緊急事態宣言の解除から1カ月余 課題は需要回復期でのタク稼働 (Taxi Japan 370号より)

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新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が5月25日に東京を含む全国で全面的に解除されてから1カ月余り経過した。全国的には新型コロナウイルスの新規感染者数は低位に推移しているものの、緊急事態宣言解除からの1カ月間で、東京の新規感染者数は788人となり、全国の過半数を占める状況となっている。その東京でも6月11日に都独自の新型コロナウイルス感染症への警戒警報である「東京アラート」が解除され、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の結果として大きく停滞した経済の再開に向けた動きが全国で始まっている。タクシー業界においても、6月中旬頃から感染予防対策を実施しながらタクシー営業を正常化する動きがスタートした。

一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策による外出自粛要請や大手企業を中心とした在宅勤務によるテレワークの拡大などの影響で都内のタクシー需要が激減したことから、雇用調整助成金を活用するなどして乗務員を休業させる事業者が増加、東京都内では大手事業者を中心に50%程度の稼働削減に取り組んだこともあって、特別区・武三地区における原価計算対象事業者の5月の実働率は38.2%と、4月の53.6%からさらに低下。実働車両数も大きく減ったことから、全体の運送収入は4月と比べて81.4%に減ったものの、実働日車営収は2万7825円と、4月の2万2511円から23.6%の増となった。それでも昨年5月の4万3429円と比較すると、3分の2弱の64.1%でしかない。

人出が戻り、企業が通常勤務体制に移行することによるタクシー需要の回復と、タクシー供給量増加のバランスが保てるのか、夜のタクシー需要回復の足取りが重いだけに、タクシー配車アプリの需要予測機能をブラッシュアップし、大手携帯通信事業者などとも連携することで、より精緻なタクシー需要の把握と、需給ミスマッチの解消が、タクシー需要の回復期における乗務員の生産性維持と向上には不可欠だ。

<本紙編集長=熊澤 義一>

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東京で新規感染者が増加傾向


東京都内では、6月11日の東京アラートの解除後に新規感染者数が再び増加する傾向を示しており、6月下旬の6月28日の新規感染者数は60人、6月29日が58人、6月30日が54人と、東京アラート解除直前の5月10日の10人、11日の15人と比べると、増加傾向にあることは否めない状況だ。ただ、1日当たりの新規感染者数が4万人を超えているアメリカなどと比較すれば、安心や楽観はできないが「新型コロナウイルス感染防止対策をとりながら経済再開に向けた取り組みを着実に進めていく」というのが、日本の現状だろう。

一方で、社会経済における東京への一極集中が進む中で、東京での新規感染者数が再び急激な増加に転じるような事態になれば、アメリカの一部の州のように経済再開後に再び新規感染者数が急増して再度ロックダウンが検討されるような状況にもなりかねず、緊急事態宣言が再び発令された場合における日本経済に与えるマイナスのインパクトは、景気後退が顕著なだけにタクシー需要も含めて想像を絶するほどの悪影響になることだけは確かで、なんとしても回避しなければならない。

東京で新規感染者が増加傾向

タクの感染予防対策が進む


タクシー業界では、新型コロナウイルス感染防止対策として、乗務員や営業所役職員のマスク着用や手洗いの徹底、出庫前の検温、乗客が降りた後の車内消毒、さらには、タクシー車内前方の運転席側と、乗客が座る後席側を透明なビニールシートなどで隔てる「飛沫感染防止カーテンセパレーター」、車内の微粒子を回収する高効率な空気清浄機を搭載するなど、不特定多数の利用者を乗せるタクシーとして出来る限りの対策をとっている状況であり、東京都(飛沫感染予防対策にタクシー1台当たり8000円を上限に費用の5分の4を補助。申請受付は11月30日まで)など全国の多くの自治体で感染予防対策への補助事業が始まっている。

しかし、これから蒸し暑い夏を迎えることから、冷房によるタクシー車内温度の管理と乗客の快適性確保、さらには熱中症対策も必要で、飛沫感染防止のカーテンセパレーターの設置状況、窓を開けての喚起についても、運用上の十分な留意が必要だ。

