内閣府が8月17日に発表した、今年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値によると、物価変動の影響を除く実質での前期の1~3月期との比較で7.8%の減、この傾向が今後も続くと仮定した場合の年率換算では27.8%もの大幅なマイナスだった。内閣府の発表した4~6月期のGDPのマイナス数値は、新型コロナウイルス禍による日本経済の深刻な低迷状況を表すものだ。
そうした中で、全国ハイヤー・タクシー連合会(川鍋一朗会長)がこのほどまとめた、7月の新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入の変化(サンプル調査)では、全国の営業収入の前年同期比(単純平均)は66.7%で、新型コロナウイルス禍が限定的だった3月の67.3%とほぼ同水準にまで回復した。しかし、それでも昨年実績の3分の2という低水準であるほか、タクシー需要の回復度合いにも地域間格差が出ており、京都は全国で唯一、7月実績が対前年比で50%を割り込んだままの38.7%にとどまったほか、
東京も前年比52.2%と全国平均を大きく下回る状況で、タクシー需要の回復が大きく遅れている。
東京ハイヤー・タクシー協会(川鍋一朗会長)がこのほどまとめた、7月の原価計算対象事業者輸送実績速報では、特別区・武三地区の実働日車営収は3万5525円で、多摩地区は3万9326円。日本一の高営収を誇ってきた特別区・武三地区のタクシーが、原価計算対象事業者の比較で多摩地区よりも約3800円も低かった。昨年7月は、特別区・武三地区が5万368円、多摩地区が4万5617円だったので、東京都心のタクシー需要減の深刻さが分かる。
大手企業を中心に進むテレワークなどの新しい働き方・生活様式への対策も含め、配車アプリのさらなる活用、通勤シャトルなどの新しい需要の創造と取り込みなど、「新しいタクシーの利用スタイルの提案」も必要な状況だ。
〈本紙編集長=熊澤 義一〉
GDPはリーマン超の落ち込み
内閣府は8月17日、今年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値を発表した。それによると、物価変動の影響を除く実質での前期の1~3月期との比較で7.8%の減、この傾向が今後も続くと仮定した場合の年率換算では27.8%の大幅なマイナスだった。
GDPのマイナス成長は昨年9~12月期から3四半期連続となり、減少率は比較可能な1980年以降では最大だった、リーマンショック直後の2009年1~3月期(前期比年率17.8%減)を大きく上回った。
4~6月期におけるGDPの大幅なマイナスは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言(4月7日~5月25日。4月16日から全国に拡大)などにより、経済活動が停滞したことが影響した形だが、新型コロナウイルス感染症の影響が限定的だった今年1~3月期についてもGDPは年率換算で2.5%の減となっており、昨年10月1日に8%から10%に引き上げられた消費増税後に顕在化し始めた景気後退に、さらに新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言による様々な行動の自粛が経済活動を急激に収縮させたとみられる。
年率換算で27.8%の大幅減
4~6月期のGDPが7.8%減、年率換算で27.8%減という大幅マイナスとなった原因の内訳は、内需がマイナス4.8%分、外需がマイナス3.0%分となっており、内需のマイナス効果が大きい。項目別では、緊急事態宣言による行動自粛の影響などからGDPの半分以上を占める個人消費が8.2%減と大きく落ち込み、1980年以降では最悪となった。個人消費も3四半期連続のマイナスだ。
もうひとつの内需の柱である企業の設備投資は1.5%減で、個人消費の大幅減に比べると減少幅は小さかったが、新型コロナウイルス感染症の収束時期が見通せない中で企業収益や景気の先行きに不透明感が強まり、企業が設備投資に慎重姿勢を示したことから落ち込んだ。
住宅投資は0.2%減で、こちらも3四半期連続のマイナス。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて経済活動が停滞する中で、中国など海外からの資材輸入が滞る中で住宅の新規着工にも遅れが目立った。
4~6月期は、総じて内需が落ち込んだが、一方で、公共投資は1.2%のプラスだった。
輸出は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によるヨーロッパやアメリカにおけるロックダウン(都市封鎖)などによる経済の低迷で自動車などが落ち込み18.5%減となった。輸入も、国内経済の停滞で原油需要が落ち込んだことなどから0.5%減となった。
ワクチン開発などで新型コロナウイルスの収束時期が明らかになるまでの日本経済の浮沈を占う上でも、7~9月期のGDP動向がカギとして注目を集めそうだ。
経済財政運営に万全を期す
西村康稔.経済財政担当大臣は8月17日、大幅マイナスとなった4~6月期のGDP速報値の発表を受けて、「4、5月は緊急事態宣言の下、経済をいわば人為的に止めていた影響により厳しい結果となった」などとしながら「政府としては、4、5月を底として経済を内需主導で成長軌道に戻していくことができるよう、引き続き、当面の経済財政運営に万全を期す」などと述べた。
