緊急事態宣言解除も平常化は遠く タクの需要不足と需給ミスマッチ (Taxi Japan 369号より)

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府は5月25日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を、東京を含む全国で解除したが、東京都の小池百合子知事は6月2日、新型コロナウイルスの新規陽性者数が基準を超えたとして都独自の警報「東京アラート」と発令した。「東京アラート」には法的拘束力は無いものの、レインボーブリッジと都庁には赤い警戒色の照明が灯った。

それでも、外出自粛と大手企業を中心とした在宅勤務によるテレワークなどで閑散としていた東京都心にも人出が戻りつつあり、JR東日本がまとめた6月1日からの1週間の輸送状況では、平日朝の通勤時間帯における山手線の利用者は前週から33%増加したものの昨年同期の半数弱で、土日は3~4割の水準。都市における主要なタクシー利用層であるビジネスマンは在宅勤務によるテレワークが定着化する方向にあり、景気の先行きに不透明感が増す中で、大手事業者を中心に「年内におけるタクシー需要回復は7割程度までではないか」とする見方も出ている状況だ。

現在の危機的な状況を乗り越えていくため、当面は低迷する需要と供給のミスマッチを回避するための効率的なタクシー運行を目的とした勤務シフトや出番の調整に加え、需要不足を補うための施策が必要な状況で、政府による観光振興策「GoToキャンペーン」などへの積極的参画、地方自治体や他産業との連携なども含め、タクシーを利用してもらうための需要の掘り起こしが急務だ。

〈本紙編集長=熊澤 義一〉

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経経済基調は急速な悪化が続く


内閣府が5月28日に発表した、令和2年5月の月例経済報告では「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、急速な悪化が続いており、極めて厳しい状況にある」と指摘した上で、「先行きについては、感染拡大の防止策を講じつつ、社会経済活動のレベルを段階的に引き上げていくが、当面、極めて厳しい状況が続くと見込まれる。金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある」として、日本経済の基調を4月に続いて「急速に悪化し、極めて厳しい状況」にある判断した。

項目別では、個人消費について「急速な減少が続いている」としたほか、企業収益は「急速に減少している。企業の業況判断は、感染症の影響により、急速に悪化している」とし、雇用情勢についても「弱さが増している」とした。

月例経済報告 休業者数

対前年営収比が33.8%に


全国ハイヤー・タクシー連合会(川鍋一朗会長)はこのほど、新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入の変化(サンプル調査、5月26日時点)をまとめたが、令和2年5月1日~15日における全国の営業収入の前年同期比(単純平均)は33.8%と、前年実績と比べて約3分の1にまで減少。2月の96.3%から、3月は67.3%、4月37.9%、そして5月1日~15日は33.8%と、全国でタクシー需要は急速に収縮。

特に、5月1日~15日の前半はゴールデンウィーク期間を含んでいたこともあり、日本を代表する観光地である京都が、対前年比13.4%と全国一の減少幅となった。北陸の古都・金沢がある石川と、富士山観光などで東京からの観光客も多い山梨がそれぞれ19.3%で、1府2県が対前年同期比で10%台となった。

20%台は福岡や沖縄など11県。30%台が東京の36.4%や大阪の39.4%など23都府県で最も多く、40%台が北海道の45.7%など10道県だった。対前年実績比で50%以上となる都道府県は無かった。

栃木県でタク3社が廃業


全国でタクシー需要が急激に収縮し、営業収入が激減する中で、廃業や経営破綻するタクシー会社が増えつつあり、例えば、栃木県では、栃木市の富士タクシー(11台)が5月8日、小山市の富士交通(11台)が5月27日に、それぞれ栃木運輸支局に廃業届を提出したほか、栃木市の栃木交通(11台)も6月20日で事業廃止する予定となっている。栃木県タクシー協会では「各社とも資金繰りに窮しており、廃業がさらに出かねない」などと危機感を強めている。

こうした中で、栃木県タクシー協会の荒井勝会長(泉タクシー)は6月3日に栃木県庁を訪れ、福田富一知事に、栃木県内のタクシー(会員のうち9社)の5月1日~15日の営収が対前年同期比で28.8%まで減少し、特に観光地である日光のタクシーは15%を割り込んだこと、3社が廃業、2社が9月30日まで事業休止することなどを説明して、自動車税の減免や経営支援策などを要望した。