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特区武三5月2万7825円


政府は6月19日に新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として自粛を要請していた都道府県境をまたぐ移動を全面的に解禁した。東京都内でも新宿や渋谷、銀座などの繁華街に人手が戻りつつあり、休業していたり、テイクアウトのみだったりしていた飲食店でも通常営業を再開する店舗が増えているが、ホストクラブやキャバクラなどを中心とした夜の接待を伴う飲食店で新型コロナウイルスの集団感染が発生したこともあり、夜のタクシー需要が戻るのには時間がかかりそうな状況だ。

東京ハイヤー・タクシー協会(川鍋一朗会長)がこのほどまとめた、東京都特別区・武三地区における令和2年5月の原価計算対象26事業者(1703台)の輸送実績速報では、実働日車営収が2万7825円と、4月の2万2511円から23.6%の増だった。稼働削減による実働車両数の減少が、需給バランスの改善に寄与したことが伺える。

新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策による外出自粛要請や大手企業を中心とした在宅勤務によるテレワークの拡大などの影響で都内のタクシー需要が激減したことから、雇用調整助成金を活用するなどして乗務員を休業させる事業者が増加、大手事業者を中心に50%程度の稼働削減に取り組んだこともあって実働率は38.2%と、4月の53.6%からさらに低下。実働車両数も大きく減ったことから、全体の運送収入が4月と比べて81.4%と減ったものの、実働日車営収は2万7825円と、4月の2万2511円から23.6%の増となった。それでも昨年5月の4万3429円と比較すると、3分の2弱の64.1%でしかない。

東京都特別区・武三地区 原価計算対象26 事業者1703 台 輸送実績速報

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輸送回数減でも迎車回数増


4月と比べた営収増については、稼働削減により需給バランスの改善が進んだことが推察されるが、一方で、輸送回数が4月から12.5%減っているにもかかわらず、逆に迎車回数は1.2%増となっており、供給が減って流しタクシーが乗りづらくなった分、利用者が配車アプリなどを使用してタクシーに乗車したことが伺える。

緊急事態宣言に続き、東京と独自の警戒警報である「東京アラート」も6月11日で解除されたことから、6月中旬からは大手事業者を中心にタクシーの稼働を平常体制に戻す動きが強まっており、都心に人出が戻り、企業が通常勤務体制に移行することによるタクシー需要の回復と、タクシー供給量増加のバランスが保てるのか、夜のタクシー需要回復の足取りが重いだけに、中小事業者を中心に乗務員の営収がどう推移していくのか、期待と懸念が入り混じっている状況だ。

コロナ禍において存在感を増しつつあるタクシー配車アプリの需要予測機能をブラッシュアップし、大手携帯通信事業者などと連携することで、より精緻なタクシー需要の把握と、需給ミスマッチの解消が、タクシー需要の回復期における乗務員の生産性維持と向上には不可欠だ。

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5月の京都は前年比14%


全国ハイヤー・タクシー連合会(川鍋一朗会長)が実施しているサンプル調査による「新型コロナウイルス感染症の影響による営業収入及び輸送人員の変化」では、前年同月対比の営業収入のマイナス度合いが、4月から横ばい、もしくは若干の改善がみられる地域もあるが、その一方で京都は4月の対前年同月比20.1%がさらに悪化して同14%と、8割以上のタクシー需要を喪失すことで危機的状況が一段と深刻化しているほか、観光地の金沢がある石川も4月の26.2%から5月は21.8%へと減少。

本紙編集長が6月27日(土)に京都を訪れると、渡月橋や清水寺などの有名観光地でも人出はそれほどでもなく、昨年は「観光公害」とまで言われた訪日外国人観光客らによって乗車できないほどに混雑していた市内の寺社を循環する京都市営バスも、ゆったりと着席できるような状況だった。京都駅前のタクシー乗り場からタクシーに乗車する観光客も少なく、新型コロナウイルス禍が収束するまでの当面の間は観光客だけに頼らないタクシー需要の掘り起こしが喫緊の課題だと感じた。

新型コロナウィルス感染症の影響による営業収入の変化(全タク連が実施したサンプル調査)

