました。昨年の秋のことです。
―本紙でも特集したことのある関氏に激励されたことがきっかけですか。
丸山 そうです。大きな刺激になりました。年収800万円は簡単には到達できない水準ですが、タクシー乗務員としての年収目標を650万円に設定しています。これは前職の印刷会社の部長の年収を上回るからです。遅くとも35歳までには達成したいと考えています。
関氏に流し方師事
―20代後半の丸山さんからすると、印刷会社の上司だった部長の年収を上回ることを、現実的な当面の目標に設定したということですね。タクシー会社に入社後はどうでしたか。
丸山 昨年9月に入社し、普通第二種免許を取得、東京タクシーセンターの地理試験や研修などを経て、10月末から乗務を開始しました。最初は日勤からのスタートでした。
すぐに直面したのは地理の問題で、幹線道路や主要施設を知識として知っていても、実際にタクシーにお客様を乗せて道路を走ることとは、まったく違うということを気付かされました。自分の知らないところに行くことは怖かったですね。
―どういうことですか。
丸山 例えば、港区の「虎ノ門ヒルズ」までお客様をお乗せした時、虎ノ門ヒルズには行くことができても、どこにビルの降車場所があるかが分からないといった具合です。今は「新人なので」と言って、お客様に教えてもらっていますが、早く知識と経験を増やしていかなければならないと考えています。
―ナビゲーション・システムは無いのですか。
丸山 私の会社のタクシーにもナビが装備されていますが、最初からナビを操作すると不安を感じるお客様もいます。新人の私でもナビを操作する時は、お客様に不安を与えないように気を付けています。
―地理知識に不安がある中で、どうやって営業していたのですか。
丸山 最初の頃は、都心に通じる道路で流すと、地理知識のないまま都心方向へのお客様をお乗せすることになってしまうので、都心に向かうヨコ方向の道路と交差するタテ方向の道路を行ったり来たりして、流していました。
―具体的に、どこの 道路ですか。
丸山 地元の船堀街道のことで、都心に向かうJR新小岩駅や地下鉄船堀駅に向かう短距離のお客様を繰り返しお乗せしていました。
―タクシー乗務員になって4ヵ月近くが経過しましたが、地理の問題は解消しましたか。
丸山 地理については、今でも課題です。営業所が城東地区の江戸川区にあることもあって、虎ノ門より西側の目的地のお客様をお乗せする時は緊張しますね。
―何か対策はしているのですか。
丸山 関氏が執筆した本「タクドラ専科 関隆の流し方教室!」を読んで、流し方の勉強をしています。また、関氏が主宰する流し方教室には、欠かさず出席するようにしています。会社の先輩方でやっているSNS「LINE」のグループにも入れてもらい、「今日は○○地区のお客様が多くていいぞ」や「△△には行かない方がいい」などの情報をリアルタイムで交換したり、先輩の誘導で流し方を教えてもらったりしています。また、私の乗務日報をチェックしている管理職の方から、乗務日報をみながら流し営業時の留意点などの指導も受けています。
3か月で保証給超え
―営収の方はどうですか
丸山 私が入社した会社には保証給制度というものがあり、乗務した最初の2ヵ月が40万円、その次の2ヵ月が30万円で、乗務開始から4ヵ月間は給与保証があります。3ヵ月目となる昨年12月度には、売上を伸ばして月間営収55万円(税抜き)を達成し、保証給を超える給与をもらう関氏に流し方師事3か月で保証給超えことが出来ましたが、給与保証が終わる最後の3乗務が3万円台の売上に低迷しました。
―なかなか大変なところですね。
丸山 その時、私の乗務日報を見て心配した専務が声をかけて下さり、入社4年目の先輩を紹介してくれました。その方の誘導で流し方を教えていただいています。先日も、夜8〜9時頃に新宿で先輩と合流し、ここはお客様がいるという周回ルートを先輩のタクシーの後に続いて走りながら流し方を教えていただきました。すると夜8〜9時以降だけで10数回もお客様をお乗せすることができて、最後のお客様は新宿から中央高速の国立府中インターを経由して東大和市までの約1万5000円でした。その結果、2月20日(土)の乗務は営収5万7000円という自己最高を記録することが出来ました。
このままの調子で行けば、入社1年目から印刷会社の営業職としてもらっていた年収を上回ることが出来そうです。(笑)
―今後の光明を見出せたようですが、タクシー乗務員になることに反対は無かったのですか。
丸山 タクシー乗務員になると決めた時に、一番反対したのは新潟の母親でした。若いのに、どうしてタクシーの運転手になるんだ、と泣かれました。それでも私は、タクシー乗務員という仕事に将来の希望を感じていたので、いつかは母親も分かってくれると思い、タクシー乗務員になることにしました。
―世間にはタクシー乗務員という職業に対する偏見も多いですからね。
丸山 その後、タクシー乗務員になってからしばらくして新潟の佐渡にある実家に帰省しましたが、私が元気にやっている姿をみて安心したのか、母からは何も言われませんでした。次は、”立派な“給与明細を持って、佐渡の実家に帰りたいですね。
家計年収1000万円
―タクシー乗務という仕事を、どう感じていますか。
丸山 前職の印刷業界は価格競争が激しく、それこそ私が経験した営業の現場では5銭、10銭という単位での値切り合戦が横行していました。
一方で、タクシー乗務員になって感じたことですが、流していて、手を挙げたお客様を数百メートルお乗せしただけでも730円をいただける。こんなに、ありがたいことは無いという感じです。今でも、流していて一番効率が良いのは、初乗りのお客様だと思っています。
―やりがいは感じていますか?
丸山 先日、荷物を抱えた高齢女性をお乗せした際には、「親切にしてくれてありがとう」と言われて2000円のチップをいただいたこともあります。タクシー乗務員は、努力して工夫すれば売上が伸び、お客様からも感謝される仕事だと思います。印刷会社の営業職をしていた時のようなストレスも無くなりました。
―隔日勤務は大変だという声も聞きますが。
丸山 隔日勤務も、深夜まで残業して朝も早かった印刷会社の営業職時代と比べれば、数時間余分に働くだけで次の日は明番となるため、体もずっと楽ですね。
―将来の夢は何ですか?
丸山 将来は結婚して、家庭を持ちたいと考えています。これは例えばですが、私と奥さんが隔日勤務の相番になれば、必ずどちらかは家にいることになるので、共働きのまま子育てができるんじゃないかとか、家計年収1000万円も可能ではないかとか、夢想しています。(笑)
次回「丸ちゃん奮闘記 第一回」では、デビューして半年余りが経過した様子が綴られます。元カリスマドライバー関隆氏による講評に注目です。