また、栃木県の宇都宮市商工会議所では、栃タ協とも連携して、市内での買い物や飲食を目的としたタクシー利用に対し、アンケート調査に協力することを条件に初乗り運賃相当額の740円を補助する取り組みを6月15日からスタートする。期間は8月末までで予算は300万円。宇都宮商工会議所では「市内の飲食業や小売業、サービス業はいずれも厳しい状況にあり、消費者とタクシーを結び付けることで地域経済がうまく回ることを期待したい」などとしている。

休業者数が597万人に急増


総務省統計局が5月29日に公表した令和2年4月の完全失業率は2.6%、完全失業者数は189万人で、ともに3カ月連続の増加となった。

完全失業率は、2月が2.4%、3月2.5%、4月2.6%で上昇傾向にあるものの、上昇度合いは緩やかだ。一方で、休業者数については、雇用調整助成金制度の拡充などもあって、2月の196万人から、3月249万人、そして4月は597万人へと急増しており、2月との比較で4月の休業者数は約3倍にまで増加、昨年4月との比較でも420万人の大幅増となっている。「これらの休業者の中には多くの”隠れ失業者“がいる。休業していても企業には固定費負担があり、いつまでも休業というわけにはいかない。景気が一段と悪化することになれば、いずれは失業者として顕在化してくるのではないか」とする見方があり、企業業績の深刻な悪化を背景に、夏以降に失業率が急上昇するという懸念も出ている。

都庁

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求職者増で乗務員の若返り


乗務員の不足と高齢化が同時進行するタクシー業界では、年金を受給しながら働く年金併用乗務員が増加の一途を辿っているが、一方で、政府は、社会保障改革の一環として短時間労働者の社会保険加入の適用拡大を段階的に進めることにしており、令和4年10月からは従業員101人以上、令和6年10月からは51人以上の事業所で短時間労働者の社会保険加入が義務付けられる(現在は501人以上)。そうなると2~4年後には多くの中小タクシー事業者において年金併用乗務員が退職することも想定され、若手を中心としたタクシー事業者の中からは「失業率が上昇して求職者が増えることになるのであれば、この機会に乗務員の若返りと企業の新陳代謝を図ることも将来を見据えて必要になって来るのではないか」などとする見方も出て来ている。

31兆円の第2次補正予算


政府は、新型コロナウイル感症拡大とそれに伴う経済活動自粛の影響による景気悪化に対処するため、総額31兆9114億円の第2次補正予算案を6月8日に国会に提出。

第二次補正予算案では、雇用調整助成金の1日当たりの上限額を現行の8330円から1万5000円に引き上げるとともに、緊急対応期間を現在の「6月30日まで」から「9月30日まで」に3か月延長、解雇を伴わない場合の助成率を「中小企業は5分の4」から「中小企業は10分の10」にまで引き上げるほか、勤務先から休業手当を受け取れない労働者を対象に月額で最大33万円を支給する新しい休業給付金制度の創設などに4519億円を盛り込んだ。

日本政策金融公庫や日本政策投資銀行、民間金融機関などを通じた企業の財務基盤の強化策や無利子・無担保の融資制度など資金繰り支援の拡充に11兆6390億円、企業の固定費負担軽減を目的とした家賃支援給付金(仮称)を創設して、法人の場合は月額50万円(複数の営業所がある場合には月額100万円)を上限に6カ月分の家賃の3分の2を給付する。

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地方創生臨時交付金の活用


また、「地方創生臨時交付金」を2兆円増額。国土交通省では地方創生臨時交付金の活用に関して「各自治体において、タクシーへの支援に地方創生臨時交付金を活用予定」などとしており、例として、感染防止対策では、石川県金沢市の「公共交通感染症防止対策補助金」(補助率2分の1以内で、タクシーなどの公共交通事業者が実施する感染症防止用設備の取得や車両等の消毒作業を支援。消毒設備や機器は1台25万円、消毒はタクシー1台2万円まで)や、静岡県沼津市の「沼津市新型コロナウイルス対策バス・タクシー感染拡大防止支援事業補助金」(市内に営業所を置くタクシー事業者に対してタクシー1台につき1万円を上限に補助金給付)などを紹介。同様の取り組みは、静岡県、静岡県裾野市、奈良県(香芝市、桜井市、奈良市、大和郡山市、大和高田市、大淀町)、兵庫県宍粟市などでも検討されているとしている。