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京都・都タクが車いす配車対応


そうした中で、京都のタクシー業界では、大手の都タクシー(筒井基好社長、京都市南区)では、タクシー配車アプリ「Japan Taxi」から、車いす対応車を選択的に選んでアプリ配車が出来る仕組みに全国で最初に対応。

本紙編集長が、京都駅近くの宿泊先ホテルの前で配車アプリ「Japan Taxi」を立ち上げ、タクシー会社一覧から「都タクシー」を選択すると、「車いす対応車両(スロープ不要)」または「車いす対応車両(スロープ)」から選んで配車を受けることが可能となっていた。アプリ画面上には、目的地の清水五条まで「事前確定運賃900円」、「お迎えまで約1~6分」などと表示され、最初はアプリ操作に慣れが必要かもしれないが、車いす利用者が気兼ねなくタクシーを利用できる、とても良い取り組みだと感じた。

従来からのタクシー需要が新型コロナウイルス禍で激減する中で、タクシーが地域公共交通の担い手としての役割を社会にアピールし、新たなニーズを掘り起こしていくためにも、こうした取り組みは早急に全国に拡がっていって欲しい。

車椅子配車対応アプリ

京都イメージ

京都・弥栄自動車が花街支援


また、京都の老舗タクシー大手の弥栄自動車(粂田佳幸社長、京都市下京区)では6月24日、芸舞妓の送迎などでタクシー利用の得意先でありながら新型コロナウイルス禍の影響で客が激減している京都の五花街(祇園甲部、祇園東、先斗町、上七軒、宮川町)を応援するため、お茶屋や芸妓らに178万5000円分のタクシー利用券(500円券を3570枚)を贈った。

弥栄自動車は、大正初期の創業期に京都の花街専門のハイヤーとして現在につながるタクシー事業をスタートさせた経緯があり、新型コロナウイルス禍による客の激減に苦しむ京都の花街を支援する。

タクシー利用券による支援の取り組みでは、東京無線協同組合(坂本篤史理事長、都内新宿区)も6月12日に、一般社団法人東京都病院協会を通じて医療関係者支援のために100万円分のタクシー乗車券を贈った。

京都駅イメージ

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令和2年度交通政策白書


国土交通省はこのほど、「令和元年度交通の動向 令和2年度交通施策」と題した令和2年度の交通政策白書をまとめた。

白書では、「第2章 輸送量とその背景及び交通事業等の動向」において、国内旅客輸送に関して「我が国の国内旅客輸送量(人ベース、自家用車によるものを除く)は、1991(平成3)年をピークに2004年まで減少した後、緩やかな増加に転じたが、リーマンショックが発生した2008年を境に再び減少に転じ、2011年を境に再度緩やかな増加に転じた」としながら、「2011年度以降の国内旅客輸送量(人ベース)の変動を交通モード別にみると、鉄道や乗合バスは緩やかな増加傾向にあり、航空はリーマンショック前の水準まで回復し、ここ数年は増加傾向にある。一方で、旅客船はここ数年横ばい、タクシーは長期にわたり減少が続いている」として、タクシーだけが需要を減らし続けている実態を指摘。

その上で、鉄道については「緩やかに増加している背景には、都市部を中心とした人口や就業者の増加に伴う定期利用者の増加や、新幹線の路線延長に伴う利用者の増加のほか、近年の訪日外国人旅行者の利用増加もあると考えられる」とし、乗合バスは「緩やかに増加している背景には、鉄道と同様に、都市部を中心とした人口や就業者の増加に伴う定期利用者の増加、訪日外国人旅行者による利用の増加があると考えられる」とした。

令和2年度交通政策白書

国内旅客輸送量

タクだけが長期に需要減少


タクシーについては「長期にわたり減少が続いている背景には、法人利用の減少、他の交通機関と比較した運賃や料金の割高感の影響があると考えられる。近年では、運転手不足によるタクシー車両の実働率の低下、夜に飲食店から利用する客の減少の影響も指摘されている」などとしており、タクシー産業が抱える構造的な課題を挙げている。