7月の全国輸送実績66.7%
新型コロナウイルス禍の影響で個人消費のマイナスを中心に日本経済が大きく減速する中だが、全国のタクシー需要は、緊急事態宣言が発出された4月.5月を底に、徐々にだが需要回復の途中にある。
全国ハイヤー.タクシー連合会がこのほど、7月の新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入の変化(サンプル調査)をまとめた。全国の営業収入の前年同期比(単純平均)は66.7%で、新型コロナウイルス禍が限定的だった3月の67.3%とほぼ同水準にまで回復した。
新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が発出された4月の前年同期比37.9%、5月の37.2%を底に、6月は59.8%、そして7月は66.7%にまでタクシー需要は戻しているという状況だ。
大都市を含む道府県では、大阪の対前年同期比78.9%や兵庫(神戸)の77.6%、北海道(札幌)の76.5%、広島の76.2%、埼玉(さいたま)の76.2%、神奈川(横浜)の75.7%などが大きく回復しているほか、高知の90%をトップに、長崎85.8%、宮崎81.6%、沖縄77.5%、佐賀75.3%、岡山74.8%、三重72.7%、山口72.2%、島根70.5%などが対前年同期比で70%を超えた。
京都の前年比38.7%
一方で、全国単純平均の対前年同期比66.7%でも、昨年実績の3分の2ということであり、新型コロナウィルス感染症の収束時期に見通しが立っていない中で、ワクチンなどの抜本的な対策が整わないままに秋以降に新型コロナウイルスの感染が再拡大する懸念もあり、タクシー需要の先行きは楽観視できない状況にある。また、需要回復の程度も拡大しており、インバウンドを中心に観光需要が大幅減となっている影響から全国でも突出してタクシー需要が低迷している京都が、対前年同期比で4月の20.1%、5月の14%、6月の17.7%からは回復しているものの、7月も38.7%で、全国で唯一、前年同期実績の50%を下回っている。
東京のタク需要回復が遅れる
また、東京も、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、都心のタクシー需要を担う大手企業における在宅勤務の拡大による法人需要の減少に加え、全国の都道府県で唯一、政府の「Go Toトラベル.キャンペーン」から除外されたという社会的.心理的な影響による東京訪問の自粛などもあり、対前年同期比の全国平均66.7%を大きく下回る52.2%にとどまっており、都内の中小タクシー事業者からは「このまま乗務員の休業措置を解除してタクシー稼働を増やしていけば、供給過剰から最低賃金に抵触する乗務員が再び増えることになってしまうのではないか」などとする懸念も出ている。
タクシー需要回復が、近隣県などとの比較で遅れているのは、京都や東京のほか、仙台を中心とした宮城(58.2%)、山形(57.3%)、富山(57.4%)と石川(53.4%)、長野(52.7%)の北陸信越の3県、静岡(59.5%)、名古屋を中心とした愛知(62%)、鳥取(60.9%)、徳島( 61 .3 %) と香川(58.4%)、福岡(61.3%)、鹿児島(60.5%)などで、東京、宮城(仙台)、愛知(名古屋)、京都、福岡など大都市圏でのタクシー需要回復の遅れが目立っているが、一方で大阪の78.9%や兵庫(神戸)の77.6%、北海道(札幌)の76.5%、広島の76.2%、埼玉(さいたま)の76.2%、神奈川(横浜)の75.7%など、大都市を含む府県でも全国平均を超えて大きく回復しており、地域差も拡がっている。
東タク協の7月原計実績
また、需要回復が遅れている東京の7月の輸送実績は、東京ハイヤー.タクシー協会(川鍋一朗会長)がこのほどまとめた令和2年7月の東京都特別区.武三地区における原価計算対象26事業者1701台の輸送実績速報をみると、実働率は71.2%(前年同月実績87.4%)で、6月の実働率65.1%から6.1ポイントのプラスで、乗務員の計画休業措置を解除する事業者が増えていることから、稼働率および延べ実働車両数(14.4%増)は増加傾向にある。
稼働増で実働日車営収は横ばい
一方で、タクシーの需要回復と供給増が同時並行で行われていることから、7月の運送収入は6月との対比で15.1%増だったのにもかかわらず、実働日車営収は3万5525円で、6月の3万5306円からは0.6%の増にとどまった。このため昨年7月の実働日車営収5万368円との比較では70.5%と、7割の水準で、乗務員の勤務に対する意欲を確保して他産業への流出を防ぐためにも、実働日車営収の推移を注意深く検証しながら、雇用調整助成金の活用による乗務員の休業措置も併用しながらタクシー稼働を慎重に増やしていく必要がある。
多摩が特別区・武三を上回る
さらに、東京都心のタクシー需要の低迷が深刻なのは、同じく東タク協がまとめた東京都多摩地区の令和2年7月の原価計算対象16事業者909台(うち普通車は876台)の輸送実績速報との比較からも明らかで、特別区.武三地区の運送収入の対前年対比が59.4%だったのに対して、多摩地区は73.8%と、14.4ポイントもの差がついている。もっと深刻なのは実働日車営収で、特別区.武三地区は3万5525円で対前年比70.5%、多摩地区は3万9326円で対前年比86.2%。