新型コロナウィルス感染症の影響による営業収入の変化

タク運行補助や貨物運送支援


事業継続のためのタクシーの 運行費に対する補助では、沖縄 県宮古島市の「宮古島市公共交 通確保支援事業」(タクシーの 稼働率を3割以上にすることを 目的として、売上を除いた運行 経費の3分の2を補助)、岐阜 県郡上市の「観光事業者経営安 定化補助金」(タクシー等の施 設固定費について法人は月150万円、個人は月 10 万円を上限 に2分の1を最長3カ月支援)、さらに、タクシーによる貨物運 送等への支援では、沖縄県うるま市の「出前タクシー」(市内 飲食店を対象に1500円以上 のテイクアウト商品の宅配費用 を市が上限1500円で負担)、富山県中新川郡上市町の「買い物代行サービス」(医療機関から体調不良のため自宅で待機す るよう指示された住民を対象に、町内タクシー2社に委託し た買い物代行サービスについて町が配送料を負担)などの取り組みを紹介し、山形県、山形県 新庄市、静岡県御殿場市、兵庫県、鹿児島県鹿児島市などにおいても活用予定や検討中だとしている。

観光振興策GoToキャンペーン


また、影響が長期化した場合に 備えて予備費を 10 兆円積み増しして、このうち半分の5兆円については生活支援や医療提供体制の強化などに充てるとしている。  

政府は、今通常国会の会期末 となる6月17 日までに第2次補 正予算の成立を目指す考えだ が、野党側は「持続化給付金の不透明な委託に加え、雇用調整 助成金はオンラインシステムが全く機能せず、(観光振興策の)『GoToキャンペーン』に 至っては一からやり直しで、いつになったらお金が届くか分からない」(立憲民主党の安住淳・ 国会対策委員長)などと政府の不透明な補助金事務委託のあり 方を批判しており、野党側は会 期の延長を求める方向だ。  

このため、観光地のタクシー事業者を中心に需要喚起策として期待を集める政府の観光振興策「GoToキャンペーン」(旅行者1人1泊当たり2万円を上 限に補助。補助の内訳は、7割が宿泊費、残り3割がパッケージツアーや手配旅行に含まれる 観光タクシー、観光施設、飲食や土産などに利用できるクーポ ン)の実施時期についても、当初予定の7月から遅れる見通しとなっている。

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企業で在宅勤務が定着化へ


一方で、大手企業を中心に、 新型コロナウイルス感染症の拡大で広まった在宅勤務によるテレワークについても「新しい生活様式」や「新しい働き方」のひとつとして定着する方向にあり、例えば、世界最大手のガラスメーカーであるAGC(旧社 名は旭硝子)は、在宅勤務経費として年間 12 万円を補助するほか、フリーマーケットアプリ大手のメルカリは、通勤費の定額支給を廃止して在宅勤務経費として半年で6万円を補助、大手IT企業のGMOも原則として在宅勤務を継続しながら必要に応じて出勤する「新しい働き方」に5月26日から移行している。大手日用品メーカーのユニ・チャームは、工場勤務者を除く約2000人の社員を対象 に6月1日から原則として週2日を在宅勤務とし、ビール大手のサッポロホールディングスとサッポロビールでは部署ごとに出勤する人数を上限5割とする「新しい働き方」を6月1日から導入した。  

また、働く場所を選ばない在宅勤務に対応した新しい雇用形態として職務内容を明確化したジョブ型の人事評価制度を導入する動きも顕在化しており、資生堂(来年1月から約8000人のオフィス社員にも適用)や 日立製作所(来年4月から約2万3000人の社員を対象に導入)、富士通(今年度から課長級以上の管理職から導入して順次拡大)などが対応をスタートさせている。  

NHKが5月19 日~ 29 日にかけて国内の製造業や小売業、金融業など幅広い業種の大手企業 100社を対象に実施したアンケート調査でも、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて見直しを検討しているものとして 8割以上の企業が「テレワークの活用など新しい生活様式に対応した働き方」と回答している状況だ。

タクシーを移動するオフィスに  


大手企業を中心としたビジネスマンは、都市における主要なタクシー利用層であり、タクシーを「テレワークに対応した移動するオフィス」として新たな価値を付加した形での利用をアピールするなど、車種の選定や社内設備、車載機器のあり方も含めて、タクシー側でも「新 しい生活様式」や「新しい働き 方」への対応が必要だ。

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次回Taxi Japan 370号 をお楽しみに!

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