交通政策白書で挙げられたタクシーが抱える構造的な課題うち、法人利用の減少、運転手不足、夜の飲食店から利用する客の減少などは、新型コロナウイルス禍によって、さらに強まり顕在化する恐れがあり、これからのタクシー事業の「ウィズ・コロナ」そして「アフター・コロナ」を念頭に、抜本的な対処策を早急に講じるかどうかがタクシー産業の浮沈に直結してくることになる。

日本総人口の推移

大阪イメージ

日本は人口減少社会に


総務省が5月20日に発表した、令和2年5月の日本の人口推計では、1億2590万人で、前年同月に比べて29万人の減。日本が少子高齢化による人口減少社会に入っていることを示しており、日本全体の人口が減りつつある中で、東京(経済圏)への一極集中が進んでいる状況だ。

地域経済の疲弊と過疎化が進行する地方では、路線バスやタクシーが民間ベースの事業として成立しなくなり、地方自治体の運行補助にも限界があることから、ボランティアベースの自家用有償旅客運送の導入が拡大しているものの、ボランティアベースの自家用有償旅客運送については「移動手段としての信頼性に欠ける」という構造的な欠陥があり、最近のコロナ禍においては、感染を懸念する高齢者中心のボランティアドライバーが運送引き受けを辞退するケースも散見されたようで、地域住民にとって必要不可欠な移動手段を担うという機能が果たせないことを露呈した。

地域経済の疲弊と過疎化が進む地方において、移動手段としての信頼性を確保して地域社会を維持していくためのタクシーや路線バスをはじめとする公共交通をどうやって存続させていくか、地域経営という観点から地方自治体が主体となる形で考えていく必要がある。そのためには権限と財源の国から地方への移譲も必要だ。

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東京の人口が1400万人に


その一方で、東京都が集計した令和2年5月1日現在の東京都の人口は、前月より2万351人増加して1400万2973人となり、東京の人口が1400万人を超えることになった。

内訳は、特別区が969万6631人で前月より1万4543人の増、多摩地区が422万5504人で5515人の増、伊豆大島などの島しょ地区が2万4686人で335人の増で、特別区だけでなく島しょや多摩でも人口増だった。

特別区では、世田谷区が94万4977人で最も多く、次いで練馬区の74万6051人、大田区74万3923人、江戸川区69万5791人、足立区68万5478人の順。

多摩地区では、八王子市の57万6760人が最も多く、町田市43万4662人、府中市26万4242人、調布市24万646人、西東京市20万7036人の順だった。

特別区の人口969万人は別格としても、多摩地区の422万人も、人口規模としては政令指定都市のある静岡県の370万人や広島県の284万人、京都府の261万人、宮城県の233万人、新潟県の230万人などよりも多く、特別区を中心とした東京経済圏(神奈川、千葉、埼玉の東京隣接地域を含む)への一極集中ぶりを表す形となっている。

東京臨海副都心で再開発


そうした状況の中で、一極集中が進む東京の臨海部に位置する江東区の有明地区に、新しい大型商業施設である「有明ガーデン」が6月17日にオープンした。200を超える店舗が出店したほか、ライブイベントや国際会議も開催できる大型ホール、24時間営業の温浴施設「泉天空の湯 有明ガーデン」も同時に開業した。

「有明ガーデン」は、10.7ヘクタールの広大な臨海地区の敷地を住友不動産が中心となって開発したもので、大型ホテルの「ヴィラフォンテーヌグランド東京有明」が8月、劇団四季の劇場も来年開業する予定。また、合計で1539戸が入居するタワーマンションも3棟が新築され、入居も始まっている。まさに、ひとつの新しい街が誕生することになる。住友不動産では当初年間1500万人を超える来客を見込んでいたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で現在は来客見込数を発表していない。

東京湾臨海部の江東区有明地区は、2001年には居住人口が300人に満たなかったが、大型タワーマンションの開設ラッシュで人口は年々増加しており、現在は人口が1万1000人を超えるまでになっている。さらに「有明ガーデン」の開設で周辺人口が増えていくことになりそうだ。公共交通機関としては、新交通「ゆりかもめ」の有明駅や有明テニスの森駅、りんかい線の国際展示場駅などが最寄りとなるほか、都バスのターミナルが設置される。タクシーの新たな需要先としても期待できそうだ。

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次回Taxi Japan 371号 をお楽しみに!

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