日本一の高営収を誇ってきた特別区.武三地区のタクシーが、原価計算対象事業者の比較で多摩地区よりも実働日車営収が約3800円も低かった。昨年7月は、特別区.武三地区が5万368円、多摩地区が4万5617円で、特別区.武三地区の方が多摩地区より約4750円高く、新型コロナウイルス禍からのタクシー需要回復の過程で特別区.武三と多摩の逆転現象が発生したことになる。
「東京都心の潤沢な法人需要をベースとした流し営業」が特別区.武三のタクシー営業を支えてきたが、新型コロナウイルス感染症の収束時期に目処が立たない中で、在宅勤務を中心とした大手企業のテレワーク推進などの新しい働き方.生活様式への対策も含め、配車アプリのさらなる活用、通勤シャトルなどの新しい需要の創造と取り込みなど、「新しいタクシーの利用スタイルの提案」も必要だ。
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8月のお盆も移動自粛の影響大
政府は、新型コロナウイルス感染拡大で甚大な影響を受けている観光関連産業の支援のため、「Go Toトラベル・キャンペーン」を実施しているものの、観光客や旅客の供給で中心となる東京がキャンペーンの対象から除外され、さらには新型コロナウイルスの感染拡大で都道府県境を超える移動や旅行の自粛を要請する知事もいて、「Go Toトラベル・キャンペーン」の実施時期も含めて、効果を疑問視する声や批判は多い。そうした中で迎えた今夏のお盆休みは、新型コロナウイルスの感染拡大が影響し、東京などから故郷に向かう鉄道、航空、高速道路とも激しい混雑がないまま終了した。8月16日の日曜日も例年のようなUターンラッシュは発生せず、JR東京駅や羽田空港なども閑散としていた。
JR東日本、西日本、東海、北海道、四国、九州のJR旅客6社は8月18日、お盆期間中(8月7日~17日)の利用実績を公表したが、東海道、山陽、九州、東北、北陸(長野)、上越、山形、秋田、北海道の各新幹線は、対前年比の利用者数が軒並み10~20%台という大幅な落込みとなった。
全国の在来線特急列車も、ほとんどが対前年比の利用者数が軒並み50%未満で、新型コロナウイルスの感染拡大による帰省や旅行の自粛、イベントの中止などが利用減に大きく影響した。
お盆の国内線搭乗率30%台
国内主要航空会社も8月17日、お盆期間中(8月7日~16日)の利用実績を発表したが、航空旅客輸送については、ゴールデンウィーク期間に比べると旅客の回復は見られるものの、新型コロナウイルス感染症の再拡大の影響を受け、国内線においても8月に入ってからの追加の減便や運休が発生。旅客数は概ね昨年の3~4割程度。利用率もジェットスタージャパンを除いては5割を下まわる実績となった。日本航空を中核とするJALグループ(JAL、JAIR、HAC、JAC、JTA、RAC)の国内路線は、減便や旅客機の小型機への変更などで提供座席数が前年比74.1%の89万707席だったが、旅客数はさらに大きく減って前年の約3分の1となる前年比33%の34万6106人にとどまった。このため搭乗率は、お盆時期ながら38.9%に低迷し、前年の87.3%から48.4ポイントもの大幅減となった。
全日空の国内線も、提供座席数が前年比79.3%の146万4721席で、旅客数はこちらもさらに大きく減って前年比30.4%の47万8650人にとどまった。搭乗率は、3分の1未満の32.7%で、前年の85.3%から半減以下となる52.6ポイントもの大幅減だった。
JALとANA、9月はさらに減便
このため、日本航空と全日空では、新型コロナウイルスの感染拡大で旅行や出張を控える動きが広がっていることから、両社とも9月は国内線のおよそ4割を運休や減便とし、運航本数を大きく減らすことを決めた。
日本航空が発表した運航計画では、9月の前半は国内線の43%を運休や減便とし、減便の割合は8月の28%から15ポイント拡大する。
また、全日空が発表した国内線の運航計画によると、9月は羽田と大阪(伊丹)、札幌などを発着する便など幅広い路線で運航本数を減らし、運休や減便となるのは全体の45%に当たる1万400便余りに達するという。減便の割合は25%だった8月から20ポイント拡大する。
日本航空と全日空は、緊急事態宣言が発出されていた今年5月には国内線の70~80%を運休や減便としていたが、緊急事態宣言が解除されて移動の自粛が緩和されるのに合わせて徐々に運航本数を回復させてきた。しかし、全国各地で感染者が再び増加する中で、このお盆期間中の国内線の搭乗率が30%台にとどまり、政府の「Go Toトラベル・キャンペーン」が実施されている中でも9月の予約が伸び悩んでいることから、再び運航本数を減らす対応をとることになった。9月の後半には「敬老の日」や「秋分の日」の連休(シルバーウィーク。土曜も含めて4連休)が控えているものの、航空各社は慎重に需要動向を見極めながら、引き続き運航計画を見直す意向だ。
お盆の都内タクは比較的堅調
一方で、東京都内のタクシーは、東京が新型コロナウイルスの感染拡大から政府の「Go Toトラベル.キャンペーン」の対象外となったこともあり、帰省や他の道府県への旅行を自粛したこと、さらには連日の炎天下から、例年との比較では、帰省などで東京都心から人がいなくなるお盆時期特有の需要の落ち込みが緩和されたようだ。
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